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12/27/2024, 10:56:11 AM

片割れだけを持っている
あの人から貰ったものだ
両手で違うデザインで
だからお揃いにもならない
あの人の冷たい手から
固く凍った手から貰ったものだ
握り締められたもう片手は
どうしても取れなかった
あの人から貰ったものだ
今も白に埋もれ息を止めた
あの人から貰ったのだ

‹手ぶくろ›


「ね、大人になっても一人だったらさ」

「えー?ふふ、大丈夫だよ」

「嘘は生涯一回こっきりだもの」

‹変わらないものはない›

12/25/2024, 10:20:20 AM

「今日ってクリスマスなんだって」
「なにそれ」
「どっかの国の神様の誕生日?」
「うわ面倒前提の話来た」
「木を光らせて祝ったらしいよ」
「豊穣の神かなんかだったの?」
「厳冬期っぽいから多分違う…?あと、切株に
 白脂肪と赤草の実つけて食べるんだって」
「うぇぇ……正気……?」
「宗教上の決まりとかあれそれだと思う。
 食べない時期あるやつとかあるじゃん」
「あぁ……それに比べれば食べられるだけマシかぁ」
「あ、あとでかい肉食べるって!でかい肉!」
「それ言いたかっただけだろもう」
「良いじゃん。この間のもうそろそろでしょ!」
「はいはい、じゃあ特別ってことで頭部割ってくる」
「やったー!ヒト種の脳って美味しいよね!」
「それは同感」

‹クリスマスの過ごし方›

12/24/2024, 1:41:35 PM

「イブって前日じゃなくて夜のことらしいよ」
「あ、イブニングの略ってこと?」
「そうそう。だからこの『イブの日の朝』ってまあ
 言葉的には中々狂ってるんだよね」
「夜の朝ってか。逆に浪漫になったな」
「それは分かんない」
「まあ、呼ばれた理由は分かったわ。猶予要るか?」
「要らないよ。間違いはとっとと処分しなきゃ」

‹イブの夜›


真白い皮膚を飾るリボンに、息が詰まる。
あげるよ、と笑う声がいやに響く。
「意味分かってるの、それ」
「もう子供じゃないからね」
そんな可愛らしい意味であれば良かった。
温かな指先が頬を撫で、瞼をなぞる。
あのね、と、一等の秘密を明かすみたいに。
「いろんなモノが見たいよ」
「あちこちの空気を吸ってみたい」
「心跳ねるような衝動が欲しい」
「沢山知って、沢山経験したい」
「だからね」
その口を塞ぐ手が今こそ欲しかった!
「この身体、みんな使ってよ」

‹プレゼント›

12/23/2024, 9:10:10 AM

ふわりと過ぎた香りに零した声。
振り返る瞳が一つ瞬き問う。
いつも薄甘さを纏っていた黒髪が、
少し苦味のある爽やかさを跳ねさせて。
ふわり微笑んだ赤い頬、
恋を知った乙女の顔。

‹ゆずの香り›

12/21/2024, 1:33:11 PM

42回紙を折ったなら月に届くという。
でも10回も行かず折れなくなってしまったから
切って重ねていこうとした。
でもあまりに小さな破片になりすぎたから
はじめの紙をとても大きくした。
折って折って折って切って切って重ねて重ねて
高く高く高く空に伸ばしたならそうしたなら

「また例の事件ですか」
「しかしガイシャはなんだっていつも」
「こんな紙の山に埋もれてるんですかね」

‹大空›


べー、と古びた音を立てて灯る赤いランプ。
隣の子は静かに眠っている。
振り返る運転手に首を振ると、また車体が動き出す。
流れていく車窓の景色を一つも見ないで
眠る子を可哀想に思う。
「帰りたくない」だなんて、
よりによってこのバスで言ってしまうなんて。

‹ベルの音›

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