傾月

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ちょっとショートカットしようと思って入った路地で、妙なヤツと出くわした。上から下までグレーの服。銜えタバコで小脇にカバンを抱えてる。さながら、そう『モモ』に出てきた『灰色の男たち』みたいな。
嫌な空気を感じた俺は、さっさと通り過ぎようと歩を速めた。すれ違いざまに、好奇心に勝てず顔をチラリと見たのが良くなかった。目が合ってしまった。
灰色の男が付いてくる。俺が速く歩くとヤツも速く、俺が遅く歩くとヤツも遅く。怖くなった俺は、あの曲がり角を曲がったら大通りまで一気に走ろう!そう思って角を曲がった瞬間、人とぶつかってしまった。
スミマセン!と謝り見ると目の前に灰色の男。ヒッ!と声にならない声を上げて、逃げようとしたが、どうしたことか体が動かない。どんなに身を捩っても、手も足も動かない。
灰色の男がこちらに手をのばす。両肩を掴まれ、後ろに押される。ぐいぐい押され、ついには壁にドンッと押し付けられた。汗が吹き出る。最後の力を振り絞って助けを呼ぶ為叫んだ。
その瞬間、シャーッという声と同時に頬に痛みが走った。

目を開くとこちらを覗き込んでいる愛猫と目が合った。辺りを見回すと、自室の床の上だった。あれがただの夢だと解り、安堵のため息をついた。
寝返りを打っている間に毛布でぐるぐる巻きになったのが原因のようだ。そのままベッドから落ちたらしい。
情けない話だと落胆しながら、多少痛む腰を擦りながら洗面台へ行く。鏡を見ると、頬に一筋の引っ掻き傷。
振り返って愛猫を見ると、涼しい顔をして毛繕いをしている。「悪夢から呼び戻してくれてありがとな」と言うと、愛猫がニャアとひと鳴きした。


―――よるのゆめこそ [ひと仕事]


                 #53【向かい合わせ】

8/26/2023, 9:59:08 AM