『月夜』
チリチリ鳴き出す松虫に
ススキの微かに擦れる音
笑みを湛えた三日月が
照らす光と生む闇で
人が見出す憂さを晴らす
ほうほう鳴く梟と
紅葉の錦が落ちる音
蛍は舞わぬが光が爆ぜる
人の命もこれ如何に
『絆』
縁
関係
結びつき
君との事を表すには
少々似合わない言葉たち
100万ドルの難問よりも
かぐや姫の無茶振りよりも
見つけるのはきっと難しい
もっと深遠で
もっと複雑怪奇で
最も心を込めた言葉を
何処を探せば良いのかも
どんな文献を開けばいいのかも
未だにさっぱり分からないが
君の道のりを辿ってみよう
僕がそちらに渡る前に
きっと相応しい言葉を
君に叫んでみせるとも
『たまには』
たまには一緒に呑もうじゃないか
僕は菊水の辛口を
君はカシスオレンジか
ビールの良さがわからないと
コーラを飲んでた気がする
夜桜咲く宵に酔ってたようだ
どうも眠っていたらしい
ここで寝たら風邪をひくよ
そう言ってくれるかい
心配させる前に帰ろうか
いや、まだ月を見ていたい
突風が吹いた
花に嵐の例えもあるらしい
また酌み交わそうじゃないか
墓前の前で酒宴をするぞ
月光のもと
烏が一羽こちらを見ている
酒を狙っているのだろう
あれは君じゃないのかい
縁起が悪いと言うけれど
僕はしっかりその目を見た
『大好きな君に』
時計の針を逆に回しても
去年のカレンダーをそのままにしても
花弁を一枚ずつ千切っても
三次元が四次元になろうとも
何かが歪まない限り
きっと君には逢えないだろう
流れる時に笹舟を流しても
二度と戻ってくることはない
宇と宙の間にでも行けば
何か痕跡があるだろうか
僕は空を眺めながら
そんな夢想をしているのだ
夢に出てくれとまでは言わない
せめて僕が観ている間に
一筋星を流してほしい
『ひなまつり』
我ここに在りと咲く桃は
艶やかな香と色で惹きつける
君の泣きそうな
でも嬉しそうな姿を
教会のある丘の上から
ただぼんやり見つめていた
君は桃の節句の主役になれるだろう
気弱な僕は主役は張れない
下段の笛吹きで構わない
世界一の笛吹きになろう
迷惑でないのならば
少し君の隣で吹かせてほしい
その時は微笑みを湛え
耳を澄ましてほしいのだ