「お待たせ、危ないよ」
「大丈夫、早かったな」
風の吹き抜ける屋上
夕日に煌と舞う黒が眩しく
俯きがちに歩いた先で
からころと笑い声が降る
「後どのくらいだった?」
「一時間くらい」
「本当に案外早かったんだな」
「此処まで来て優先順序は間違えないよ」
「どうだか。手紙忘れてきたりしてないか」
「元々用意するつもりなかったし」
「………そーか」
疾うに既に意味の無いそんなのもの
けれどその右手にひらひら踊る白い紙
「……案外、意外」
「笑えよ一寸感傷に浸ったんだわ」
「笑わないよ、良いんじゃない」
赤い日差しが墜ちてくる
煌々と灼々と墜ちてくる
眼下は忙しなく騒々しく
不気味な程に静まり返り
ただ戦々恐々侃々諤々
大地が太陽に墜ちてゆくのを
ーーー待たないと、二人で決めた
「じゃあ、そろそろ行くか」
「そうだね。またいつか」
靴は脱がずに柵の外
最後の握手は酷く熱く
からりとした笑顔と共に
溶け爛れる風へ足を踏み出した
<風に身をまかせ>
5/15/2024, 9:17:23 AM