「月に代わって…なんて台詞もあるけれど、
今思うと不思議よね」
黒く柔らかな長い毛を梳く
不満気な唸り声が言葉を促すように小さくなる
「月にいるのは兎とか蟹とか女性とか、
あとは嫉妬深い女神様だったかしら。
どれも直接に裁く謂れは無かった気がするのよ」
結ばれた口元は何も語らず
それでも淀んだ黒い瞳は、確かな知性を持って
視線を上げた
「だからね、別に貴方だって、月を想う必要なんて
どこにも無いのよ」
黒く柔らかな長い毛を梳く
しなだれる様に拘束した大きな身体を
月の下に覆う暴虐を
いつかその真円に、貴方が狂うのを忘れるまで
‹月に願いを›
5/27/2024, 11:18:07 AM