劇を見ていた
人の一生、生まれてから死ぬまでの物語。
波乱万丈、山あり谷あり。
出てくる人は皆、それぞれの魅力で溢れていた。
誰もが苦悩しながら、
時には喜んで、時には怒って、
時には涙して、時には笑ってた。
時間を忘れて、夢中になって見ていた。
気が付けばエンドロール、
主人公が死ぬシーンで終わり。
カーテンコールが鳴り響く。
死んだはずの彼らが段上へ上がる。
行かないでくれ、終わらせないでくれ。
役者が一礼して、万雷の拍手と共に幕が下りる。
私をここに置いてかないでくれ。
劇場の明かりが灯され、席を立つ人々。
私は立ち上がれなかった。
私は観客のままだった。
#終わらせないで
揺蕩うような感覚で、今日を泳いでも。
高潮に攫われて、明日へ流されて。
終わらない微熱みたいに、
なんとなく怠い日々を過ごす。
いっそ、もっと熱くして、
全部燃やしてくれたら良かった。
揺蕩う水さえ無くしたら、
きっと歩くしか無いのに。
揺蕩う熱に溺れてた。
#微熱
「愛されたかった訳ではないのです。
許されたかっただけなのです」
震えた声で彼女は語る。
「優等生でいました、そうすれば褒められる気がしたから」
彷徨きながら、その場をぐるぐると回りながら。
「テストで良い点取りました、褒めてくれたから」
落葉を蹴散らす音は声と共に大きく。
「殴られても笑いました、良い子だって言われたいから」
一際大きく落葉を蹴り上げて、彼女は止まった。
「全てやりました、許されるために」
小さな声で堪える様に絞り出した、
「どうすればよかったんですかね?」
口角を歪めた、その顔は自嘲な薄笑いで満ちていて。
「許されたかっただけなんです」
夕日が彼女の顔を照らす。
「愛してくれなんて言わなかったのに」
日に輝く涙だけが美しく。
言うべき言葉など見つからなかった。
#どうすればいいの?
キャンドルの火が消える頃に、
この部屋を出よう。
暖かな灯に慣れる前に、
この部屋を出よう。
さよならの言えるうちに、
目が慣れぬ内に、
暗闇で生きていけるように。
光など求めないように。
火をそっと溜息で吹き消した。
白い煙が後悔の様に残った。
#キャンドル
子猫がいた。
そこにいたんだよ。
もういないけど。
いってしまったから。
ぬくもりだけを残して。
明日には俺も消えるよ。
あんたはどうする?
#子猫