僕と君は、遠距離でイルミネーションを見に行くデートもままならないから、
同じ星空を見上げよう。
Youtubeの天文台ライブカメラにアクセスして。同時視聴するんだ。
「あっ、今流れたね!」
「見えたよ、綺麗だねえ」
ワイン片手にそんなやりとりをすれば、それなりにロマンティック。
今夜はふたご座流星群。ダイナミックな宇宙のイルミネーションを君とふたり、堪能するのさ。
#イルミネーション
コーヒーを丁寧に淹れるときって、あれ、飲み物を作っているっていうより、愛情を注いでいると思うんだよね
じっくり 深く
はい、どうぞ
#愛を注いで
あたしには、カップルのあいだにある、赤い糸が見える。左手の薬指と左手に薬指に糸がつながっているか、心と心がつながっているかどうか、小さい頃から見えていた。
他の人には見えないのだ、自分だけの能力なのだと知ってから、口に出さないように気を付けて生きてきた。
あたしの目に赤い糸が映るカップルは、どんなに遠距離になっても、困難が訪れても結局むすばれるし、どれだけ仲良さげなカップルも、それがつながっていなければ最終的に破局した。
怖い力だ。知らなくていいことだって、この世にはあるしね。
でも、いまのところこの能力は消えそうにないし、つきあっていくしかない。
問題は、……
「ん? どうかした? 茜ちゃん」
隣を歩く彼を見上げていたあたしは、はっと我に返る。いつの間にかぼうっと見とれていたらしい。
彼は不思議そうにあたしを見ている。
「ううん、何でもない」
そう言うと、彼はそう?と微笑む。優しい彼。出会った時からずっと。
問題は、自分の左の薬指に、この人とつながる糸が見えないことなんだよねえ。
これが、自分のことは見えない特殊能力「あるある」なのか、それとも、運命のひとではないからなのかーー。見極められないのが目下の悩み。
#心と心
「多恵子さん、何かあった?」
殿山くんが言う。シンク前で並んで食器を洗いながら。
食洗機はあるけれど、二人分のワンプレートぐらいなら、手洗いでササッと洗ってしまいたい。
「え、なんで? 何ともないよ」
水で洗剤を洗い落としながら言うと、「そう?」と深追いはしてこない。
「……」
「……」
微妙に気まずい。私はきのう掛かってきた父親からの電話を思い出していた。
いなかの父が、上京してくるという。久しぶりに顔が見たいと。
大学に進学して、こちらで就職してから、実家にはお正月とお盆に帰省するぐらいだ。母が他界してからは、あまり足が向かない。
父はホテルと取ると言っていたけれど、やはり私のマンションに誘った方がよいのではないか。田舎暮らしのひとだし、東京を一人で歩くのも老齢で、たいへんなんじゃ。せめて私のうちに泊めてあげたい気もする。
でも……。
「あのさ、多恵子さん、何でもないフリしなくていいんだよ。何かあったら、俺、聞くから」
遠慮がちに、でもしっかりした口調で殿山くんは切り出す。いろいろ考えた末ということがわかる、声音で。
「何ができる訳じゃないけど、聞くだけならできるから」
「うん。ありがとう」
好きだなあと思う。こういうとき。
8つも年下の、部下のこの男の人が、私は好きだ。まっすぐに私を愛してくれる。
私はぴとっと彼にくっついた。彼はお皿拭きをしていた手を止めて、私を見た。うっすら赤くなっている。
可愛い。
私から背伸びして殿山くんにキスをしながら、私は「問題は、彼と同棲をし始めたことなんだよねえ……」と内心思った。
#何でもないフリ
「紅茶の香り9」
「仲間っていいよなあ」
なんて言うやつを信じちゃいけないよ?
仲間だと思ってたら、そんなことは面と向かって口にしないものだからさ。
#仲間