月凪あゆむ

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4/18/2023, 11:12:25 AM

無色の世界

 「無色の世界」とは、どんなものだろうか。
 なーんて、ちょっと小難しく考えてたらダメよ。

 無色。色のない世界。何もない世界。
 すなわち、眼が機能していない、視界。


 なんて、きっと私たち「有色の世界側」、つまりは目が見える側には、分からないもの。きっとね。
 だって、そうでしょう。
 無は有に成れず。有は無に慣れず、よ。

 だからこそ。
 無は無を制せる。
 つまり、無を受け入れることで、無である自分を、解るの。
 そして、有も又、無を解れば、共に在れるの。

 一応、それなりに簡単に言うとね。
 

 目が見えないひとは、ほぼ目が見えるようにはなれない。
 目が見えてたひとは、いきなり目が見えなくなることを、すぐには受け入れられないことが多い。
 
 でも。

 目が見えないことを、良しとすることで、自分のことが理解出来る。
 自分の身体を、初めて本当に理解することで、見えない自分を、そのままで有ろうと思える。
 そして。
 目が見えるひとでも、理解し、尚且つ望めば、見えない目に寄り添うことも、きっと出来る。



 ……まあ、この話はね。あなたがもっと大きくなったら、お父さんに聞いてみるといいわ。
 ふふ、仏頂面で、今とおんなじように答えてくれるはずよ。
 なんてったって、私たち二人の考案のものだから、ね。  

4/14/2023, 10:47:36 AM

神さまへ

 なんで、俺はこんな身体なんだ。
 俺は嘆いた。
「あなたの体が、生きたいと言ってたからよ」
 医者はそう言った。
 そんなはずはない。こんな、全身包帯で巻かれた、こんな焼けた身体が。
「……勘違いするんじゃないよ。言ったのはあんたじゃない。あんたの体の、細胞だよ」
 なんだって?
「あんたらはね、産まれるまえから、生きることに貪欲なんだ」
 馬鹿なことを。
「あんたが、どんな悪党かなんて、あたしら医者には、全く関係ないことなんだ。まったくね」
 なら、俺はまだまだ、この痛みと向き合わなくてはならないのか。
「……まあ、この火傷は。あんたが殺した人間からの恨み、或いは神さまからの天罰。とでも思うんだね」
 そう、その医者は言った。
 そうか。それなら納得できる。

 しかし何故、俺は喋っていないのに、会話になっているんだ?

「そんなの」
 ふっと、視界から医者が見えなくなった。
 ……いや。正しくは、視界がなくなったのだ。


「ここが、神さまのいる場所へ魂を送るか、地上へ返すかの、選定の場だからね」


「あんたは、体が生きようとしている。加えて殺人犯は、地上にて人間らしい裁きを受けないと、ね」
 その医者は、最後にそう言って、俺の焼けただれた身体に触れて、わざと痛みを与えた。
 ああ、そうか。
 「神さま」はどうあっても、俺を生かしたいらしい。


 その記憶は。
 地上へと返された俺には、残らなかった。
 何一つ、全く。
 神さまよう、これで満足か?

4/12/2023, 5:06:18 AM

言葉にできない

 どう考えたらいいんだろう。
 ひとから言われた。
「悩み、なさそうでいいよね」
 えぇ……?
 そう見えるの?

 言わないだけで、悩みだらけよ。
 だって、一つの言葉にしちゃったら、そこで「固定」されちゃうでしょう?

 ひとは大抵、よほどでない限り「長所と短所」がある。
 例えば
「あの子、ウザい」
 と一言言えば、きっと周りは
「あ、あの子のこと嫌いなんだな」
と解釈される。
 でもよく聞いて。
「あの子「いつでも元気なのマネ出来ないから」ウザい」
だったら?

 一つは肯定して、一つは否定している。
 矛盾だと、言われてしまうかもしれないけれど。
 元来。人間の感情は「矛盾だらけ」だと思うの。
 でも、それは周りを困惑させる。
 だから私は、あまりオーバーには感情を言い過ぎないようにしてるの。


 不確かなことは、言葉にできないだけで。
 これでも、実はいろいろ考えてるんだからね。

4/10/2023, 10:34:24 AM

春爛漫

 いつも思うの。
 あなたたちはどうしてこんなにも、わたしたちに心惹かれてるのかしらって。

「開花宣言」

 どうして「花が開く」の、そのままの意味の宣言を、いつかいつかと、待ちわびているのかしら。

 イヤね、昔はカメラのシャッターだったのが、今はただの眩しい光をかざす長四角の……そう。「スマホ」の穴ばかりが、わたしたちに向けられているじゃない。

 昔の方がまだ、わたしたちを眺める人の顔が見えていたわ。
 その、うっとりと綻んだ顔を見つめるのが、わたしたち草花の楽しみなのに。
 今はよく見えないわ。

 ねえ。もっと間近で、わたしを見て。
 キラキラしてる人間の眼、わたしは嫌いじゃないのよ。
 
 ほら、今わたし、あなたの前で少し花びらの開きを大きくしてみたの。
 

 ──どう? 綺麗に見えているかしら?
 その、ただの人の眼で、よぉく見てごらんなさいな。
 春だけの、わたしたちの一瞬を。

4/8/2023, 10:54:12 PM

これからも、ずっと

 出来ることなら、ずっとそばにいたかったな。
 どうしてこんなに、ボクとキミは、生きる長さが違うんだろう。
 キミは泣きながら、でも一生懸命笑って、ボクに言ってくれる。

「ポチ、ありがとうね」

 ごめんね。ずっとそばで、一緒に生きれなくて。
 でもね。あのね。
 キミのこと、ボクはずぅっと、これからも見守っていくよ。
 もし、新しい家族を迎えても、何も文句はないよ。
 それでキミが笑ってくれるなら。
 でもね、お願い。
 たまには、ボクを思い出して、みんなで笑って?
 キミたちが笑ってくれるから、ボクは此処に来れて、家族になれて。

 なによりも、幸せだったよ。
 これからも、幸せだよ。

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