「私、君の事がね、」
一つ頷くと、残念そうに首を傾げる
「もしかして、毎回言ってるかしら」
一つ頷くと、不満気に首をひねる
「待ってて、たまには違う事言ってみせるから」
一つ頷く、散々に彷徨く視点と小さく開く唇
「そうだ、これならきっと初めてでしょ」
「絶対墓まで持っていく話だもん」
一つ頷く、やっと安堵したように笑う
囁く言葉は寸分違わず
365回目の今日も、同じ会話から始まった
‹始まりはいつも›
駅に着いたと言ったのに反対口に出た
家にいるって言ったのに不在だった
目の前に居るって言ったのに誰もいなかった
わたしメリーさん
もう諦めていいかしら?
多分違う電話に掛けちゃったの
‹すれ違い›
「天高く馬肥ゆる秋と言いますが」
「はい」
「はいじゃねーんだわ何で痩せてんだよ」
「秋味ってあんまり新鮮味無くて……」
「果物にしろ魚にしろ色々あるだろ?」
「全部去年までに食べてるよ……」
「新品種とか新商品とか」
「どんだけ改良されたって、葡萄は葡萄の味しか
しないよ。他もね」
「……じゃあ普通の飯は」
「それこそ生まれてからずっと食べてる訳で」
「……おーけー食事強化プログラム入りまーす」
「やだーー!」
‹秋晴れ›
大好きな友人がいた
自慢の友人だった
得意も苦手もあべこべで
だから何をしても楽しかった
知らないことを知っていて
知っていることを知らなかった
だから何を話しても楽しかった
大好きだった。大切だった。
だから、だから、そう、だから
最後に交わした言葉を、顔を、
例えどれほど苦しくても
真実どれだけ痛もうと
犯した罪の記憶の形を
絶対に覚えておかなければならない
‹忘れたくても忘れられない›
薄く陰る昼間のカーテン
煌めき落ちる緑の木漏れ日
努力を照らすデスクライト
安息の闇夜を満たす星の影
直射は強過ぎる僕らには
暗を纏う光が丁度いい
‹やわらかな光›
君の瞳が好きだった
怜悧に輝く銀色が
真実を見抜く度に
鋭利に色を冷やすのが
本当に本当に好きだった
だから
「どうして」と問う名探偵に
笑って笑って向かい合う
重ねた罪状の数だけ冷えこぼれる
銀色の眼差しに刺されながら
「ごめんね。その目で見られたかったんだ!」
‹鋭い眼差し›
「天に帰るって言葉聞いた時はビビったよね」
「わっかる、やり直しかと思ったもん」
「実際やり直し食らった組居たらしいね」
「あれなあ……小さいからって辞めといて
ほんと良かったわ…」
「やっぱり純物でないとね」
「ココ生殖体系分かれててまじ良かった!!」
「はいはーい。そろそろ時間だけど、
皆ちゃんとサンプル回収できたー?」
「大丈夫ー!」
「それじゃあ戻ろうか。向こう着き次第
解剖始めるから、純唯星型生物の特徴とか
復習しておいてね」
‹高く高く›
電話で予定を取って
待ち合わせを決めて
ちょっとだけいい服で
鞄にいっぱいゲームとお菓子
ハイタッチで挨拶して
道中でジュースを買って
親の居ない部屋に入って
日が暮れるまで散々遊ぶ
ってことが
とある一定の年齢で
外見性別が異なる組み合わせで
それだけで適当な噂の種にされるの
本当に面倒な世の中だと思う
‹子供のように›
四葉があったよと掲げれば
私も見つけたと笑う声
オレンジに焼ける空の下
白詰草の原の中
三葉、三葉、三葉。の中
見付けた五葉、見付けた六葉
凄くないと掲げた先
二つ瞬いた目がふわりと笑った
一緒に押し葉にしようねと
橙が焼く手のひらに乗せて
夕日の焦げ付く帰り道
二度と会えはしなかった
‹放課後›