「『届かぬ想い』、『過ぎた日を想う』、『たくさんの想い出』、それから『ひそかな想い』。
これで『想』シリーズは第4弾だわな」
「思う」と「思い出」も、無いことはないんだけどさ。今のところ2個しか無いんだよな。
某所在住物書きは過去のお題を検索しながら、ぽつり、ぽつり。
「思い」と「想い」の違いはこれまで何度もネットで調べた――要するにだいたい、特に公的文章では「思」でヨシとのことであった。
「ひそかな想い、おもいねぇ」
過去のお題、「過ぎた日を想う」で投稿した物語が、ほぼほぼそのままコピペして使えそうだと気付いた物書きは、ひそかに想像した。
これ、そろそろ過去投稿分だけでやりくりして行けるのではなかろうか。
「……いや無理だな」
――――――
前回投稿分から、続いているような、そうでもないようなおはなしです。
「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじーな職場がありまして、
それぞれの世界が「それぞれの世界」で在り続けられるよう、独自性の保全に関するお仕事をしたり、
あるいは、他の世界への渡航申請を受理したり拒否したり、密航者を取り締まったり。
世界間の円滑な運行に関わるいろんな仕事を、しておったのでした。
「その世界は『その世界』であるべきだ」と、
「その世界の独自性を尊重すべきだ」と、
こういう立ち位置で仕事をしておると、だいたい出てくるのが反対の、多様性を掲げる敵対組織。
「発展途上世界には積極的に先進技術を!」
「滅んだ世界からの難民を受け入れよう!」
打倒管理局を掲げる彼等は「世界多様性機構」という名前の組織。
東京に「領事館」を置き、故郷が滅んでしまった難民を密航の形で連れてきて、心の傷をケアしたり、定住支援をしたり。
管理局の局員と深い付き合いのありそうな東京都民を、管理局への脅し材料として拉致して、
色々と、都民だの管理局だのに、迷惑をかけたりも、しておったのでした。
前回投稿分で普通の一般都民の部屋に、突然妙な組織が押し入ってきて、中のぼっちを縛ってしまったのも、実はコレが背景にあったのです。
ただ、そんな迷惑千万な多様性機構でも、
ひとつだけ、絶対、ぜったい、手を出してはならぬとキツく周知されている場所がありました。
都内某所の某私立図書館です。
図書館を建てた「すごく強い組織」との取り決めで、この図書館に勤めている者、この図書館の中に居る者は、絶対、どんな理由があっても、
危害を加えては、ならぬのです。
前回投稿分の一般都民は、この取り決めのおかげで、難を逃れたのでした。
さて。 「ここ」ではないどこかの、世界線管理局の殉職者慰霊棟、法務部フロアの某墓碑前で、
なにやらカニやら、誰かが近況報告していますよ。
「ねぇ先代さん。相変わらず、多様性機構の連中、セコいことやってるみたいだよん」
拭き拭き、ふきふき。
墓碑を掃除するその男、管理局内でのビジネスネームをカラスといいまして、東京での名前は付烏月、ツウキといいました。
「管理局に直接立ち向かっても勝てないから、管理局と繋がってる普通の都民を拉致る。
あいつら、十数年前から何も変わってないねぇ」
ね、先代さん。ホント参っちゃうよ。
カラスはそう言いながら、墓碑を掃除します。
「でも俺、『十数年前のあの日』は繰り返さないよ。今回だって、俺が根回し、したんだよん」
ここでようやく、お題回収。
実はカラスはその昔、一般の東京都民な女性と両思いになりまして、その女性を、機構に拉致されたことがあったのです。
一般女性を救出すべく、この墓碑の主とカラスは一緒に機構のアジトのひとつに潜り込み、
そして、墓碑の主が、亡くなってしまったのです。
同じ悲劇は繰り返さない。
「ひそかな想い」を胸に、カラスは前回投稿分より前に、先手を打っておったのです。
今回は機構が手出しできないように、「前回投稿分」で機構に縛り上げられてしまったひとを、
「図書館で一緒に働こう」、誘っておったのです。
「ねぇ、先代さん。良いアイデアだったでしょ」
拭き拭き、ふきふき。カラスは墓碑に笑います。
「ご褒美ちょうだいよ。美味い飯1回で良いよ」
墓碑はなんにも言いません。
カラスのひそかな想いを、受け止めて、それだけ。
近くではたまたま居合わせていた経理部の天才エンジニアが、自分が持ってきていた宝物、「美しい水晶の文旦」の淡い強い発光に、
ちょっとだけ、慌てておったとさ。
「言葉を少し付け足せば、『あなたは誰と「最初のカントー」を旅しましたか』とか、
『あなたは誰かを頼ることを覚えなさい』とか、
まぁまぁ、Who are you以外も書けるわな」
あとはアレか。「あなたは誰からもマークされていません!ボールを受け取り、ゴールまで突っ切りましょう!」にすればサッカーも書けるな。
某所在住物書きは今回のお題を見ながら、ぽつり。
なおスポーツ系の文章描写は完全に不得意である。
「あなたは誰からも愛されない」にすれば、昔の海苔巻きミームでも書けるかもしれない。
「……メタフィクションネタ?」
突然、カメラ目線をキメる。 1カメ、2カメ。
『あなたは誰に向かって話をしているのだ』。
――――――
カッコいい系のおはなしをご用意しました。
普通の生活、普通のアパートの中に、突然不思議な悪者が入ってきて、
誘拐されそうになったところに、見覚えのある人物が丁度さっそうと現れて撃退!
そして言うのです。
「あなたは誰ですか」
「まだ伝えるべき時じゃない」
さぁ、厨二ふぁんたじーの、はじまり、はじまり。
最近最近の都内某所、某アパートの一室です。
お題回収役は名前を藤森といいまして、
今月で今の職場を辞めて、来月から前々職の私立図書館に復職予定。
今の職場の後輩も、一緒についてきます。
「まさか、あの図書館に戻ることになるとは」
前々職の図書館は、藤森にとって働きやすく、居心地もそこそこ良い図書館でしたが、
実は妙な噂話も存在する、不思議な図書館でした。
いわく、この図書館で●●年前、同人ゲームが生まれて育って、大きなソシャゲに成長したけれど、
実はすごく低確率ながら、ゲームの登場キャラ本人と、図書館で遭遇することがあるとかないとか。
いわく、「市」立ではなく「私」立、かつ大規模な図書館なのに、日本のどの企業も、世界中のどのセレブもバックに付いていないのは、
実は「ここ」ではないどこか、別の世界の大きな団体が、バックに付いて建てたからだとか。
そして、いわく、その図書館には隠された「地下●階」と「地上●階」があり、
そこで、実際に「ここ」ではないどこかの世界の組織が、世界のために働いてるとか、何とか……。
まぁフィクションですので。
「マンガやアニメ、ゲームでもあるまいし」
さぁ。前フリが終わりました。
そろそろお題回収に入りましょう。
ピンポン、ピンポン。
藤森の部屋に、夜、インターホンの音が響きます。
「条志さんか?」
藤森の部屋には、その当時、
藤森の隣に3月から越してくるという「条志さん」が、時折やってきて、晩ごはんを一緒に食べつつ会話をすることがありました。
「今日は珍しく、ドアから入ってくるんだな」
条志さん、何故か藤森の部屋のベランダの、窓から入ってくることが多いのです。
今回は、行儀が良いようだ。
藤森が小さなため息をひとつ吐いて、自分の部屋のロックを解除し、そしてドアを開けると、
どだだだだっ!
突然、黒スーツの妙な男女が数名入ってきて、
藤森を床に組み伏せ、縛り上げてしまいました!
口を押さえられていて、藤森、声も出せません。
「間違いない。こいつだ」
リーダーのような男が藤森の目を見て言いました。
こいつって、誰でしょう。人違いじゃないかしら。
「対象確保。勘付かれる前にズラかるぞ」
なんだ、何が、どうなっている。
頭にはてなマークを量産し続けている藤森が、アパートから運び出されそうになった、
まさに、そのときでした。
「誰に勘付かれる前にズラかるって?」
藤森の隣に3月から越してくる、例のベランダ進入常習犯、「条志」さんが、
「そいつは3月から、『あの図書館』の職員だ」
藤森を縛り上げたやつをズバン!どしゃん!
「『例の図書館にいる者、例の図書館の関係者は、誰であれ、攻撃してはならない』。
まさか忘れたワケじゃないだろうな」
数秒で、カッコよく、やっつけてしまいました!
黒スーツの連中は、何も言わず、逃げていきます。
「条志さん、これはいったい、」
縛られた縄もテープも解いてもらって、藤森は自分を助けてくれた条志に聞きました。
「いったい、あなたは『誰』なんだ……?」
「まだ言えない」
条志さんは、何も教えてくれません。
「『まだ』、な」
ただ黒スーツが逃げていく先を、鋭利な視線で、見えなくなるまで、追うだけでした。
「2月3日のお題が『隠された手紙』だった」
アレか、あの日あのお題で書いた手紙の行方について投稿してくださいってお題か。
某所在住物書きは過去投稿分を確認しながら、
ぽわぽわ、もわんもわん。
当時書いた手紙の「行方」を想像した。
たしか神社の子狐が、手紙を自分のドテっ腹に敷いて昼寝をしてしまい、
ゆえに、行方不明になってしまった物語だ。
アレのその後を書けと?
「まず子狐の体温で、手紙はホカホカよな」
物書きは更に想像する。
なお狂犬病やエキノコックスは対策済みとする。
「……別のハナシにしねぇか?」
――――――
健康診断の結果が郵送で送付されてくるなら、
診断結果を放っぽって、見なかったことにしてしまえば、それで「手紙の行方」のハナシが書けると思った物書きです。
高血圧?脂質異常?ナンノコトデセウ? ということで、こんなおはなしをご用意しました。
最近最近のおはなしです。
都内の土日対応な某病院、某漢方外来のコンコン5番診察室に、それはそれはウデの良い漢方医が詰めておるのですが、
なんとこの漢方医、都内の某稲荷神社に住まう、人に化ける妙技を持つ本物の化け狐の末裔。
本物の、稲荷の御狐様なのでした。
稲荷の狐は五穀豊穣の狐、商売繁盛の狐、諸願成就の狐で縁結びの狐。
人間のありとあらゆる希望と欲望を、清濁双方、神様のもとへ届けます。
稲荷の神様の使いとして、人間の社会を見守り、ときに手を差し伸べ、あるいは警告します。
稲荷の狐は人々の近くに在って、
稲荷の神様のご利益と罰とを、それぞれ、与えるべき者に与え、奪うべき者から奪うのです。
そしてこの薬師の狐は、コンコン、
不思議な不思議な、体にも心にも、魂にも効く稲荷の狐の薬でもって、
弱ってしまった人間たち、傷ついてしまった人間たちを、こっそり、癒やしておるのでした。
要するに、善い化け狐なのです。
要するに、偉大な御狐なのです。
で、なんでいちいち、この薬師狐のことを良く言うかといいますと、
これだけコンコン、よく働くということは、
つまり働き終わった後が、くったくたのヘットヘトということなのです。
その日の狐も、コンコン、人間たちのためによく働き、自分が勤めている病院に2回泊まって、
3連勤目の深夜に、ようやく愛するお嫁さん狐と末っ子の子狐と、それから尊敬する両親狐が待つお家――某稲荷神社敷地内の一軒家に、
コンコン、帰ることが許されたのでした。
ここまで疲れたら、コンコン、こんこん。
飲まないと、やってられないのです。
丁度稲荷神社のすぐ近くに、行きつけの、古い大オロチのおでん屋台が来ていたので、
ここでお酒を飲みましょう。
ここでお肉とお揚げさんを、お稲荷さんを、そして餅巾着を食べましょう。
何度も言いますが、コンコン、飲まないとやってられないのです。こやん。
「こんばんは……」
ぷわぷわ、プカプカ。善い化け狐にして偉大な御狐の薬師狐、口から魂だか妖力だか、出てきちゃいけないものを少しはみ出しながら、
おでん屋台ののれんを、くぐりました。
ここでお題回収。
「遅かったな。何かあったのか」
屋台の先客さんが、薬師狐のテーブルの前に手紙をススッ、差し伸べて、話しかけてきたのです。
そうです。薬師狐、その日の夜にこのおでん屋台で、大事な人と「世界を保全するためのお仕事」のハナシをする約束だったのを、
すっかり、こっくり、疲労と過労と重労働のせいで、忘れておったのです。
「事前に話していた『頼みたいこと』の詳細だ」
トン、とん。
薬師狐の前に差し出した手紙を叩いて、おでん屋台の先客さんが言いました。
「今回も、相応の礼はする。必要であれば、ウチのを何人か手伝いに寄越す。
俺達のハナシに毎度毎度首を突っ込ませてしまって申し訳ないが、たのむ。チカラを貸してくれ」
なにやら、すごく、重要なハナシをしています。
先客が薬師狐に、深く、頭を下げています。
肝心の薬師狐はというと?
「すいません、いま、いろいろ、つかれてて。
あたまが、まわっていないのです」
ああ、あぁ。なんということでしょう。
モンスターカスタマーな患者さんを■■人、急な対応を●回、妙な電話を▲件受け付けた薬師狐は、
虚ろな目で、酷く疲れてしまって、
先客のハナシなんて、全部、ぜーんぶ、右耳から左耳へ抜けてってしまっておるのです。
「これから、やすみなので、
よるがあけてから、おねがいします」
ぽわぽわ、プカプカ。
薬師狐は口から妖力だか魂だかを浮かべたまま、
コテン。おでん屋台のテーブルに、顔だけうつ伏せてしまいました。
「……本当に大丈夫か?」
あんまり重症そうなので、先客さん、薬師狐が心配で心配でたまりません。
「ちょっと、この件は、お前の疲労回復ためにも、俺達だけでもう少し進めてみることにする……」
じゃあな。先に失礼する。
先客さん、薬師狐に渡すはずの手紙を胸ポケットに戻しまして、屋台から出ていきました。
その後の手紙の行方は、はてさて、2日後、どうなったことやら……。
「『きらめき』ってお題なら、9月に書いた」
「あの神様」は命の、「輝き」じゃなくてたしか「きらめき」だっけ?「輝き」で合ってた?
某所在住物書きはネット検索をして、目当てのものが出てこなくて、すぐに後者だと気付いた。
そうか。「輝き」だったらしい。
つまり某万博のネタが書ける――多分。
「無難なところでは、猫の目の輝きかな??
ほら、暗いところで猫にフラッシュたくと、猫の目が瞳の色に輝く、っていう」
ところで、「きらめき」と「輝き」には、いちおう、違いがあるらしい。
前者はキラキラ光っていること、飾り立てていること、華やかで人目をひくこと。
後者は、明るさが満ち溢れていることだという。
――――――
LEDの輝き、金銀の輝き、海の輝きに命の輝き。
「かがやき」には色々あるものです。
電気不足、サビや指紋、天候不良に心の不調。
それが失われる要因も、色々あるものです。
今回はひとつ、厨二ふぁんたじーな「輝き」のおはなしを、ご用意しました。
「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、
その世界が「その世界」で在り続けられるように、他の世界からの過度な干渉・過剰な移民の流入を、取り締まっておったのでした。
ところで、こういう組織には、だいたい珍妙な開発と発明ができる天才エンジニアさんが、だいたいひとり、あるいは1チーム、居るものでして。
勿論この管理局にも、いるのでした。
「その『だいたいひとり』が!この俺様。
管理局経理部のスフィンクス様だ。
今回は俺様の傑作コタツ、『Ko-Ta2』のコンパクトな持ち運び可能機、『Ko-Ta4試作機』の、
第●●回、テスト稼働をしていくぜぇ」
ところでこのスフィンクス、こんな口調で女性とのウワサ。まぁまぁ、気にしない気にしない。
「たかがコタツが、なんで傑作ってさ。
この『Ko-Ta2』も『Ko-Ta4』も、スイッチ押せば、ミカンが勝手に出てくるワケよ。
出てくるんだけどさ。
試作機の『Ko-Ta4』の挙動が、うん……」
さて、そろそろお題回収です。
「Ko-Ta2は問題ねぇのよ。
ちゃんと、コタツの上に、ミカンが出てくんの」
問題は試作機の方よ。
天才技術者スフィンクス、持ち運び可能なコタツのKo-Ta4を、広げて準備して、ミカン1個目の材料をコタツにブチ込んで、スイッチをポン!
Ko-Ta4の動きを観察します。
うぃんうぃん、ウィンウィン、Ko-Ta4が材料の取り込みを終えますと、Ko-Ta4の机の上がポン!
輝きまして、出現したのが、
ミカンはミカンなのでしょうけど……
「ほら。Ko-Ta4は、妙な挙動をするワケ」
なんと出現したミカンは、背中にキュウリを背負っておったのです。
「いや、キュウリ……??」
失敗、しっぱい。 キュウリを冷やしキュウリにして、お味噌など付けてコリコリしながら、
天才スフィンクス、次の実験です。
「ひとまず軽い調整はしてみた」
うぃんうぃん、ウィンウィン、Ko-Ta4が2個目の材料を取り込んで、準備完了したので、
天才技術者スフィンクスが、スイッチをポン!
またもやKo-Ta4の机の上が輝きまして、
今度こそ、ちゃんとしたミカンが……??
「いやいやいや。え??」
なんと今度は、コタツの机の上に出てきたのは、
ミカンはミカンでも、キンキンに、シャーベットのように凍ったミカンだったのです!
「Ko-Ta2のコタツでは、スイッチ入れりゃ、普通のミカンが普通の温度で出てくるんだけどな」
失敗、しっぱい。 ミカンシャーベットをガリガリ削って、ちょっとお酒に浮かべながら、
天才スフィンクス、最後の実験です。
「え?このコタツの、ミカンの材料?
野暮なことは聞いちゃいけねぇよ」
うぃんうぃん、ウィンウィン、Ko-Ta4が最後の材料を取り込んで、準備完了です。
今度こそ、ちゃんとしたミカンよ、出てこい!
天才技術者スフィンクスが、スイッチをポン!
そしてKo-Ta4の机の上が輝きまして、
最後に出てきたミカンが……??
「……うん知ってた」
最後の最後に出てきたのは、
ミカンはミカンでも、あんこミカン!
そうです。これを大福の生地で包めば、みかん大福が爆誕するのです。
「なんでKo-Ta2は普通のミカンが出てくるのに、
Ko-Ta4に限って、こうなるんだろな……」
原因が分からない天才技術者スフィンクス、大きなため息ひとつ吐いて、食いしん坊な同僚に連絡です。
「よぅ。ヒマ? あんこミカンとミカンシャーベットが爆誕しちまってさ。一緒に食わね?
アイスでも持ってこいよ。ゼッタイ合うから」
失敗、しっぱい。 自分の頭を掻きながら、天才スフィンクス、再度ため息を吐きました。
試作機のKo-Ta4は、まだうぃんうぃん、ミカン製造の輝きを放っておったとさ。
「原作読んだり観たりしたことないけど、そのネタだけは知ってる。……結構多いと思うんよ」
たとえばそれこそ、「時よ止まれ」の漫画とか。
某所在住物書きはネットで某漫画を検索しながら、今回配信分に何で立ち向かうか画策していた。
時間が止まればどれだけ助かることか。
「『メンテが終わればメンテが始まる』の元ネタも、読んだことは無いが原作の名前も絵も知ってるし。
『だったら漕げばいいだろ!』なんて、語録大量に覚えてるが本編観たことねぇし。……あと他は?」
ところで昔々、20年以上前、海外ゲームの映画化において、「もし時間が止まったら」を簡潔かつ短時間だけ描写した場面があった。
空間内に静止している物体は、力が加わるまで静止し続ける。慣性の法則という。
時間内に静止しているナイフに対して、「同じ『時間の力』が加わるまで静止し続ける」とした。
ひょっとしたら「時間よ止まれ」は「物体よ止まれ」であり、「空間よ凍りつけ」かもしれない。
――――――
私、後輩こと高葉井は、2月末をもって今のブラックな職場を退職して、
3月1日から推しゲーの聖地にして生誕の地、都内の某図書館に転職するんだけど、
転職に誘ってくれた元同僚にして3月からの先輩の付烏月さん、ツウキさんは、
この図書館で、二度目の恋をして、ソッコーでフラれて、今ではメシ友以上恋人未満の関係らしい。
最初の恋人はどうだったの?
って、聞いたことがある。
そっちは両思いだったそうだ。
『両思いだったけど、敵対組織の悪いひとにカノジョが目を付けられて、さらわれちゃって、
助け出してからお互いがお互いのためを考え過ぎちゃって、そのせいでお互い「大嫌い」って嘘ついて、別れちゃったんだよーん』
とか言ってたから、要約すると「別れた結果はナイショ」なんだと思う。
『元カノさん元気にしてる?』
『だから、メシ友以上恋人未満』
『それは二度目のカノジョさんでしょ?』
『うん』
『え?』
『うん』
そんなこんなのハナシをしてた付烏月さんは、
どうやら、私の推しゲーの、推しカプの右の人に酷く似てる神レイヤーさんと、お知り合いらしい。
そのひとはなんと、私の推しゲーの聖地にして生誕の地、要は私が3月からお世話になる図書館に、
レアエンカウントな確率で、来るそうだ。
個人的にすごくお近づきになりたいから、
付烏月さんにワイロを渡して、是非会いたいと、伝えてもらった。
今日は、あわよくばその神レイヤーさんと会えたらの期待を寄せつつ、「あくまでそっちはサブの目的というつもりで」、
3月からお世話になる予定の図書館に、お世話になりますの挨拶をするため、
菓子箱を持って、某図書館に、行ったものの、
「マジかぁ……」
図書館って、月曜日は、休館らしい。
「付烏月さん、『月曜日にアポ無しで図書館に行ってみな』って言ったじゃん。いったじゃん……」
どんより曇り空のなか、気分下がり気味なのを頑張って、外に出てきて図書館まで来たのに、
見事に、付烏月さんにダマされたらしい。
玄関には休館日の看板。それから、利用時間外の返却はコチラみたいな矢印と案内板。
「……明日、ちゃんと連絡入れよっと」
グルチャの付烏月さんにぷんぷん、怒りマークのスタンプと、「騙したなッ!」のスタンプ送って、
秒で既読が付いたのを確認してから、
来た道を戻ろうとしたら、
「ん?」
すぐ、付烏月さんから返信が来た。
『図書館の中庭見てごらん』
「なかにわ??」
玄関から、少し歩く。
本館の一般第一開架書庫が見えてくる。
紫外線対策が為されたガラス張りで、無人のテーブルと大きい本棚が見える。
「なかにわ、」
テーブルの先が、中庭だ。
それは一般第一開架書庫と、一般第二開架書庫と、一般第三開架書庫を繋ぐように作られていて、
キレイな自然と、キレイなベンチがある。
休館日の図書館の、中庭のベンチに誰か居る。
男の人だ。読んでいた本を閉じて、大きなため息を吐いて、私に背を向けて遠くへ歩いていく。
「ひっ!!」
そこで一気に、一瞬で、私の血圧が上がった。
変な声も出た。悲鳴だったと思う。
「ル部長……ルリビタキ部長だ!!」
私から離れていくその人は、まさしく、どこからどう見ても、私の推しゲーの推しカプの、右の人にそっくりだった。完全に、その人そのものだった。
「待って、待って」
スマホで動画撮りたいけど会ってお話したいけどそもそも休館中の図書館にどうやって入れば良いんだろうで、私の頭が混乱している間に、
推しカプの右によく似た人は、私から離れていく。
「おねがい、まって……!」
ああ、時間よ止まれ。ガチでとまれ。
私の高血圧と脈拍上昇も知らず、休館中の図書館の中庭に現れたその人は、私の視界から消えた。
あとで付烏月さんに聞いたら、
その人こそ、私が「会いたい」って付烏月さんに頼み込んだ、「高葉井ちゃん曰く『ルブチョの神レイヤーさん』」、だったそうだ。