蹲って手を見ていた。
生命線は途切れてて。
優しい人ねと占いの人に言われた手相で、
優しさだけで生きてられたら良いのにね。
窓を見る、暗がりの部屋に自分が映る。
自虐の笑みが張り付いていた、
卑屈な皺は罅割れに似てる。
素面になるなよ、酔いが足りない。
安酒を飲み干す、酒精にて誤魔化して。
空っぽに追いやって、吐気と一緒に吐き出して。
内臓ごと捨て去って、いっそ全部消えさせて。
蹲る、ここは逃げ場所ではない。
遡る、そこは行き場所ではない。
せめてここから消えさせて。
#部屋の片隅で
眠れない夜は、祈ります。
内容は些細な物から大きな物まで。
明日の天気や食事の事から、
身体のことから世界の事まで。
様々な事を祈ります。
けれど、最後に祈るのはいつも同じなのです。
あなたの事を祈ります。
身体を壊しませんように。
心を病みませんように。
泣いてなどいませんように。
笑っていますように。
幸せでありますように。
どうか明日は幸せでありますように。
眠れないほど祈るのです。
#眠れないほど
昼は明るすぎて、夜は暗すぎるから、
夕暮れが好きだった。
人の顔も曖昧で、
なおかつ周囲が見渡せる。
それくらいの明かりで良かった。
それくらいの暗がりが良かった。
顔も知らない僕たちは、
寂しがりのハリネズミに似た、
刺々しい優しさしか持てないから。
傷付け合わない様にそっと離れた。
時期に暗闇に溶けるから。
忘れないようにそっと伸びた影で口付けた。
#光と闇の狭間で
気が付くと路上に転がっていた。
ぼやけた頭でやけに青い空を見ている。
最後の記憶に残るのは、
横断歩道を渡る所と後ろからの悲鳴。
錆びついた脳でも理解は出来た。
あぁこれは死ぬだろうな。
きっと、そうだろう。
手足の感覚がわからない。
痛みすらないから。
こんな風に死んでいくのか、
こんな事で死んでいくのか。
意味も知らず、訳も分からず。
殺した奴の顔すら知らずに死んでいくのか。
まぁ良いか、どうでも良いか。
俺の人生みたいだな。
青空が暗く薄らんだのは、
俺の瞼か。
最後に思い出すのは、貴方の顔。
泣いてる貴方の顔。
あんまり笑わせられなかったな。
ごめんね、泣かないで。
#泣かないで
冬とは終わりの季節だ。
皆なにもかも枯れ果てて、
何かに耐えるように縮こまる。
チラついた雪を眺めて思う。
冬の全てを儚く思えるのは、
きっと己の事そのものだからだ。
この掌でほどけた、雪の結晶と同じだからだ。
春には私も溶けるだろうか。
積もるであろう雪と一緒に。
枯木は咲くだろうけど、己は疲れた。
煙草に火を灯す。
吐いた煙は息の白さか、
それも分からずに。
#冬のはじまり