KAORU

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「お。ハンドクリームか」
 夫がリビングに来るなり、鼻を引くつかせる。柚子の香りのお気に入りのものを塗っているところだった。
 私は頷いた。
「今日、大掃除したからね。荒れないように」
「ねえ、覚えてる?君を好きになったの、そのハンドクリームがきっかけだってこと」
「覚えてるよ」
 微笑む。
「高校の時、冬に教室で私がこうやってハンドクリーム塗ってた時、たまたま前の席にあなたが座ってたんだよね。で、クリーム出しすぎちゃって勿体ないからあげる、って塗ってあげたね」
 夫も同じ笑顔になった。
「懐かしいな。女の子にそんなことされたこと無かったからさ。一発で落ちちゃった。俺ってチョロいよね?」
「そんなことないよ。ちなみに計算じゃないからね、あくまで善意」
「どうだか」
 わざと首を傾げる夫の手に、多めに出したクリームを塗ってあげる。うちの年中行事だけど、彼も満更でもなさそうだった。

 柚子の香りのハンドクリームは、私たち夫婦のラッキーアイテム。

#柚子の香り
100作目です。いつも読んでくださってありがとう

12/22/2024, 8:51:46 PM