「とりとめもない話」
………ん?と、とりとめ…?なんだとりとめって、
お題を見た瞬間、生まれて初めて目にした言葉に戸惑った。
同時に、「へぇ、世の中にはこんな言葉もあるんだなぁ…」という感心のような気持ちと「なんだ、こんな言葉も知らないのか」という自分に対しての言葉の知らなさというか、知識の無さに失望のような気持ちが浮かんだ。
字面から想像するに、多分プラス方面の言葉じゃないのかもしれないな、「〜ない。」って否定的な感じがするし。
そんな事を考えながら一度このアプリを閉じて、頭文字Gの某検索アプリを開いた。言葉を打ち込む行動一つするだけで、知りたいものについての多くの情報が簡単に出てくる。まさに文明の利器。便利な時代になったものだ。
ええっとなになに…?特に重要ではない話、雑談…。四字熟語では荒唐無稽…類語は、世間話……無駄話…。
トップに出てきた説明文を読んで、関連するキーワードを見て、言葉を考えて、意味を理解する。
あーー……成程。
アプリを閉じて、今度はトーク画面を開き、受話器のマークをタップする。
………あ、もしもし?今暇?……え、聞いてよ、さっき知らない言葉があってさ、気になったから調べたんだよ。……「珍しい」ってお前、はぁー?いやほんとにお前も聞いた事ない言葉だって、本当に!!
とりとめのない話、
重要性のない話、
くだらない話
だけど、もしかしたら、それは誰と何について話すかによって質や見方が大きく変わってくるのかもしれない。
こんなどうでもいい話でも誰かと話したり、話題を作るきっかけになるんなら。そこから広がって今度はお互いの「とりとめのなくない話」が出来るんなら。
偶にはこんな始まり方の会話をしたっていいんじゃないか。
失ってからその大切さに気づくだなんて、絶対にありえない。
本当に大切なら最初から大事にしてるばすだ
宝物は自分だけのもの
誰にも見られないよう、
盗られないよう、
壊されないように
上手に隠しておく
その方が安全だから
「ねぇ、見てコレ懐かしい!」
いつものように勝手に部屋に上がり込んで来た君。突然本棚を漁り始めたと思えば、まるで宝物を見つけたかのように目を輝かせ何かを顔の前に突きつけてきた。いや近い、見えんわ。
「幼稚園の頃のアルバムじゃ〜ん…うっわなっつ…!」
埃被った表紙を軽く撫でながら君はやや興奮気味にそう呟く。見てもいい?なんて聞いておきながら既に開いているのを見て思わず苦笑した。アルバムなんて、見てもたいして面白いものはないと思うのに。楽しそうにページを捲り続ける君を横目に見ながらそんな事を考えるが、さっきの君が言った言葉の通り、確かに懐かしいな…とは思う。一緒になって覗き込んでみれば、どの写真にも必ず君の姿が隣に写っていて。2人して「仲良しかよ」って顔見合わせて笑った。ふと、君が「あ」と声を漏らす。どうかした?と尋ねれば、君は穏やかに微笑んでこう言った。
「これからも2人でたくさんの思い出、作っていこうね。」
何か音が聞こえてくる。その音の正体がスマホのアラームだと気付いたのと同時にぼんやりとしていた意識がはっきりとしてきた。音の出所を布団から手を出して適当に探してみる。少し隙間ができてその間から冷たい冬の空気が入り込んで身震いする。ようやく充電器を差した状態のスマートフォンを見つけた。それを手に取り、目を開けることなく取り敢えず音を止めようと画面に適当に触れ、音が止まれば冷たい空気を温め直すかのようにまた布団に潜り込む。
あー…暖かい……。
直ぐに意識が落ちそうになる。そういえば昨日朝イチで課題をするために早めの目覚ましをかけた気がするが,どうもまだ布団から出る気が起きない。あーあー、せっかくアラームかけたのに。でもまぁ…いいや。何時かは確認していなかったが起きるのはまだ後ででいいだろう。課題もそこまで時間がかかるようなものじゃなかった気がする。兎に角あと15分ぐらい二度寝させて欲しい
布団の中でそんな言い訳を考えながら押し寄せてくる睡魔に大人しくもう一度意識を手放した。今目を開ければ、まだ太陽が登りきっていない、薄紫に染まった冬の空が窓から見えるだろう。