ずっと一緒に居たかった。それだけが私の望みだった。それだけで私は満たされていた。のに。
[時間は進む。無常にも。]
雨降る街の中、道の端の電柱に、傘が一本、何かを守るように開かれたままで置かれている。
傘の下、タオルの敷かれた箱の中で、小さな黒い塊が6つ、微かにうごいている。隅にいる塊が小さく『にゃお』と鳴けば、それに呼応するように『にゃお』『にゃお』と声が上がる。
雨降る街の中、通行人は誰もいない。
それでも小さな生命達は、必死に生きようと、まあ『にゃお』と鳴いた。
『にゃお』『にゃお』
母親を呼ぶように。
『にゃお』『にゃお』
誰かに気づいて貰えるように。
『にゃお』『にゃお』
『にゃお』『にゃお』
『にゃお』『にゃお』……
雨が上がり、街に光が降り注ぐ。
傘を閉じた通行人は、腕の中にあるダンボールをしっかりと抱え直し、中にいる塊をさらりと撫でる。まるで壊れ物を扱うかのような、暖かなその手に答えるように、小さく黒い塊は、大きく『にゃお』と鳴いた。
[新しい家、新しい家族。もう雨に濡れることはない。]
物陰に隠れて一息つく。巻いたばかりの包帯に血が滲む。
きっとまだ敵は沢山いる。
味方とははぐれてしまった。
向こうから銃声音がしなくなって数分は経つ。
……隠れられていると信じたいが、きっとその可能性は低い。
昇格すると同時に部下も出来て、調子に乗って「お前らのことはこの俺が守る!ついてこい!」なんてカッコつけていたらこのザマだ。
作戦は失敗。部下を全員死なせ、一人でのこのこ帰ろうもんなら……いっそここで死んで、英雄にでもなった方がましかもしれない。
それでも。
俺は死ぬ訳にはいかないのだ。
這ってでも帰らなければならない家がある。
俺を待っている人がいる。
彼女の言葉が、脳裏によぎる。
『また賭け事でお金溶かしたの?今日のおやつは抜きですからね!』
ちょっと今それどころじゃない。
[脳裏に過ぎってほしかった言葉はそれじゃない。]
君とくだらない話が出来ることの、なんと素晴らしいことだろう!
中身のない、空っぽな会話。適当に相槌をして、
そうやってまだ君と話をしていたい
君の紡ぐ言葉を永遠に聴いていたい!
……でもすぐに、この時間にも終わりが来てしまう
だからせめて、太陽がこの世界に飽きるまで
君の隣にいることを、君は許してくれるだろうか?
[いつまでも、意味の無い話をしていよう。私はそれを望む。]