Open App
3/23/2024, 10:13:20 AM

ちょっとしょっぱいキャラメル味。
期待に期待を重ねて食べた飴は、
あんまり好みの味じゃなくて、
笑われながら背を叩かれた。
「お前は此方が好きでしょう?」
嘗め終わったらゆっくりお食べ、と
積まれたのは至極ありふれた米菓。
お爺ちゃんの作った可愛い湯呑みに
熱くないお茶を入れてくれるお婆ちゃん。
「わたし、この特別の方が好き」
炬燵の両隣からふわふわと
柔らかく撫でる手が嬉しくて。

<特別な存在>

3/23/2024, 2:39:20 AM

「こんなの作ってなんになるのさ」
「生者の心の安寧に」
「此処にはなんにも居ないくせに?」
「信じる限りは聞いている」


「こんなの作ってなんになるのさ」

「お前もどうせ、居ないくせに」

<バカみたい>

3/22/2024, 10:17:09 AM

手を繋いで走っていた。
後ろから来るモノに、追い付かれてはいけなかったから。
時々小さく手を引かれたけど、その度に強く引き返して走り続けた。
追い付かれてしまわぬよう、力付くで引き続けた。
走って、走って、走って

突然強く腕を引かれた。
転んでしまったのかと振り返った。
繋いでいた、握りしめていた手を見た。

其処には誰もいなかった。
後ろにすら、何も無かった。

開いてみた手の中で
小さな小さな指が
黒く干からび潰れていた。

直ぐ隣に居た筈の人を、
顔も声も思い出せない程、
気を遣っていなかったことに気が付いた。

<二人ぼっち>


美しい時間だった。
君と出会ってから、
沢山重ねてきた日々。
夕焼けを背に笑って、
紡がれた筈の言葉。
「……教えてほしいよ」
君の残した走馬灯の中、
いつも、いつも、何回も、
三文字目から先を
聞くことができなくて。

<夢が醒める前に>

3/20/2024, 11:02:28 AM

集中なさいとシャーペンの頭でつつかれて
慌ててノートに目線を戻した
「どんなところに惹かれるんだい」
「きらきらしてて優しい所」
「アレは化粧の賜物で、八方美人の渾名だが?」
「そういうことじゃない」
「……心や精神性なぞ目じゃ分からんと豪語していたな?」
「そういうことでもない」
「恋は盲目?」
「似てるのは認めるが違う」
「じゃあなんだい、勉強会ほっといてまで夢中なのは」
「……きらきらしてるだろ」
炎天下のグラウンド、部活に勤しむ人々は
皆汗だくで煌めいて
「それで優しいだろ」
後輩にはマメに休ませる癖、一人先生や先輩との軋轢に走る背中
「……ああ、成程」
酷薄な目が窓へ向く
心底憐れんだ声が言う
「お前、アレを獲物と見たな」

<胸が高鳴る>


外から来た人が言いました。
此処はおかしいと。
連れていくから逃げようと。
私は首を傾げました。
別におかしな事なんて無かったから。
外から来た人が言いました。
そんなものは食べ物じゃない、
そんな仕事は危険すぎる、
そんなーーを崇めるなんて、
あ、と
思った時には、
外から来た人は、

今日は新鮮なご飯でみんな嬉しそうでした。
私には釣りの才能があるそうなので、
明日もご飯を釣りに行きますね。

<不条理>

3/18/2024, 9:04:49 AM

君がついに旅立ったと、手紙がありました。
大々的に、なんて昔は言ってましたけど、
随分小ぢんまりしそうな気配がするのは
気のせいでしょうか。
親も子も片割れも置いていくなんて、
薄情な君らしいなぁと思います。
結局約束を破られてしまったけど、
此方は守り続けるつもりなのでね、
後で悔しがる君の顔が目に浮かびます。
……はは、ざまみろ。
精々一人で天国探索しててください。
それじゃあ、またいつか。

<泣かないよ>


「何で大概の水場には、必ず鏡が置かれるんでしょうね」
 赤い口紅をポーチに仕舞いながら彼女は言う。
「化粧室とか洗面所はまだ分かるのよ。お手洗いやお風呂場やキッチンにも置かれる理由が分からないの」
 まして、と小さく指差された先。
「こんな大きな合わせ鏡にするなんて」
 広く見せるためじゃないの、と問えば。
「化粧直しなんて、寧ろ誰にも見えないようにしたくないかしら」
 それもまあ一理、と鏡を見やる。
 化粧して尚青白い肌の彼女は、
鏡の向こうで赤い唇を吊り上げ嗤っていた。

<怖がり>

Next