カップルでいちゃつこうが
イルミネーションを見に行こうが
サンタの振りをして子どもに夢を与えようが
俺には関係ない
いつもどおり総菜をコンビニで買って
ビールで胃に流し込んで〇ソして寝るだけよ
365分の1日の夜。それだけでいいだろう?
#イブの夜
「ママ、知ってた? ほ、ほんとはサンタさんなんていないんだって、お前んとこの父ちゃんか母ちゃんがこっそりプレゼントを用意してるんだぜ、って。隣の組のようちゃんが言った! そんなのうそだあ、デタラメ言うなってボク、つかみかかっちゃったーー、け、ケンカしちゃった。ごめんなさい、でも、うそだよね? ようちゃんがでまかせ言ってるんだよね? サンタさんが、ボクがいい子にしてるから、ほしいプレゼントを贈ってくれてるんだよね?」
そう言って、
大きな涙をポロポロ量産する息子。
私にとってはあなたが一番の神様からのプレゼントだよ。
#プレゼント
「お。ハンドクリームか」
夫がリビングに来るなり、鼻を引くつかせる。柚子の香りのお気に入りのものを塗っているところだった。
私は頷いた。
「今日、大掃除したからね。荒れないように」
「ねえ、覚えてる?君を好きになったの、そのハンドクリームがきっかけだってこと」
「覚えてるよ」
微笑む。
「高校の時、冬に教室で私がこうやってハンドクリーム塗ってた時、たまたま前の席にあなたが座ってたんだよね。で、クリーム出しすぎちゃって勿体ないからあげる、って塗ってあげたね」
夫も同じ笑顔になった。
「懐かしいな。女の子にそんなことされたこと無かったからさ。一発で落ちちゃった。俺ってチョロいよね?」
「そんなことないよ。ちなみに計算じゃないからね、あくまで善意」
「どうだか」
わざと首を傾げる夫の手に、多めに出したクリームを塗ってあげる。うちの年中行事だけど、彼も満更でもなさそうだった。
柚子の香りのハンドクリームは、私たち夫婦のラッキーアイテム。
#柚子の香り
100作目です。いつも読んでくださってありがとう
大空を飛ぶ鳥にとっては
天動説でも地動説でもどっちでもいいのかも知れない
動いているのは 自分
#大空
「今井、お前さ。数学苦手なのは知ってるけどさ、流石に赤点はないだろ、流石に」
真壁先生は困ったように、頭を赤ペンの先で掻いた。
ふううう、とため息をつく。
放課後の呼び出し。数学25点の私。
「すみません、テスト開始のベルは聞こえてたんですけど、ボーッとしてて」
「何だ、寝不足か」
「いえ、先生を、見てて」
私が言うと真壁先生はピクッと動きを止めた。キャスター付きの椅子に座っているから、下から覗くように見た。メガネの奥の切れ長の目に釘付けになる。
「試験監督が先生だったので、見惚れてました。すみません」
入学したときからの私の憧れ。
真壁先生は眼鏡を外して目を指で揉んだ。そしてため息をついて、
「今井、三年だよな。誕生日いつだっけ」
と尋ねる。
「12月です。21日」
「あと三ヶ月か」
「?」
「俺、未成年には手、出せねえよ。それまで待てるか」
そう言うから私は「……教え子もまずいんじゃないですか」と言ってやる。
先生は真顔で嫌そうにした。
「在学中は諦めろ。春になったらだな」
私は嬉しくて頬が緩むのが分かった。
そんな私に「ニヤニヤしやがって。赤点のくせに」
と睨んでくるから、
「先生のせいですよ。試験監督のくせに私のことじいいっと見てたじゃないですか。丸一時間」
あんな目で見られたらテストどころじゃないですよと抗議。
「まあ、すまん」
先生は否定しなかった。
存分に見つめ合い、視線を交わせる唯一の時間。
私たちにとって至福のひとときだ。テストの最中は。
#
ベルの音