ゆずの香りを漂わせ
我が物顔で街を歩く彼女は
恐れなど知らない
それは強さか若さか
あるいは愚かしさの現れか
真ん中を歩く彼女は
後ろの私を気にしてか
時折に振り向いて
そんな価値は無いよと
苦笑する己には
真ん中を歩く資格は無いと悟って
汚れなき人
後ろから見守らせて
汚れなき人
愚かしいままでいて
汚れなき人
振り返りはしないで
汚れなき人
そこから消えないで
何れ、背が視界から消えても
ゆずの香りにて思い出させて
#ゆずの香り
久し振りに見上げた空を、
大きな鳥が横切って行った。
遠い空の果ては続いてて、
幾つもの国や何億もの人が居るらしい。
知ったこっちゃないが。
好きなだけやってくれ。
好きなようにやってくれ。
私はこの手の内で精一杯だ。
何も自由になりゃしない。
あの鳥は空を渡るのだろうか、
知らないが渡るなら伝えといてくれないか。
勝手にやれよ、こっちも勝手にやるよ。
会えたなら、その時はよろしくな。
空を見上げる余裕くらいはあったらいいな。
お互いにな。
#大空
あの音を止めてくれ
あのけたたましく鳴るベルの音を
俺を引き戻さないでくれ
良い夢を見ていたんだ
誰もが幸せな世界の夢を
孤独とか戦争とか
争いとか諍いのない
そんな素晴らしい世界の夢を
誰もが幸せな夢を
その音を止めてくれ
そのけたたましく鳴るベルの音を
俺を引き戻さないでくれ
まだ夢を見せてくれ
#ベルの音
冬の夜空はやけに透明だということを、
今更になって思い出した。
あのどこまでも深い穴のような空を、
なぜ忘れていれたんだろうか。
綺麗と笑う、君の吐き出した息の白さが、
その色をより際立たせた。
一緒に落ちてはくれないか。
あの穴の中ででも、その白ささえあれば、
気を違えずに居られそうなんだ。
冬の夜空は透明だから、
白さだけが際立った。
#冬は一緒に
終わりは忍び足でやって来て、
後背を鋭く刺して来る。
樅の木の擦れる音で聞こえなかった。
あるいは私の愚かさ故か。
こんなになるまで気づかなかった。
離れていく足音を聞いている、
足元に降るのは雨か。
いっそ雪になれば良い、
降る音を聞かずに済む。
こんな愚かな者から溢れる音など、
雑音でしか無いのだから。
#雪を待つ