「若い子は元気だねー」
「どしたの…って、あー成程」
青空に響く賑やかな歓声
砂埃と共に舞う、白煙の火薬臭さ
最初の最大イベントになるだろうそれに
ゆたり微笑まし気に目を細めた
「借り物競走とか楽しみにしてたんだよね。
無かったけど」
「二次元のみであるあるな奴だ……」
「本当にそれねー」
忙しなく熱気を盛り上げるBGMは
少しばかり五月蝿くも
きゃらきゃらと楽しげな風に少しだけ
二人で足を止めていた
‹天国と地獄›
「月に代わって…なんて台詞もあるけれど、
今思うと不思議よね」
黒く柔らかな長い毛を梳く
不満気な唸り声が言葉を促すように小さくなる
「月にいるのは兎とか蟹とか女性とか、
あとは嫉妬深い女神様だったかしら。
どれも直接に裁く謂れは無かった気がするのよ」
結ばれた口元は何も語らず
それでも淀んだ黒い瞳は、確かな知性を持って
視線を上げた
「だからね、別に貴方だって、月を想う必要なんて
どこにも無いのよ」
黒く柔らかな長い毛を梳く
しなだれる様に拘束した大きな身体を
月の下に覆う暴虐を
いつかその真円に、貴方が狂うのを忘れるまで
‹月に願いを›
クッションに泥濘む身体
窓を叩く雨粒の音
起こそうとした頭は撫でるよう
再び深く沈まされる
もう行かなくちゃと腕を叩き
まだ行かないでと頬がすり寄る
もう少しもう少しだけと
冷たい身体が吐息と混ざる
今年も用意されない帰り道
最初から
捕り殺して連れていけば
悲しくならずにすんだのかな
‹降り止まない雨›
わたし
あの日のわたし
悩んでいたわたし
沢山の後悔をした
何度も何度も振り返った
分かっていた事を分かっていた通り喪った
それでも
確かに希望があった
知っていたものを知っていた通り得た
間違いようのない
確かに幸福の道だった
きっと
もう一つの道を選んでも同じだった
悔やんで失ってそれでも
確かに希望と幸福を得た
だからわたし
あの日のわたし
どちらを選んでも正しかった
それでも
悩んでいたわたし
あの日のわたし
もしも覚悟があったなら
もっと勇気があったなら
自分で道を拓けたなら
何も後悔しない道を
一つも失わない未来を
わたしは
‹あの頃の私へ›
「あ、取れちゃった」
「えぇ、またぁ?もっと上手に使いなさいって
前も言ったでしょう?」
「だってかわいいから……」
「だってじゃありません、全く……。
ちゃんと次のは用意できてるの?」
「してない。また待てるから大丈夫!」
「本当にアレが好きねぇ……」
「あの子がいつも一番かわいいんだもの」
「でも次は星とかで生まれてくれると良いなぁ」
「にんげんってもろすぎるもの」
<逃れられない>
じゃあね
バイバイ
さようなら
いつも軽く手を振る友人に
常日頃思っていた不満だった
「どうして『また』って言ってくれないの」
一つ瞬いた瞳が淋しく細められて
ーーーー鳴り響く鐘の音
目が閉じられていくと共に
端から消えていくその身体を
崩れていく光景を
組み立て直される世界を
記憶へと還っていく全てを
「きみが『二度と』来ないからでしょう」
夢の残滓が一欠片
忘却の海に消えていく
<また明日>