傾月

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8/27/2023, 9:52:25 AM

日記ってな、続かへんのんよ。
単に面倒臭いってのもあるんやけど、何よりも、そんな毎日毎日書くことある?ってなって。
せやから、日記ずっとつけてますって人、ほんまに尊敬する。
この日記帳もな、買うたんえらい前やねんけど、ほら見て。書いてあんの、ものの3〜4ページやで。ま、自慢げに言うことやないねんけど。
イヤなこととかツラいことがあった時だけ書こうかなーってしたら、愚痴と呪いのオンパレードになって閻魔帳みたいになってまうし…。
ほんま、なんなん。
日記なんて書くもんやないな!
                     ○月△日(✕)


―――今日の日記


                  #54【私の日記帳】

8/26/2023, 9:59:08 AM

ちょっとショートカットしようと思って入った路地で、妙なヤツと出くわした。上から下までグレーの服。銜えタバコで小脇にカバンを抱えてる。さながら、そう『モモ』に出てきた『灰色の男たち』みたいな。
嫌な空気を感じた俺は、さっさと通り過ぎようと歩を速めた。すれ違いざまに、好奇心に勝てず顔をチラリと見たのが良くなかった。目が合ってしまった。
灰色の男が付いてくる。俺が速く歩くとヤツも速く、俺が遅く歩くとヤツも遅く。怖くなった俺は、あの曲がり角を曲がったら大通りまで一気に走ろう!そう思って角を曲がった瞬間、人とぶつかってしまった。
スミマセン!と謝り見ると目の前に灰色の男。ヒッ!と声にならない声を上げて、逃げようとしたが、どうしたことか体が動かない。どんなに身を捩っても、手も足も動かない。
灰色の男がこちらに手をのばす。両肩を掴まれ、後ろに押される。ぐいぐい押され、ついには壁にドンッと押し付けられた。汗が吹き出る。最後の力を振り絞って助けを呼ぶ為叫んだ。
その瞬間、シャーッという声と同時に頬に痛みが走った。

目を開くとこちらを覗き込んでいる愛猫と目が合った。辺りを見回すと、自室の床の上だった。あれがただの夢だと解り、安堵のため息をついた。
寝返りを打っている間に毛布でぐるぐる巻きになったのが原因のようだ。そのままベッドから落ちたらしい。
情けない話だと落胆しながら、多少痛む腰を擦りながら洗面台へ行く。鏡を見ると、頬に一筋の引っ掻き傷。
振り返って愛猫を見ると、涼しい顔をして毛繕いをしている。「悪夢から呼び戻してくれてありがとな」と言うと、愛猫がニャアとひと鳴きした。


―――よるのゆめこそ [ひと仕事]


                 #53【向かい合わせ】

8/25/2023, 9:57:08 AM

やるせ‐な・い [ 遣る瀬無い ]

1 思いを晴らすすべがない。せつない。
2 施すすべがない。どうしようもない。
3 気持ちに余裕がない。

今はそう…2だな

―――国語辞典より


               #52【やるせない気持ち】

8/23/2023, 2:26:54 PM

階段を下り砂浜に立つ
足が砂に沈む
靴を脱ぎ裸足になる
砂はひんやりとして心地良い
夜明け前でまだ薄暗く辺りに人気は無い
少し強い風に髪が乱される
沖合で白波が立っているのが見える
ザクザクと砂浜を歩く
少し進んだ先で腰を下ろした
砂に手をつくと砂以外のものに触れた
シーグラスだ
私の手が触れていたのは水色
その向こうには緑色のシーグラス
更に向こうに茶色のシーグラス
よく見ると彼方此方にシーグラスが見える
1つ2つ拾う
3つ4つ拾う
気付けばすっかり夢中になってしまっていた
空が白んでいる
両手いっぱいのシーグラスを波打ち際で濯ぐ
濡れたシーグラスを1つ目の前にかざす
それと同時に日が昇り始めた
シーグラスが太陽の光を浴びてキラキラと輝く
ああキレイだ
気に入ったものをいくつかポケットに入れる
良く解らないが満足だった
心が満たされたような気がした
またザクザクと砂浜を歩く
砂を払って靴を履き階段を上がる
またこの海に来よう
輝く海を見ながらそう思った


―――海と私


                     #51【海へ】

8/23/2023, 2:32:51 AM

羽織っていたカーディガン  向かいのドア横に立ってい
が裏返っていることに気付  る女の人の服が裏返ってい
いたのは、帰りの電車の中  ることに気付いたのは、帰
だった。          りの電車の中だった。        

え?今日1日これで過ごし   あ、カーディガン裏返って
たの?いやいや待って。今  る。気付かずに今日1日過ご
日1日で一体何人に会った   したってことか?俺も何回
よ。朝はお隣さんと管理人  かやっちまったよなー。小
のおじさんでしょ。通勤中  学校の時はプールの後で、
の全ての人。仕事中もずっ  中学の時は修学旅行で。み
と着てたから、少なくとも  んなに笑われて恥ずかしか
課内の人たちみんな…。そ  ったから、ちゃんと気を付
うだ!昼休みに営業部のイ  けてたのに、3回目はまさか
ケメンとすれ違った!あー  の初デートの日。彼女がそ
もう最悪!っていうか今こ  っと指摘してくれたから、
の時も絶賛晒し者だわ!ど  すぐにコンビニのトイレで
うしよう、とりあえず次の  元に戻したけど、あれはカ
駅で降りてトイレで直すし  ッコ悪かったよな…。あの
かないか…。お願い、誰も  人、言ってあげた方が良い  
気付いてませんように!   かな?  

電車がホームに停まった。  電車がホームに停まった。
ドアが開いても、慌てたそ  ドアが開いて女の人が降り
ぶりを見せずに平静を装っ  て行く。慌ててあとを追い
たまま歩き出す。その時、  かける。人が少なくなった
後ろからそっと声を掛けら  タイミングで声を掛ける。
れた。「服が裏返ってます  「服が裏返ってますよ。」
よ。」指摘されたことが恥  すると顔を真っ赤にしなが
ずかしくて、思わず「わざ  ら振り向いた彼女に「わざ
とです!」と言ってしまっ  とです!」と言われてしま
た。            った。

そんな訳ないじゃん。    んな訳ねーじゃん。

即座に自分で自分にツッコ  思わず内心でツッコミなが
んだ。勇気を出して声を掛  らも、恥ずかしい思いをさ
けてくれたであろう彼に内  せてしまったことを申し訳
心で謝罪しながら、一礼を  なく思った。一礼して走り
するのが精一杯だった。そ  去る彼女の姿をただ静かに
して一目散にトイレを目指  見送ることしか出来なかっ
した。           た。


―――裏返し


                    #50【裏返し】

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