入木

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11/14/2022, 1:13:05 PM

降る秋の風は湿った土の匂いがした。
11月の昼下りは、肌触りに冬を混じらせた。
ブーツに纏わりつく落葉は夏に置き去った後悔か、
足取りを少し躊躇わす。
遠くへ行こう。いま決めたのだ。
秋の日は心もとなく、影は薄ぼやけ。
落葉を蹴散らす、秋風は味方ではなく。
だが、それが心地よかった。

#秋風

11/11/2022, 1:34:41 PM

「翼なら持っていたんだ、ずっと昔から」
枯れかけた翼を触る、手は美しく細い。
「空も飛べたんだ、きっと昔なら」
弾んた声は小鳥のように高い。
「飛んだことは無かったけど、
そんな気がする」
言い訳を重ねる様に声は声は落ちる。
「けれど、もう遅い気がする」
翼を撫でる手が震える、
傷のない、柔らかな手が。
「羽も枯れて落ちたんだ、どこに行けると?」
重力に負けたその身では、
余りにも空は遠すぎる。
「それに飛ぶにはもう重すぎるから」
重いのは体か、それとも心か。
「飛べたんだよ、きっと昔なら」
言うその言葉だけが軽かった。

#飛べない翼

11/7/2022, 10:20:11 AM

貴方と私は良く似ていました。
好きな物、嫌いな物。
食の好みから、好きな映画。
死生観まで同じで。
自分が嫌いな所まで良く似ている物だから、
きっと貴方が嫌いだったのですね。
今になってわかりました。
鏡合わせの様で、見ていられなかったのです。
今、貴方はどうですか?
きっと同じ様な物でしょう。
どうぞ幸せに。
そう祈らずに居られないのです。
鏡合わせの二人だから。

#あなたとわたし

11/6/2022, 10:57:54 AM

諦めた日は雨の中を出かける。
傘を突く雨粒の音が柔らかく鼓膜を撫でる。
他にやり方はあっただろうか?
意味のない言葉が浮かぶ。
傘を捨てる、頭蓋に当たる雨がより聞こえる。
撫でるように水滴が頬をつたる。
考えばかりが巡る夜、
雨音だけが優しかった。

#柔らかい雨

11/3/2022, 5:00:13 PM

鏡という物が嫌いです。
醜さを見せつけられるから。
愚かに思えて来るのです。
生きながらえてる私が。
時に消えたくなるのは、
虚ろな目が見つめるからか。
鏡の中の私が笑った。
哀れみの混じった、見下した目をしていた。

#鏡の中の自分

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