「『誰、カシラ?』とかにしたら、なんかの盗賊のほっこりなハナシとか、書けるんかな」
かしら、カシラ、頭。俺が最近覚えた鶏肉の部位はカシラじゃなくてセセリだった。
某所在住物書きはお題の「かしら?」を何か別の言葉にできないかと、予測変換しては焼き鳥の「カシラ」を思い出して、塩とタレの間で悶絶している。
焼き鳥をポン酢で食う地域があるという。
それはそれはサッパリしており、食欲も増進され、食うに飽きないと聞いた。
教えてくれた数年前のソシャゲの仲間とは、リアルで会ったことがない。誰であったのかしら……?
――――――
前回投稿分からの続き物。
「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」という厨二ふぁんたじーな組織がありまして、
そこには滅んだ世界からこぼれ落ちた物品を回収して、他所に悪さをせぬよう収蔵するための、
収蔵部という、博物館のような部署がありました。
収蔵部は過去を保存し、活用するための部署。
滅んだ世界から収容してきたアイテムは、
敬意の有無はどうであれ、すべて最適な方法で、保存されたり活用されたりしなければなりません。
火力発電所1基分の電力をまかなえるアイテムで、豆電球たった1個を光らせるのは、
完全に、その世界とアイテムへの冒涜も同然。
収蔵部の局員は、配属されてすぐ、この信念と心構えをを叩き込まれるのです。
で、前回投稿分のおはなしで、
空間管理課がまさしく、火力発電所1基分の電力をまかなえるアイテムで、豆電球たった1個を光らせるような使い方をしていたことが発覚しまして。
奥多摩出身の局員、通称「奥多摩くん」が、
空間管理課の収蔵品を一斉チェックしたのでした。
カタタタタ、かたたたた。
お掃除ロボットの電源を、無尽蔵ドチャクソ高性能高価電力供給結晶(要約)のオリジナルから、
それを複製してダウングレードした普通性能低価格電力供給結晶(要約)のイミテーションへ。
オリジナルを収蔵部に戻し、代わりのイミテーションを収蔵部から借用するための書類を作ります。
カタタタタ、かたたたた。
新しい空間を作り出す、保存空間発生装置のセキュリティーも、人間と空間と時間を結びつけて記録する地デジ未対応水晶(要約)のオリジナルから、
それを複製してダウングレードした、一応能力の種類だけは一緒な水晶(要約)のレプリカへ。
オリジナルを収蔵部に戻し、代わりのレプリカを収蔵部から借用するための書類を作ります。
あれもスーパーオーバースペック、それも超過剰オーバースペック。ああもう、ああもう。
それとこれが収蔵部に戻れば、戻った収蔵品を、他の適切な場所に活用することができる。
奥多摩くんは定時で戻らず、夜も眠らず、
環境整備部が使っている収蔵品をチェックして、修正して、修正分の書類を作り続けました。
「あと3枚……あとさんまいだ、もうすぐ、もうちょっとで、ぜんぶ、おわる」
ここでようやく、お題回収。
真夜中まで環境整備部のオフィスに残って、カタカタ書類を作り続けている奥多摩くんの肩を、
ぽん、ポン。優しく、叩く者がありました。
誰かしら?
「あたしだよぉ、ドワーフホトだよー……」
それは、奥多摩くんの以前の同僚でした。
「あのねぇ、環境整備部で、収蔵品が適切に使われてないのは、よく分かったからぁ、
一気に徹夜で何枚も〜なんまいもぉ、申請書と返却届とアレとソレ、送ってこないでよぉぉ……」
そうです。奥多摩くんが徹夜して、書類を作って収蔵部に送った先で、
収蔵部で書類をさばく仕事もしているドワーフホトが、「この書類誰かしら?」「そろそろ終わるかしら?」「まだ届くのかしら?」と、
ずっと、ずーっと、夜中まで奥多摩くんの書類を処理し続けておったのです!!
「やすもうよ、奥多摩くん」
ヒロウコンパイ、眠気最大値のドワーフホトが、
プカプカ心だか魂だかを口から浮かべて同じく疲労困憊な奥多摩くんに、言いました。
「これ以上は体調崩しちゃう。休もうよぉ……!」
その声は必死で、一生懸命で、
奥多摩くんの精神もそうですが、ドワーフホト自身の体力も、限界に来ていることを、
確実に、切実に、訴えておりました。
「ねぇ、残りは寝て、起きてからでさぁ、
やすもぅ、ね、休もうよぉ!」
「あと3枚、あと3枚なんだ、3枚だけ終われば、俺は休むから。それに俺、まだ大丈夫だから」
「大丈夫ってさぁ!口から大事なものプカプカ浮かべて言う言葉じゃないよ!倒れちゃうよぉ!」
休みなさい、 いや大丈夫。
押し問答の繰り返しは続きに続いて、管理局はそろそろ、あと1〜2時間くらいで、朝を迎えます。
はてさて、先に眠気に負けて音を上げて、押し問答から下りたのは、2人のうち誰かしら……?
今回は「――――――」の上、前座ナシでの投稿です。
別部署から異動してきたことで、気付く改善点、
もとい、知恵の芽吹きのときに立ち会うことって、
まぁまぁ、一応、あると思います。
たとえばピアノを昔から弾いていた関係で、タイピングが速いとか(※個人の感想です)
あるいはギルド戦がメインのゲームで軍師やデバッファーのジョブをよく使うため、仲間をやんわり説得するのが少し得意とか(※以下略)
今回のお題は「芽吹きのとき」らしいので、そういう異動系のおはなしをご用意しました。
「ここ」ではないどこかの世界のおはなしです。
「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、今回のお題回収役は、収蔵部収蔵課から環境整備部空間管理課へ異動してきたばっかり。
お題回収役は「こちら」の世界の奥多摩出身なので、仮に「奥多摩くん」としておきましょう。
簡単に言えば、管理局内のドアを修理したり部屋を増築したりを一手に引き受ける部署へ、
今まで博物館の収蔵品を研究したりレプリカを作ったりしていた局員が、異動してきたようなもの。
完全に異業種です。
それでも上の偉い人が、「行きなさい」といえば、下っ端は行かねばならぬのです。
しゃーない(諦めが芽吹きのとき)
さて。
「そういえば、環境整備部に管理者を変更した収蔵品って、どういうふうに使われてるんだ」
元々、管理局の貴重品とも言える「収蔵品」、
つまり「滅びた世界」から収集したチートアイテムの管理を仕事にしていた奥多摩くんです。
チートアイテムが適切に、倫理的に、効率よく使われているか、保存されているか、チェックするのが奥多摩くんの仕事でした。
「環境整備部といえば、『これのオリジナル借りてくぜ、永遠にな!』で有名な部署だけど」
今は環境整備部所属の奥多摩くん、
管理局の修繕箇所や空きスペースの利用申請・拡張空間作成申請を、気にすべき立場ですが、
ついつい、収蔵部時代の目線で、部署内をチェックしてしまうのです。
「どれ。収蔵品適正利用チェックでも、するか」
どうせ、異動してきたばっかりで、まともな仕事を任せてもらえないのです。
奥多摩くんは奥多摩くんとして、確実にできる仕事をすることにしました。
「収蔵品適正利用チェック?」
環境整備部の先輩、ビジネスネーム「キリン」さんが、妙にイケボな声で聞いてきます。
「適正な装置に、適正なレベルのアイテムを使ってますか、ってチェックですよ」
奥多摩くん、分かりやすく説明しました。
「レベル1のスライム倒すためだけに、レベル99の装備をリースして使ってませんか、みたいな」
「すまない、逆に分からん」
「豆電球1個付けるのに、火力発電所1基分の電力作れるチートアイテムを使ってませんかって」
「なるほど」
キリンさんからの許可も貰ったので、奥多摩さん、さっそく環境整備部で使われているチートアイテムのチェックを始めました。
「どれどれ。まず、環境管理部が今所有している、チートアイテムのリストは、と……」
すると、まさしくお題回収、「芽吹きのとき」!
元収蔵部の奥多摩くん、新しい部署の環境整備部で、収蔵品管理の才能が芽吹いたのです!
「おいおいおいちょっとぉぉ!!」
元収蔵部の奥多摩くん、環境整備部が管理する収蔵品について、気付いてしまいました。
環境整備部はまさしく、「豆電球1個付けるのに、火力発電所1基分の電力作れるチートアイテムを使って」いたのです!
「イケボ先輩、じゃなくて、キリン先輩!
なんでたかがフロア掃除ロボットに電力供給結晶のオリジナルなんて使ってるんスか!!」
「え?必要だからじゃないか?」
「掃除ロボットの電力に組み込むなら!わざわざ供給電力無限のチートじゃなくても良いでしょ!」
「それもそうか」
「管理局の収蔵品は、滅んだ世界の思い出なんですから!ちゃんと適切な場所に使ってください!
しかも掃除ロボットだけじゃなく、管理局内の簡易警備人形と、その同期装置と、ごみ収集人形までオーバースペック状態じゃないですか!」
「そうなのか?」
「『そうなのか?』って!あのですねぇ!!」
ああもう、あああもう!!
俺!ちょっと「芽吹いて」良いですか!
元収蔵課の奥多摩さんが、移動先の部署の収蔵品を、全部サーチしてチェックして、
オーバースペックは適正スペックに、
レプリカやイミテーションでも問題無い収蔵品はレプリカやイミテーションに。
せっせ、せっせと取り替えて、「環境整備部が保有していたチートアイテムのオリジナル」を、
6割、7割、収蔵部の管理に戻していきます。
「奥多摩くん。これで仮に、機械や人形に不具合が出たら、どうするつもりだ」
「でません!」
「だから、『仮に』だ。どうするつもりだ」
「そのときは!改めてチートアイテムの専有申請を収蔵部に出してください!!」
元収蔵部の奥多摩くん、元収蔵部系空間管理課局員として、芽吹きのときです。
奥多摩くんが来てから色々、環境整備部内のチートアイテムがダウングレードしたものの、
不具合はひとつも、確認されませんでしたとさ。
「今日2025年3月1日で、このアカウント、3年目だってよ……早いよな……」
あの日は300字程度の物語を、ふっと考えて投稿して、後先考えず茶でも飲んで終わりだった。
某所在住物書きは、このアカウントで最初に投稿した文章を読み返して、ひとつため息を吐いた。
「最近最近の都内某所」をメインの舞台に据えた、
現代時間軸、連載風の投稿である。
最初の投稿で2人だけだった登場人物は、
連載風が続いて続いて、731日目の今日で、何人何匹になっただろう。
「なんなら『都内某所』から抜け出して、別世界の厨二ふぁんたじーまで舞台に出てきちまったもん」
初投稿の後の茶、あの日の温もりはガッツリ忘れたが、少なくとも3月なので、エアコンは……
「どうだろう、エアコン……?」
なんてったって最近、3月でもえらく暖かい。
――――――
初めてコンビニでコーヒーを買ったあの日の、温もりと銘柄は覚えていないわりに、意外と、どのコンビニで買ったかは覚えておる物書きです。
今回は「あの日の温もり」に関するおはなしを、3個ほどご用意しました。
最初のおはなしは、都内某所の杉林の中。
立派な建物がありまして、通称「領事館」といいます。朝から気温が高く推移して、少し風が吹き渡っては、忌々しい黄色の粉が、
もっふ、もっふと、まるで雪崩のよう。
「くそっ、ちきしょう、忌々しい」
この領事館の中で一番偉い人は、「館長」と呼ばれており、ビジネスネームを「スギ」といいました。
「とうとう、今年も、この時期が来やがった」
このスギさん、東京の領事館に配属された翌年から、重度のスギ花粉症持ちでして、
大量のティッシュ箱との付き合いもかれこれ◯年。
東京に来るまでは、なんてこと、なかったのです。
それが、あぁ、悲しきかな。
今はティッシュとゴーグルと目薬と、マスクと点鼻薬とあとコロコロクリーナーが手放せない!
「今年こそ!領事館に高性能清浄機を配備だ!」
配属初日の晴れた朝、花粉症など知らなかったあの日の温もりを思い出しつつ、
スギさん、今年もスギ花粉と戦うのでした。
次のおはなしは都内某所の某私立図書館。
3月1日から新しく、2人事務員が入ってきて、
そのうち1人が要は復職、もうひとりが初見さん。
前者は名前を藤森、後者は高葉井といいました。
「あら!あらあら『附子山』!昔はあんなに闇堕ちな顔をしてたのに!イイ顔になったじゃないの」
藤森を知っている副館長の多古はいわゆるオネェ。
「聞いたわよ。元恋人に酷く粘着されて、逃げるために名字変えたらしいわね。
今の名字は?ふーん、藤森?附子から藤で、『毒っ気抜けました宣言』?……あら違うの?」
取り敢えず寄贈本の装備と登録がたまっちゃってるから、すぐ始めてちょうだい。
副館長の多古さん、言うだけ言って、藤森と高葉井から離れていきました。
「たこ、副館長?」
多古に絡まれていた藤森に、高葉井が聞きました。
「多古 八重次郎、たこ やえじろう副館長だ」
ジト目で副館長を見送る藤森、言いました。
「私が旧姓だった頃から、副館長をなさっている。
普段は超が付くほどのお節介だ。怒らせたり危害を加えたりしなければ、命の危険は感じない」
あのひとが練ったココアも、今は良い思い出さ。
藤森は数年前、多古から温かいココアを貰ったあの日の温もりを思い返して、ため息を吐きました。
最後のおはなしは「ここ」ではないどこかの世界。
「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじーな組織の、
建物の中にある大きな大きな難民シェルターの、
日光当たって花咲き誇る原っぱで、
強くてちょっと大きいドラゴンが、ヘソ天でぐぅすぴ、かぁすぴ。寝ておりました。
ドラゴンのどてっぱらの上では、都内某所の某稲荷神社に住まう不思議な子狐がこれまたヘソ天。
「オッサン、あったかい、あったかい」
陽光の当たり具合が、丁度良いのです。
陽光受けたドラゴンのハラも、プニプニ高反発な弾力をしていて、温かいのです。
「わかる。温かいよね。わかる……」
子狐の上では言葉を話すハムスターが、狐の毛の保温性に包まれて、毛づくろいをしておりました。
「ハムさん。もちょっと、みぎ」
「ここ?」
「そう。 きもちいい。きもちいい」
今でこそ平和にヘソ天して、お昼寝するなり毛づくろいで幸福するなり、互いに善良な時間をゆっくり共有しておったのですが、
よもやこのあと、子狐が寝返りを打って、
ハムスターが子狐の腹から落ちて、
結果としてハムスターが身の危険を瞬時に感じて、
結果として後日、「あの日の温もりは一瞬で壊れてしまったね」と回想するようになるとは
当時、誰も、ちっとも、思わなかったのでした。
「あの日の温もり」と題しまして、3個のおはなしでした。おしまい、おしまい。
「acuteは急性とか鋭いとか、subacuteは医学用語で亜急性だの亜急性期だの、elocuteは熱弁するの動詞系でexecuteは執行とか署名とか。
prosecuteなんて言葉もあるらしいな。告発か」
きゅーと、きゅーと。
エコキュー◯にキュートアグレッション。
某所在住物書きは「cuteで終わる単語」をネットで検索して、「scute(スキュート)」を発見した。
アルマジロやカメなどの大きな骨を言うらしい。
まぁお題には使えないだろう。多分。
「熱弁するって、エロキュートっつーのな」
こっちは使えそうだ。物書きはひとつの英単語に注目する。「elocute」だそうである。
「……読み方だけ見れば、完全に推し用語よな?」
だってエロキュートである。この字並びから、誰が「熱弁する」を予想できるものか。
――――――
明日3月1日から私、後輩こと高葉井は、
ブラックに限りなく近いグレー企業から、推しゲーの聖地にして生誕の地である某私立図書館に、
満を持して、転職することになった。
転職先は都内で、しかも前の職場より、私の自宅アパートに近い。
通勤手当は減るだろうけど、その分バスとか電車とかの時間が減る、というか自転車で行ける距離だから、ダイエットついでとでも、思うことにした。
なにより、私と一緒に某図書館に転職する先輩のアパートが、某図書館の通勤ルート上にある。
つまり先輩と、シェアランチをしやすくなる。
いつも節約にご協力頂きありがとうございます。
(特に推しゲーへの課金捻出の観点から)
「とうとう明日だよ。先輩」
いつもどおり食材と料理代を少し持参して、先輩の部屋に行くと、先輩は私の食材を受け取って、先輩の冷蔵庫の中身と一緒にさっそく料理を始めた。
「とうとう、このブラック企業からオサラバだよ」
今夜はお祝いだね。
私がバッグから缶チゥハイを出すと、
先輩はキッチンから「あのなぁ」と声を投げた。
「そのブラック企業からオサラバする代償として、給料は今より少し減るんだぞ。
私は別に構わないが、おまえ、それでもゲームへの課金額は見直さないつもりか?」
時折私のところでシェアランチだのディナーだのして、食費は最適化できているだろうけれどだな。
私が手伝えるのは、おそらく「それだけ」だぞ。
先輩はそう言って、料理の味見をしたんだと思う、
舌をやけどしたような悲鳴を小さく上げた。
「あのね先輩」
私は先輩に言葉を投げ返した。
「推しが居るから、お仕事頑張れるんだよ」
先輩は、私の推しゲーの推しキャラの、
厳密には推しゲーの推しカプの右側さんを、正確に理解してないらしい。
先輩に右側さんのえろきゅーとをelocute!
熱弁する私の言葉は、先輩に届いただろうか。
「あのね。ル部長はね、人間じゃなくてドラゴンなの。すっごく強いの。人気キャラなの」
「はぁ」
「でもって、明日からの職場は、ツウキさん情報によれば、たまにル部長の神レイヤーさんとエンカウントできるらしいの!」
「うん」
「神レイヤーさんと、ル部長のえろきゅーとを、elocute!しあう!これぞ私のじゃすてぃす!」
「エロキュート?」
「Elocute!『熱弁する』!
神レイヤーさんだよ!完全にル部長にそっくりなんだよ!もうル部長のえろきゅーとがエロキュートで、ゆえに神レイヤーさんとelocuteしあうんだよ」
「晩飯の味付けは鶏だし塩に柚子胡椒で良いか」
「おねがいします」
はぁ。ルブチョウねぇ。
先輩はため息ひとつ吐いて、キッチンから1〜2人用の小鍋を持ってきて、
それで、こたつ用布団が片付けられてただのテーブルになっちゃった卓の上に置いた。
「おいしそう」
「手羽元を使った肉そばだ。お前が大量のカット野菜を買ってきてくれたから、その野菜からも良いダシが出ているだろうさ」
お手々をぱっちん、いただきます。
先輩がよそってくれた手羽元をハフハフしながら、持参した缶チゥハイを飲む。
「図書館だから、明日は仕事だぞ」
「分かってまぁす」
えろきゅーと、Elocute!先輩に推しキャラの推したる理由を熱弁しながら、ごはんが進む。
明日私は、新しい職場で新しいスタートをきる。
「観察日記、研究レポート、買い物のレシートに録画した番組、それからゲームのセーブ。
まぁまぁ、『記録』にも多々あるわな」
某N◯Kスペシャル、「◯◯年追い続けた、現場の記録である」とかオープニングで言いがち説。
某所在住物書きは、手元の長い長いレシートを確認しながら、しかし必要経費なので、金額に目をつぶった――来月まで少し節約する必要がある。
「スマホの中の写真も、ひとつの記録よな」
レシートをくしゃくしゃ潰した物書きは、紙くずをゴミ箱目がけてポイチョ。 入らない。
「去年はもう、今頃、バチクソに暖かくなって、春の花もけっこう咲いてたのか」
ところでスマホの天気予報によれば、数日後、東京の最高気温が20℃に到達するらしい。
史上一番暑い3月を、記録したりしないだろうか。
――――――
前回投稿分からの続き物。
「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」という厨二ふぁんたじー組織がありまして、
そこは世界から世界への渡航申請を受理したり、
先進世界による途上世界への過剰介入だの異常な流入だのを監視して取り締まったり、
あるいは、滅びた世界からこぼれ落ちたチートアイテムが、他の世界に流れ着いて悪さをする前に、回収して保管したりしておりました。
潤沢な資金、経験豊富な事務局員と戦闘局員、
なにより、収蔵されている滅亡世界のチートアイテムの、多種多様なこと。
世界線管理局はそれらを使って、今日もその世界が「その世界」として、独立性を保ったまま存在し続けられるように、
世界の円滑な運行を、支えておったのでした。
で、そんな管理局に、今何が足りないかというと。
そうです。土地が足りないのです。
世界は星の数ほどあり、それらからこぼれ落ちた危険なチートアイテムは数知れず。
中には使い方を間違えれば、空間ひとつ、世界ふたつ、軽く溶かせる物品も生き物も居るのです。
そういうのを保管しておくための、
あるいは、そういうモノの性質を研究して管理局の運営に役立てるための、「確実に安全な」個別空間が、管理局には不足しておったのです。
管理局には、土地が無い!
管理局の環境整備部は、特にその中の空間管理課は、各部署から上がってくる「こういう空間が欲しい」「そういう個室が必要だ」を、一気に解決してくれるチートアイテムを、
更にワガママを言うなら「そんな空間」に鍵やセキュリティーのようなサムシングを付与してくれる神アイテムを、ずっと、探し続けておりました。
で、出てきたのが前回投稿分の水晶。
「人間と空間と時間を関連付けて、記録してくれる水晶」だったのです。
さぁ、ここから今回のお題回収。
人と空間と時間を記録する水晶のおはなしです。
「見たまえ。我々空間管理課が『保存空間発生装置』と呼んでいる装置の、最終試作機だ」
前回投稿分で環境整備部に飛ばされた奥多摩出身くんは、新しい冒険もとい異動先で、
とても大きな、無機質な、しかしシンプルに洗練されたデザインの機械の前に案内されました。
「この装置は、空間の中にもうひとつの空間を生成することで、管理局の個室・空間不足を解消する。
解消、するのだが、今のままでは各空間ごとのセキュリティーが、ガバガバ過ぎてだな……」
そこで、人と空間とを結びつけて、記録する能力を持っているこの水晶を組み込み、
それによって、顔認証、生体認証、声認証のようなセキュリティーの概念を実装したいのだ。
空間管理課のひとが言いました。
記録、きろく。水晶が局員と空間を結びつけて、記録しておくことで、「その人が入って良いか」「入ってはダメか」を定義づける。
なるほど。奥多摩くんは、少し納得しました。
少し納得しましたが、
「その機械に、この水晶を組み込んでまでセキュリティー概念を導入する必要、あるんですか」
水晶を手放すということは、奥多摩くん、
その水晶を使った余暇が、要はゲームが、更に言うならファミキューブだのドリームサターンだのが、できなくなってしまうのです。
「セキュリティーは必要だよ。奥多摩くん」
ポン、ぽん。
保存空間発生装置の説明をしていた局員が、奥多摩くんの肩を叩いて、真面目に言うことには、
「たとえば君が、保存空間発生装置の利用申請をして、君個人の完全プライベート空間を一時的に手に入れたとする。
中では色々なことができる。昼寝もできるしスナックも食える、持ち込んだゲームもできる。
セキュリティーが存在しなければ、ゲーム中に君の空間に、誰でも勝手に入ってくる。
掃除機をかけたり。勝手にゲームの線を抜いたり。
で、『またこんなに散らかして!』と」
イヤだろう。熱弁する局員さん、言いました。
記録というか、記憶にあるだろう。奥多摩くんの両目をじっと見て、確信をもって、言いました。
「セキュリティー、だいじですね」
奥多摩くんは、反論しません。
ただ、自分が研究して、調査レポートを記録し続けていた水晶を、局員さんに黙って渡すのでした。