右と左、と問いかける。
右と答えた君が顔を顰めるから笑った。
赤と青、と問いかける。
青と答えた君が手を叩くから笑った。
一と二、と問いかける。
一と答えた君が跳ねるから笑った。
昨日と明日、と問いかける。
明日と答えた君が悔しげで笑った。
君と私、と問いかける。
答えられない君に私は笑った。
答えた私に君は泣いた。
それだけのことだった。
‹好き嫌い›
向日葵が咲いていた。
揺れる大きな集密の種子、一瞥して通り過ぎる。
向日葵が咲いていた。
暑さに項垂れる首二つ、一つも見上げず通り過ぎる。
向日葵が咲いていた。
散水の蒸気に慄く緑、憐れみも無く通り過ぎる。
向日葵が咲いていた。
向日葵が咲いていた。
誰も居ない私の故郷に
沢山の向日葵が咲いていた。
‹街›
「殺したいなって、死ねばいいのにって
思うこと、勿論有るよ」
「聖人君子の形したって人間だもの、
気に障ること位あるさ」
「でも、実現出来るかって言ったら
残念ながらそうはいかない」
「人を殺してはいけません」
「死を願ってはいけません」
「人を呪わば穴二つ」
「良心の呵責、刑期と影響、死後のその先」
「そういった諸々、いろんなことが総じて
最終的には想像や言葉だけで終わらせる為の
ストッパーになる」
「こういうのを、『教育の勝利』と呼ぶのかも
しれないね」
‹やりたいこと›
半覚醒のまま伸ばした手の先
仄かに暖かく空っぽの枕
すうすうと空洞の淋しい布団の中
誤魔化すように脚を擦り合わせる
耳を澄ませど声も足音も
他の部屋にいる気配すら無く
眩しさを言い訳に閉ざした瞼は
現実を見定める気力もなく
‹朝日の温もり›
「ハブとマングース」
「猫と鼠」
「捕食関係草ぁ」
「天敵のお前が言うか」
「ハチとアカシア」
「……トマトとナス」
「は?なにそれ」
「接ぎ木」
「共生どころじゃねえの来た」
「健やかなる日も病める日も死せる日も一緒だぞ」
「おーんこれは根に持ってますねぇ……」
「盛大に破ったお前のせい」
「ぐうの音もない」
「大体こちとら…って」
「あー…順番来たねぇ」
「全く……そっちに着くまで待ってろよ」
「了解了解、盛大に目立っとくから見つけてな」
「お前が見つけろよ馬鹿、何年開くと思ってんだ」
「…はーい、大人しく寂しく独り身してますよーだ」
‹岐路›
「……何してんのこんなとこで」
「見ての通り終末待ち」
サクサク頬張られたお菓子に半分程のペットボトル。
息を潜めた様な暗い住宅街で、そこだけ妙に平和だった。
「最後なのに家帰らないの」
「ちょっと前まで居たよ。皆寝たから抜けてきた」
「ははぁ成程、さては恋人とラストカウントしようと?」
「生まれてこの方居た事ないわそんなの」
くるり丸められた包装紙。地面に転がるゴミと裏腹に、こんな時まで白い袋に片付けられていく。
「それじゃあなんでまた」
「質問ばっかじゃモテないよ」
「……兄姉皆恋人連れてきて酒池肉林」
「わぁおご愁傷様……」
かろと回された蓋、喉が動く一呼吸。
「流れ星を見に」
「はぁ?」
「どうせ最後なら目を閉じるんじゃなく、
最期まで全部見ていたいなって」
「……そっか」
‹世界の終わりに君と›
ポコン、と音を合図に画面を開いた。
隣が拳を振り上げた風を感じつつ、
当然な気持ちで表示を見せる。
「当選したのか、おめでとう」
「有難うだけどそんな堂々と落選見せんな??」
「いつもの事だしな。一人で楽しんで来てくれ」
「お前……お前本当いつもそう……」
開かれたスケジュール帳、書き込まれた沢山の予定。
その殆どを共有しないままカレンダーを閉じる。
直前とは打って変わって机にいじける背中が、何処か可哀想でもあった。
「この手のイベントまじでお前と行けた試しないんだが?運が悪いにも程があるだろ!」
「前半は完全同意だな」
「後半!後半も!」
「まぁ、そうだな」
カレンダーは殆ど白いが、一月後には最重要マーク。
暇な日は大概こうしてつるんでいると思えば、一人秘密の買い物には行きにくい。
ましてこの手のイベントは、共に行くより興奮し切った感想を聞くのが楽しいものだし。
だからまあ、個人視点で言えば運は決して悪くない。
悪くない、が。
「お前の友になる為に、一生分の運使ったんだろ」
「おま、お前まじ素面でなに?!」
独りのまま終わった前回に比べれば、
独りのまま終わらせてしまった事に比べれば。
「お前と出会えて良かったってだけの話」
「今そんな深い話するフリあったかぁ?!」
‹最悪›