空に光が一つ灯る
神々しく眩い光
心の中だけで手を組んだ
祝福と想い感謝した
そうして、声が響いた
朗々と美しい声が
「それを押しても、世界は平和になりませんよ」
爆弾を落とすためのスイッチを
神に仇なす者を滅ぼす力を
その声は、間違いなく、
‹神様が舞い降りてきて、こう言った。›
誰かの為、で走れる程英雄にはなれないし
皆の為、で盾になれる程聖人君子じゃない
君の為、と言える程格好つけにはなれないし
自分の為、と言える程嘘つきにすらなれない
だからこれは何でも無く
どの人の為でも無い
ただの気紛れ気分屋の
無茶な挑戦にしておいて
‹誰かのためになるならば›
ちりり、と涼やかな音
目をやった窓辺、よく手入れされた籠の中
くるくると風見鶏が回っていた
風が向きを変える度
その強さを変える度
風見鶏は不規則に回って
その嘴先の鈴を鳴らした
ああ、と隣が笑う気配がした
良いでしょう、と笑う気配がした
鈍く光る丸い金色
その穴から覗く黄がかった透明
これなら絶対いなくならないでしょう、と
哀しい安心を滲ませて
‹鳥かご›
君と、綺麗な石を集めるのが好きだった
木漏れ日みたいな燦爛を
水中みたいな眩惑を
甘味みたいな鮮烈を
帰り道みたいな偏光を
君と集めるのが好きだった
君もそうだと思ってた
ある日君は差し出した
未来を輝く透明を
綺麗な石を煮溶かして
濾して上澄みだけを掬って
そうして出来た透明を
ある日君は差し出した
一番綺麗な石を渡したいと
その日君は差し出した
何の色も無いその石は
私には何の価値も無いのだと
私は静かに絶望して
君を底に叩き込む
そのための呼吸をした
‹友情›
君を見ていた
君に咲く花を見ていた
君に似て鮮やかな
散っては咲き重ねる花を見ていた
君を見ていた
君を覆う苔を見ていた
君に似て柔らかく
静謐を湛える苔を見ていた
君を見ていた
君が朽ちていく様を見ていた
誰もに憩いを与えた君が
長きに倒れその身を崩し
土に還りながら命を育む
君を見ていた
‹花咲いて›
「もし過去に戻れるなら、」
「5分前、味見すればよかった」
「1時間前、道を間違えてしまった」
「3日前、時間を聞き損ねた」
「2週間前、喧嘩してしまった」
「4ヶ月前、先に眠ってしまった」
「もっと、もっと、前でも良いなら」
「あの日、いつも通りに帰っていたなら」
「今頃、まだ皆生きて笑っていただろうか」
‹もしもタイムマシンがあったなら›
どれが食べたい、と言われた
お腹は空いてなくて首を振った
誰に会いたい、と言われた
特に思いつかなくて首を振った
何処に行きたい、と言われた
一歩も動けなくて首を振った
何が欲しい、と言われた
あまりに今更すぎて首を振った
何がしたい、と言われた
態々呼び出してまで何を願ったのかと
首を振った
もう叶っていると首を振った
君の顔をちょっとだけ見たかった
君とちょっとだけ言葉を交わしたかった
たったそれだけのことを
きっと君は理解しないから
‹今一番欲しいもの›
新聞の出生欄を読むのが好きだった。
きらきらして、ふわふわして、鮮やかに眩しい、
様々な祈りの形を見るのが好きだった。
隣のお悔やみ欄だって嫌いではなかった。
最期まで護り、存在証明をし続けただろう、
様々な時間の形が好きだった。
ずっと昔に載っただろう紙面は残ってない
ずっと先に載るだろう紙面は見られない
願わくば、此処に再び私の名が載る前に
私の知る誰もの名が載らないことを
不孝かもしれないが、願っている
‹私の名前›
目が合った、と思った。
思った時には既に目は逸らされていた。
まあ知らない人だし、それは向こうもそうだろう。
目が合った、と思った。
瞬く様な間だけ、真っ直ぐに視線が絡んだ。
やけに驚いたようだったけれど、何だったろうか。
目が合った、と思った。
道を逸れて、柵を跨いで、それでも目が合っていた。
同じくらいかな、と遠目に思ったその人は、
近くで見れば思った以上に年上の人だった。
目が合った、合っている。
そうして分かった、分かってしまった。
開かれる口が音を紡ぐ前に、人差し指を立てた。
呼んではいけないと首を振った。
視線が落ちる、跡を追う。
靴の要らない両足を。
‹視線の先には›