白茶色が波打つ度、金の水面を幻視する。
広く、一斉に風をざわめかせる中、
不自然に揺れ止まる影へ、
強く光らせた画面を掲げる。
背の高い海を掻き分けて振られた手に、
招き返しながら明かりを消した。
「完全に迷ってたわ助かった」
「んな奥まで行かなきゃ良かったろ」
「手前はおチビ達に取っとかないとな」
ざわりと揺れる。刈り取られた波が揺蕩う。
少しばかり滲む赤に消毒液を探す、と。
ふわり頭を飾る触覚。
「……器用だこと」
「穂だけだしな」
溢れ落ちた毛が僅かに首を刺す。
そうと穂冠を正しながら、吐息に視線を辿る。
いつも通り読めない瞳と、いつも通り目が合う。
「これも意味があんの」
「さてね」
似合ってはいると叩かれる軽口も、
見つめ続ければ明確に唇を吊り上げて。
「良いよ。好きな意味選んで受け取れば」
‹ススキ›
誰でも良い、
俺の頭蓋を開けて脳に焼き記してくれ!
死の代償なぞこの光景だけでいい!
‹脳裏›
恋を出来ないけど好意くらいは分かった
愛の認識は無いけど慈しむくらいは出来た
区別を理解しないけど平等くらいは成せた
ひとの育て方なんて何にも知らなかったけど
知識と環境を整える余裕はあった
ひとでなしだってできることだった
ここに正しさが在ったかは
最期に至っても解答は無いけれど
‹意味がないこと›
わたし達
生きる為の栄養を
何でも好きに
選べたのなら
‹あなたとわたし›
静かな雨が降っていた
細やかな雨粒は優しく肌を撫で
午後のぬるんだ空気に触れて
むしろ温かくすらあった
涙を隠すように
激情を鎮めるように
灰雲が薄闇を抱き
喉震わす言葉は
風が巻いて逝った
やわらかなやさしさが降り頻る
花を枯らし根を腐らせる
実を落とし種子を沈める
心地良いだけの毒物を
そうと知れど尚手放せず
‹柔らかい雨›
ばかみたいっていわれるけれど。
あんまりに眩しすぎた世界の中で、
ただ一時だけ影を傾けてくれた。
そのひとに救われたのは確かだった。
‹一筋の光›
枯れ葉舞う樹に立ち竦む
隣の君は指をさす
花色染める幹枝を
芽吹きゆく小さな瘤を
積雪咲かす日を
繰り返し彩る季節を
隣にいた君は指差した
一人未来を指差した
‹哀愁を誘う›