『現実逃避』
私は筆不精だ。
親の老後の問題から現実逃避するために、柄にもなく書き始めたのかと思った。
でも逆だった。
自分の未熟さを見たくないから、親の心配にすり替えようとしたのだ。
ぼんやりしてると巧妙に誘導されてしまう。
しっかりしろ、私。
親を逃避先にするなよ。
一回冷静になって、見直すために書いてみようと思っただろ。
人生はプログラムみたいだ。
バグを修正せずには、先へ進めない。
そうして何度も同じ所で止まった。
もう飽きるほどやっただろ。
そろそろ出口を探そうぜ。
『君は今』
「このピヨピヨの毛、風を感じるんだよ」
クルンと巻き上がるように跳ねた前髪の一束を、まるで王冠のように戴いてご満悦の君。
そんな君の出で立ちは、洗いざらしのTシャツに、穴の開いたジーンズ。
背が高くてショートヘアの君は、一見少年のように見えるが、上品な仕草と小さくて高音の可愛い声がフェミニンな魅力も感じさせる。
そんな変わり者の君が、休日の街を闊歩する。
人の目など、まったく気にならない様子で。
4歳上だけど同期だった君。
本当に魅力的な人だったと、今にして思う。
偏見の塊だったあの頃の私には、それが分からなかった。
私とは真逆だったから。
つかみどころがないようでいて、現実的で落ち着いていて、君のそばは、陽だまりのように居心地が良かった。
君という存在は、ものすごく私を励ましてくれていたのに。
連絡も取れなくなってからそのことに気付いた。
君は今、どうしていますか。
時々、君を無性に懐かしく思うよ。
君にはいつまでも、あの屈託のない笑顔でいて欲しいと願っている。
『物憂げな空』
今日はあの子が帰ってくる
物憂げな空も、冷たい空気もなんのその
そういえば、帰郷する日はいつも雨だ
あいつ、雨男になっちまったのか
家にいた時は、そんなことなかったはずだけど
『小さな命』
満開の梅に、春の風がそよぐ
無数の花に宿る、
小さな命がひしめき合い、
馥郁たる香りが弾け飛ぶ
儚いものほど、命を意識させる
『Love you』
出逢いはとにかく最悪だった。
新しい職場では、土曜日の業務終了後、全スタッフ合同で、技術力向上のための勉強会が行われていた。
その勉強会の前に全員注文している仕出し弁当があったのだが、それを注文するとかしないとかの件で少々もめた。
その担当者が、彼だった。
外食も出来合いの弁当も、肉料理が多い。
小学2年生で肉を食べらなくなった私は、相手の気分を害さないように丁寧にお断りをした。
つもりだった。
しかし先輩は「私以外全員頼んでいるから、私にも頼んで欲しい」と言ってくる。
一人だけ違う人がいると面倒だというのだ。
驚いた。
一手間取らせるのは間違いないが、そこまで大きな手間か?
これって「自分の仕事を増やすな」という意味も含むよね。
バカ正直か。
本心で話す人なのは分かったけど、
言葉の選び方、悪くね?
軽い口論の末、
申し訳ないが、我を通させてもらった。
その頃貧乏学生で、食費月5千円で生活していた私にとって、1個5百円の弁当代は高かった。しかも半分くらいは食べられないのが分かっているので、ここはどうしても譲れなかった。
学生アルバイトのくせに、生粋だと思っただろう。
しかし、後になって聞いてみると、この時、面白いやつだと思ったらしい。
口論の元となった「肉を食べない」も、私に興味を持った理由の一つだというのだ。
それを聞いて、本当にバカらしくなった。
あの口論は何だったの?
何がどう縁に繋がったのだか。
あれから、ずいぶん長い付き合いになった。
私から「好きです」と言ってないし、
彼から「付き合ってください」とも言われていない。
一緒にいる時間が長くなり、いつの間にか隣にいた。
完全に伝えるタイミングを失ってしまった言葉。
今頃言い出したら、ぶん殴る。