ふわりふわふわ白が降る
はくり空で閉じた口内は
仄かな甘味にただ噤む
道を白く染める粉を
ぎゅっと握る目が合った
「あったかいね」
「そうだね」
突付けば直ぐに崩れる白玉は
風に舞う先透明に溶け落ち
悴まない指先もまた
透明にべとついた
「帰りたいね」
「……そうだね」
冷たく凍える世界だった
天地程異なる厳しい世界だった
それは間違いなくそうだった
それでもどうしてもこの世界を
常春のお菓子の国を愛せない
‹あたたかいね›
鍵束を持っていた
酷く重くてやけに軽い鍵束だった
銀に金に黒やピンク
大も小も無機も豪奢もごちゃ混ぜな
様々の沢山の鍵が連なっていた
開けてご覧と声がした
穴の空いた扉があった
鍵穴は真っ暗なその中で
どの鍵も使えるから
だから好きな鍵を使ってご覧と
声がした
何を開けるかも分からぬ鍵で
何処へ開くかも分からぬ扉を
開けてご覧と声がした
選んで進めと
声がした
‹未来への鍵›
木星はガスで出来ているらしいと
君は白い息を吐く
天王星は氷で出来ているらしいと
君はアイスに齧り付く
水星は岩石で出来ているらしいと
君は河原で積み遊ぶ
そして僕らもこの星の一部と
君は命の輝きを
‹星のかけら›
ぱちり目を覚ます知らない音
何処か楽しげに弾む曲
擦過の音はサッカーの様に
床を滑る割れた画面
知らない音が鳴っている
知っている筈の携帯から
過保護の過ぎる人達は
今度は何を仕込んだやら
誘拐犯の安否もそぞろに
静か静かに眠るふり
助けが届くその時まで
何も何も知らないふり
‹Ring Ring…›
行くのかいと問えば君は黙って頷いた。
止められないことなど分かっていた、
その優しさなら尚更に。
だからせめて君の背に、
空を逝く不帰の背中に、
誰よりも強い風を、
最期まで翔け抜ける為の
強い、強い風を贈る。
一度切りの祈りに代えて、
平穏を望んだ祈りに代えて。
‹追い風›
二人手を繋いで
買い物をしたりとか
二人机に向かって
お菓子を摘むとか
二人頭を突き合わせて
とりとめなく将来を笑うとか
そのくらいでいいから
そのくらいでいいから
せめて物語の中だけでも
ハッピーエンドにしてくれないの
‹君と一緒に›
やわらかな日差しに息を吐く
体感僅かな温もりは、正しく白い霧を作った
「やれ、冬日和って奴かねぇ」
隣で燻る白い煙は、熱と毒を孕んでいた
「小春日和じゃなくって?」
諳んじた書を褒めるように、温かな手が頭に掛かる
「それは秋の話だねぇ。真冬は名前が変わるのさぁ」
薄く湿った髪は冷たく、赤い指を凍らすようで
「変なの」
積もった白を払うように逃げれば、笑い声が落ちた
「明日にゃまた大嵐だ、早うお帰り」
‹冬晴れ›
「恋人といるのが幸せな人」
「友達といるのが幸せな人」
「家族といるのが幸せな人」
「一人でいるのが幸せな人」
「そう、誰と居るかすら幸福は異なる」
「他も合わせれば更に千差万別」
「故に『万人にとっての幸福』とは」
「『不平等な不幸の積み重ね』と成り得る」
「それすら平等に均すのならば」
「其処は既に幸不幸も無い、徒の虚無に他ならない」
‹幸せとは›