内緒だよ
ないしょだよ
誰にも言ったらいけないよ
誰にもばらしちゃいけないよ
いけないよ
いけないよ
裏切ったらいけないよ
生けないよ
逝けないよ
ねえ、
お前、
聞いていたな?
‹誰にも言えない秘密›
暗い暗い闇の中
華木の香りが揺れ満ちる
ぱちりぱちりはぜる音
指の先まで熱が包む
ゆるく撫ぜられた膜越し
やわく刻まれる鼓動の音
きっときっと覚えている
貴方に掛けた祈りの糸
‹狭い部屋›
「持ってない物を得る空想は出来ても」
「持ってない物を失う想像は難しいね」
‹失恋›
「正直者ね。美徳よ、確かに」
「でもね、社会に於いて利点かといえば、
必ずしもそうでは無いわ」
「子供に正直を望むのは、正しい道を歩ませる為」
「……子供の行動思考、その逐一を把握する為」
「言ってみれば、思い通りにしたい大人の傲慢よ」
「だから正直者の子供は喜ばれる」
「でもいざ大人として社会に出た時」
「社会が大人に望むのは、
最終的には他者を使える人になること」
「正直では無く、本音と建前を器用に扱う事」
「酷い話よね。それまで正しかった事が
正しくないって突然言われるようなものよ」
「まして、窃盗を蔑む口で技を盗めと、
そういう空気を読んで行動しろと言うのよ」
「そんな暗黙の了解で、皆が正しく大人になれると
……本当にね、馬鹿みたいじゃない?」
‹正直›
「雨ですねえ」
「雨だねえ」
「でも強行したらしいよ」
「今更変えられないでしょ」
「でもねえ嘘か本当かは知らないけれど」
「前置きが長いよ」
「ジューンブライドも旧暦説」
「わあ」
「本来の月だと晴れてて良い感じという噂」
「なんてこと」
「嘘か本当かは知らないけど」
「自衛を重ねた」
「要らない知識調べるのだるい」
「それはそう」
‹梅雨›
「穢れないってどういうこと?」
「汚れてないってこと」
「じゃあお風呂に入ってくればいいの?」
「物理的………」
「じゃあ後何さぁ」
「精神っていうか…魂的な意味を指すことが多いな」
「………魂一周目な命って最近大分希少じゃない?」
「最初に増やしすぎたらしいからまぁ」
「うん……?」
「あー………物理な例で言うなら、
どうせ捨てるなら使い切ってからにするだろ」
「あ、もしかして今世ってお掃除兼断捨離中?」
「だいたいそう」
「そっか、もう君に逢えないかもしれないのか」
「いや、お前と俺はしばらく大丈夫な筈」
「ん??」
「使い込んだ道具の方が掃除しやすいってこと」
「わぁい……大変だぁ……」
‹無垢›
いつか君の流した涙が
熱に散り 雲に帰り 大地を潤し
やがて愛しい子の喉を刺す
甘い橙色になるように
身を裂くように響く声が
風となり 蝶を流し 種子を撒き
いつか晴れやかに笑う人の
両手を飾る花冠となるように
優しい祈りが
例え残酷な絶望を経ても
いつか いつか光の射す
明日へ紛いなく続くように
‹終わりなき旅›