赤くなった指先を見ていられなくて目を反らした。
「まだやってんの」
「うんまあ、願掛けみたいなものだからね」
数分前までの雪塊は、二回りほど小さい地蔵が見えるまで除けられて。びしょ濡れの手袋を閉まって尚、合わされた手はしっとりと光を弾いていた。
「こんな日までやること無くない?」
「こんな日だからさ。善行は積んでおくに越したことはないものだし」
白くなったスカートを叩いて笑うその人に、いつも真剣に祈る掌で何を思っているのかは、未だ問えないでいた。
『お地蔵様はね、子供の守り神なのさ』
『都合の良い時だけ子供のつもりとか、寧ろ罰当たりじゃないの』
『ふふ、良いじゃない』
しんしんと白い雪の向こう、わあわあ人の声がする。
「あ…マフ……じゃ……………柄……うで………」
「…名発……これ……救助……………」
重たくて痛くて寒かった筈なのに、なんだか暖かいような気がした。
「……し、………君、君!意識はあるか!」
「………?」
「一名救助!朦朧ですが意識あります!」
「よく頑張った!此方で預かる!もう一人は?!」
「未だです!もう少し近辺探します!」
「君まで遭難してくれるなよ」
「気を付けます!」
白い部屋で気づいた時、空っぽの手袋を握っていた。びしょ濡れのそれは一回り大きくて、自分のじゃなかった。
どうしても離さなかったのと取り上げられると、何処からかころりと石が落ちた。
「……何でお姉ちゃんが助からなかったの」
『彼女はそれを願わなかったから』
「何で俺は生きてるの」
『彼女はずっと、君の幸せを祈ってたからさ』
<寒さが身に染みて>
やあ久し振り、元気だったかい。
ずいぶん大きくなってまあ……
もう大人の仲間入りだって?
それはよく頑張ったね、おめでとう。
夏にはそっちに帰るからさ、そうしたら念願の飲み明かしをしようじゃない。取って置きのおすすめ期待してるよ。
うん、だからね。僕がそっちに行くからさ。
君はまだ此方に来るんじゃないよ。
<20歳>
そう言えば、君の描く月はいつもそうだった。
なぞる指先、黒鉛の色。白む程に薄い黒。
「あの人は、夜空にはよく三日月を描いていた」
「でもね、いっつも逆向きに描いていたよ」
「昔はなんとなく、今は手癖が過ぎてどっちか分からなくなっちゃったんだって」
「だからね、君がこれを三日月の絵と呼ぶのなら」
「『君』は『あの人』ではないんだね」
<三日月>
綺麗でしょう、と君が笑った。
綺麗だね、と僕も返した。
ひらひら散っていく花弁を惜しむこと無く、
くるくる舞う足元は一つとて同じもの無く。
白い肌を裂いて咲き誇る花畑を、
一つも明かされなかった花言葉を。
僕達は口にすること無く、
ただ拒絶した別離と共に、
『今』の美しさだけを享受する。
<色とりどり>