プレイリストの更新が止まっていた
おすすめばかり集めた趣味じゃないリストだった
絆創膏はいつしかコンビニからのになっていた
教科書もノートも全部自分の名前のものだけ
鞄に在中のお菓子は何時まで経っても減らないし
見に行った家はいつの間にか空っぽだった
忙しなく前後する足音も煩く視界を横切る手も
打てば響くような喧嘩腰じみた声も
あれだけ隣で喧しかった存在感も
呼んだ名前に返事が無いことも
あの日から当然となった全ての事を
当然じゃなかった筈の全ての事を
視線が空を切る度思い出す
けれど瞬く度に忘れ戻る
きっと最期の最後まで
共に居れると思っていた
<後悔>
「お待たせ、危ないよ」
「大丈夫、早かったな」
風の吹き抜ける屋上
夕日に煌と舞う黒が眩しく
俯きがちに歩いた先で
からころと笑い声が降る
「後どのくらいだった?」
「一時間くらい」
「本当に案外早かったんだな」
「此処まで来て優先順序は間違えないよ」
「どうだか。手紙忘れてきたりしてないか」
「元々用意するつもりなかったし」
「………そーか」
疾うに既に意味の無いそんなのもの
けれどその右手にひらひら踊る白い紙
「……案外、意外」
「笑えよ一寸感傷に浸ったんだわ」
「笑わないよ、良いんじゃない」
赤い日差しが墜ちてくる
煌々と灼々と墜ちてくる
眼下は忙しなく騒々しく
不気味な程に静まり返り
ただ戦々恐々侃々諤々
大地が太陽に墜ちてゆくのを
ーーー待たないと、二人で決めた
「じゃあ、そろそろ行くか」
「そうだね。またいつか」
靴は脱がずに柵の外
最後の握手は酷く熱く
からりとした笑顔と共に
溶け爛れる風へ足を踏み出した
<風に身をまかせ>
さらさらと細砂がこぼれてゆく
もったいなくて指をのばした
さらさらと肌をけずる
まだとまらないと掌をさしだした
さらさらと隙間からこぼれる
あんだ髪で骨をおおった
さらさらと千々にちぎれる
かわきかけの血でくっつけた
さらさらとこぼれる
さらさらとこぼれる
あとなにができるかしら
あとなにができるかしら
「そういえば」
「頭は盃になれるのでした」
さらさらとこぼれる
さらさらとけずる
さらさらと
さらさらと
<失われた時間>
好きなものを食べて
好きなものを買って
好きなお仕事をして
好きな遊びをして
好きなことをして
好きな時間に寝て
好きにしても怒られない
なんて
夢を見続けていたかったね
<子供のままで>
赤色を筆で一閃
君と目が合った瞬間に
桃色をスプレーでグラデーション
君の姿を追う度に
橙色をペンで描いて
君の心を知った時
黄色をカラーボール一つ
君にそれでもを伝える勇気
緑色を様々スタンプ
君の隣から目を反らし
水色をスパッタリング
君へ笑えない激情と
青色をバケツに一杯
君に言えない祝福を
白色で全て塗り潰し
黒色で堂々書き上げる
君には二度と伝えない
君に焦がれて描いた先
<愛を叫ぶ。>
蝶だ、と呼ぶ。彼女は一瞥しか返してくれなかった。
伸ばした指先に上手く留まったそれを近づけると、
意外な程嫌な顔をされた。
蝶は嫌い?と覗き込む。所謂虫全般苦手という人ではなかったから。重ねるなら、いつも室内の虫を外に出すのは彼女の役目だったから。
あまり好きじゃないの、と彼女は言った。
飛ぶ虫は怖いのよ、と彼女は言った。
こんなに可愛いのに?と翅をつまみ広げた。蜂ならまだしも、無害な蝶を怖がる意味が分からなくて。
見た目の問題じゃないの、と彼女は言った。おぞましいの一歩手前のような目をして言った。
飛ぶ虫は、
飛ぶために身体が脆いのよ、と。
きれいな蝶は、
燐粉が取れると飛べなくなってしまうのよ、と。
離した指先、ふらふらと不格好に飛んでいく白い翅。
白く光る粉を濡れタオルで拭いながら彼女は言う。
今あなたは、命を一つ殺したのよ、と。
<モンシロチョウ>