かたいなか

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1/4/2025, 3:50:39 AM

「『日の出』の文字が入っていれば、『土曜日の出勤』とか『初日の出庫』でもアリなんじゃねえかって、ふと思ったワケよ」
つまり、去年の「日の出」のお題で普通に日の出ネタ書いちまったから、ネタがだな。
某所在住物書きは頭をガリガリ。天井を見上げて弁明した――あと2ヶ月程度で3年目なのだ。
「来年も、『日の出』のお題が来るワケよ。
今また王道ネタを投稿したら、確実にネタが枯渇知ちまうワケよな。うん……」

お題の前後に、言葉を追加してみる。
お題の間に、句読点を付けてみる。
1年と10ヶ月程度「書く習慣」のお題と向き合い続けて、物書きが体得した「抜け道」である。
日の出は、日の出だ。
お題を文字で挟めば日曜日の出勤ネタにもなる。

――――――

お題の「日の出」を太陽と地球の関係ではなく、別の言葉として書きたかった物書きの、これがいわば、ひねくれた提案。
すなわち「三ヶ『日の出』費」はどうだろう。

「ここ」ではないどこかの世界。「世界線管理局」なる、厨二ちっくファンタジーな団体組織には、
年末年始で休業が入る部署と、入らぬ部署があった。今回の舞台は後者であった。
法務部執行課、実働班の中の特殊即応部門である。

ところでこの特殊即応部門の部長、三ヶ日の出費が少々特殊だったようで。

「いや、俺としても、想定外だったんだがな」
お題回収役であるところの部長、ルリビタキが、赤い煎餅をガリガリ噛みながら言った。
彼の目の前にはホワイトボードと、付箋と、マグネットとマーカーで示された多くの情報。
作戦立案中なのだ。敵対組織に、管理局の局員が10名ごっそり、拉致されたのである。
「この煎餅は、ひょんなことから、まぁ、うん」
色々あったんだ。ルリビタキは呟いて、また赤い煎餅をガリガリ、ガリガリ、そしてぽつり。
「噛みごたえが丁度良い」

年が明けて早々、敵対組織による局員の大量拉致に対応していた、ルリビタキ部長。
情報は錯綜し、管理局は敵組織からの人質交換条件を承諾するつもりが無く、
「こういうとき」のために存在している超法規的即応部門の「特応」が、局員救助の指示を受けた。

ヘビースモーカーのルリビタキは、
困難な仕事が詰まったり、詰んだり、
敵性人物が腹に据えかねる極悪党であったり、
ともかく苛立たしい感情が湧いてきたりしたとき、
己の衝動と、いきどおりと、その他諸々とを鎮めるために、激辛な味覚を欲するタイプであった。

ここでお題回収。
切羽詰まって「敵対組織を問答無用で殲滅してしまえば良い」に行き着きそうになったルリビタキ、
ひょんなことから、「こちら」の世界の激辛煎餅に関する情報を入手した。
長野の某大社に、真っ赤っ赤、大辛一味の煎餅が売られているという。

丁度とびきりの激辛が必要なところだった。
ルリビタキは昼休みの短時間で現場に急行。
正月三ヶ「日の出」費の中で、一番の量と、一番の合計額の買い物をしたのであった。
つまり店の激辛煎餅をザッカザッカとカゴにブチ込み、買い占めてきたのである。

「経理に聞いたが、経費では落とさんとさ」
まぁ、当然だな。ガリガリ。
ルリビタキは1枚目を食い終わり、すでに2枚目に手を出している。はらわたの煮えくり返る苛立たしさと焦燥に、激辛の刺激と煎餅の固さが効くのだ。
「おかげでタバコの量は減るかもな」
ガリガリガリ、がりがりがり。
2枚目も順調に噛み砕いていくルリビタキは、煎餅を持つ手と反対で、ホワイトボードに文字を書く。

「……この方法で行くか」
果たして、彼が為すべき同僚救出のプランは完成。
三ヶ日の出費は間違いなく、彼にとっても、彼の職場にとっても、良い結果をもたらしたのであった。
最終的に、ルリビタキの同僚は負傷者ひとり出さず救出され、真っ赤っ赤煎餅の三ヶ日の出動は20枚にのぼったとさ。

1/3/2025, 5:19:59 AM

「今年の抱負を、ひらめくのか、早々に挫折するのか、書き初めとして残すのか。
まぁまぁ、ネタとしては抱負、もとい豊富よな」
個人的には、「『解釈』と『書きたい』は別」の言葉を、ぜひ実践していきたい。
某所在住物書きは去年とったスクリーンショットを見ながら、ぽつり、ぽつり。
解釈と書きたいが逆方向を向くことは、ある。
書きたいをぜひ、推進していきたい。

「あとは、アレよな。今このアプリで投稿してる連載風、2024年度のシーズン2を、2025年2月末で、ちゃんと閉じたい」
今年の3月で、このアカウントも3年目。
シーズン3の開始まであと2ヶ月である。

――――――

「今年の抱負」と題しまして、今回はこんなおはなしをご用意しました。
すなわち、都内某所の某稲荷神社と、「ここ」ではないどこかの世界の「厨二ちっく団体組織」と、
それから、都内某所に活動拠点を構える「厨二ちっく団体組織の敵陣営」のおはなしです。

――まずは稲荷神社のおはなし。
都内某所、某本物の御狐様が居る稲荷神社は、書き初めイベントの真っ最中。
紅白のしめ縄をちょうちょ結びに、首輪のように飾った子狐が、大きな半紙の前でおすわり。
「さぁ、行っておいで」
狐耳と狐尻尾を付けた神主さんが子狐に、とっても軽い大筆を背負わせました。

見物人が、それぞれ、カメラを子狐に向けます。
子狐が描いた軌跡で今年を占うと同時に、
その切れ端を貰って今年の抱負を念じて、それをお焚き上げに投じれば、念じたことをやり遂げるチカラを、御狐様が授けてくれるそうなのです。

きゃきゃっ。くわぅぅ。
稲荷寿司とお揚げさんで接待された子狐は、いよいよ上機嫌になりまして、筆も墨汁も関係無しに、大きな半紙の上を全力疾走。
無事、尻尾もお手々も真っ黒くろすけになって遊び倒して、観客をほっこりさせたとさ。

――次は「ここ」ではないどこかの世界。
世界線管理局とかいう厨二ファンタジーな組織の、法務部執行課、実働班の中にあるひとつの部門。
「書き初め」なる概念を発掘してきた局員が、別部署から書道セットを借りてきまして、
ものは試しと、昼休憩中に、筆をとったのでした。

「何してる」
「『書き初め』というそうです。今年の抱負を、こうしてアナログで、書いておくのだそうで」
「はぁ」

「やってみます?」
「俺が?」

お先に、どうぞ。
書道セットを借りてきた方が、自分に話しかけてきた方のデスクに、半紙とスズリをセッティング。
「む……」
ここまでお膳立てされては、断るのも困難。
仕方が無いので、筆を渡された方は、「今年の抱負」を半紙の前で考えますが、
筆の持ち方、それ、完全に万年筆ですね。

「おい。書きづらいぞ」
「そりゃそうですよ」
「書きづらいのを克服して、抱負に向き合うというコンセプトなのか、これは。

……おい。何を笑ってる。どうなんだ」
「いいえ。あなたがそう思うなら、もう、それで」

――最後は上記、世界線管理局の敵対組織。
都内某所に「領事館」という活動拠点を構えており、名前を世界多様性機構といいました。
相手組織が厨二ファンタジーなら、敵対組織も厨二ファンタジー。どっちもどっちですね。

で、その領事館で、長めの半紙に向かい合い、
正座して、ちゃんとした筆の持ち方でもって、ズァッと墨汁を走らせたのが、領事館の館長さん。
半紙には、こんなことが書かれていました。

『今年こそは領事館からスギ花粉を撲滅する』

何を隠そう館長さん、重度のスギ花粉症なのです。
東京に来てから1〜2年程度で、一気に発症。
だって 館長さんの 故郷の世界に 花粉症など ちっとも無かったのですから!
「おのれ……にっくきスギ花粉め!」

「無理だと、思いますけどね」
2人居る館長の部下さんのうち、花粉症を知らぬひとりがポツリ、言いました。
「無理でしょうねぇ……」
2人居る館長の部下さんのうち、食べ物アレルギーをも知らぬひとりがポツリ、続きました。
「よしっ!!」
そんな部下さんの会話も知らず、館長さんはその年も、打倒スギ花粉を掲げるのでした。

稲荷神社と、厨二組織2団体の、
それぞれの「今年の抱負」に関するおはなしでした。おしまい、おしまい。

1/2/2025, 4:51:57 AM

「『新年おめでとう』と『明けましておめでとう』は良いけど、『新年明けましておめでとう』が、実は厳密にはちょっとおかしい、
ってデマだか何だかは聞いたことがある」
実際はどうだったかな。知らんけど。某所在住物書きはテレビで新春番組を流しっ放しにしつつ、スマホ画面を見ながら外付けキーボードをパチパチ。
結局、新年だろうと旧年だろうと、1日に違いは無いのだ。ただ番組が違うだけ。空気が違うだけ。

ところで「変わらぬ1日」の筈が、ここ24時間+αで随分体重が、いや気のせいか、云々。
「……うん」
変わらぬ。気のせいである。物書きは思う。
新年早々ダイエットの計画など立てたくない。

――――――

去年の新年は散々だった物書きです。
というのも一昨年の暮れに腰の肉離れだか筋を痛めただかをして、どこにも行けなかったのです。
「寝正月」とは、文字通りこのこと。
酷い目に遭ったものだ……というのは置いといて。
当アカウントでは「新年」最初となるおはなしの、はじまり、はじまり。

元旦終わって、1月2日に日付が変わったばかりの都内某所。某稲荷神社の近くです。
大きな大きな神代の古い蛇が、神様の術で全長6メートルくらいに小ちゃくなって、
ゴロゴロガラリ、ゴロゴロガラリ。
おでん屋台を尻尾で引いて、ゆっくり、まったり、いつもの場所へ向かっておりました。

若い頃にやんちゃして、別の神様にやっつけられたのが【ごにょごにょ】年前。
それでもお酒がやめられなくて、「どうか酒を飲ませてくれ」と頼み込んだところ、
今後人間たちに悪さをしないことを条件に、一度だけ、偉い神様からお許しを頂きました。

清酒、どぶろく、にごり酒に甘酒、大吟醸等々、
ありとあらゆる日本のお酒を、がぶがぶ、ざぶざぶ、浴びるだけ幸福に飲み歩きまして、
ある時代のある巳年、ある冬の夜、
「おでん屋台」なる酒天国と出会いまして。
店主が亡くなるまで、ずっと通い続けました。
店主が亡くなったら、勝手に屋台の台車と道具を貰っていって、店主の後を継ぎました。

お酒が大好き過ぎる大蛇神は、最高のお酒を仕入れるおでん屋台の店主となって、
夜な夜な、飯テロならぬ酒テロなおでんを、極上のお酒と一緒に、振る舞うようになりました。

で、そんな大蛇神様の、【もにょもにょ】回目の巳年の正月最初のお客様は、稲荷神社在住の化け狐。

「大変だったんですよ。末っ子を起こさないように、起きてここまで来るのは」
カウンターではさっそく、真面目で漢方医勤務な父狐が、人間に化けて椅子に座って、コップ2杯でドゥルンドゥルンに酔っ払っています。
「あの子は、食いしん坊だから、ここに連れてくると、ここのおでんを全部食べてしまう……」

へぇ。そりゃあ、大変だね。
にっこり笑う人間形態の店主の足元には、こっそり、隠れたお客様。 そうです。父狐の末っ子です。
「おいしい。おいしい」
ちゃむちゃむ、ちゃむちゃむ。末っ子の子狐は店主からどっさり、ウィンナーだの牛すじだの、申し訳程度の煮込み野菜なんかも貰ってご機嫌。
「おじちゃん、がんも、ちょーだい」
コンコン子狐の大宴会は、すべて父狐のお会計に、
ちゃっかり、含まれてゆくのでした。

はてさて、父狐、お金の手持ちは大丈夫かしら。
このまま高価なお酒を頼み続けますと、必要なお札が、樋口さん&津田さんから諭吉さん&柴三郎さんにランクアップしてしまいます。
店主としては構わぬのです。新しいお酒を仕入れる軍資金が増えるから。 あー。まいど。毎度。

「おや」
ところで大蛇神の店主さん、屋台から離れた建物と建物の影で、子狐くらいの小ちゃな視線が1匹、
子狐のことを心配そうに、うらやましそうに、
凝視しているのを、発見したのでした。
子狐の親友の、子狸です。子狸は大人から、「おでん屋台の店主の正体」を、聞いておったのです。
だから、子狸は店主が怖くて、でも絶品おでんを食べてみたくて、
ただただ、大蛇神のおでん屋台を、じっと、遠くから眺めておったのです。

「持ってっておやり」
古い蛇神のおでん屋店主さん、足元で大根を賞味中の子狐に、少し大きなお皿を渡して言いました。
お皿には子狸が好きそうな、サツマイモの似たやつに味しみニンジン、鶏手羽元なんかが盛り沢山。
「友達と一緒に、食べておいで」
店主の足元のコンコン子狐、最初は何のことかと、小首傾けてキョトン。
それから遠くに親友の子狸を見つけまして、
渡されたお皿を引っ張って、子狸のところへ持ってって、2匹して仲良くおでんパーティー。
新年最初の思い出となりました。

新年最初の大蛇神のおでん屋さん、その日の最初のお会計は、諭吉さん1枚の大繁盛だったとさ。
おしまい、おしまい。

12/31/2024, 10:51:27 AM

「『良いお年をお迎えくださいの挨拶は、12月中旬から大晦日の前まで』……?」
マジ?……え、まじ?妙なマイルール・マイマナー作家さんが勝手に言いました、とかじゃなくて?
某所在住物書きは「良いお年を」の、そもそもの意味をネットで検索していたところ、サジェストキーワードから衝撃的な記事に辿り着いた。
「良いお年を」を言うタイミングである。某ページによると、それは大晦日当日に言うべき挨拶ではないという。 事実かどうかは分からない。

「……大晦日当日の挨拶は?」
思い浮かばねぇから、結局「良いお年を」って言うだろうな、と物書き。
所詮その大晦日も残り数時間。日付が変われば「あけまして」である。

――――――

今年最後のおはなしは、フィクションファンタジーで年越しそばなおはなし。
「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」という、厨二ちっくな名前の団体組織があり、
勿論、「良いお年を」のお題なので、年末休みの最中ではあるのですが、
管理局の中には年中無休の部署がいくつか存在して、今回の舞台も、その中のひとつでありました。

別世界の設定なのに、随分都合が良いですね。
細かいことは気にしません。そういうものです。
ご都合主義もこういう物語では便利なものです。

さて。
大晦日の世界線管理局は、時間帯が夜ということもあり、とても静かです。
法務部執行課の某ブースは、カリカリ、紙を引っ掻く万年筆の音が小さく響いています。

「部長、」
その静かなブースに、ひとり、局員が外出から帰ってきまして、その手には大きめの丸いカップ麺。
そうです、例の「◯◯兵衛」です。
「『例の世界』で買ってきました。
夜食にひとつ、いかがですか」

「向こう」では、12月31日に、こういうものを食う習慣があるそうですよ。
帰ってきた局員は、「部長」と呼んだ相手の席に、
1個、天ぷら蕎麦の方を渡しました。

「『例の世界』?」
「年越しそば、というそうです」

「この時間に食うのか?冗談だろう?」
「あなたのタバコよりはマシですよ」
「こいつは医療棟が配合した認可済みのオーダーメイドブレンドだ。依存性も体への害も少ない」
「だから高いんでしょ」

バリッ、 ビリリ、 トポトポトポ。
静かな夜の室内を、背徳的な開封音と後戻り不可能なお湯の音が満たします。
「そろそろ、年が変わりますね」
カップ麺に、お湯を注いで、フタをとめてため息ひとつ。 外出から帰ってきた方が、コートを自分の椅子にかけて、呟きます。
「俺達に『年』など関係無いだろう」
「部長」の方は、思うところがあるらしく、
まだラップされたままのカップ麺を、手にとって、席をたち、ブースの外へ。

「どちらへ?」
「よそで食う」
「ですから、どちらへ」

部長は何も答えません。ヒントも出しません。
ただ一度だけ、相手が追いかけてくるかどうかだけ振り返って、確認して、
別に来そうになかったので、そのまま放ったらかして、遠ざかる、遠ざかる。そしてお題回収です。

「おい」
部長が最後に立ち止まって、言いました。
「多分使う時期は間違えているだろうが、せっかくだ。言っておく――『良いお年を』」
言われた方は、きょとんとして、
「あぁ、はい、良いお年を」
一応、言葉は返しましたが、
「それ……厳密な使用期限は昨日までですよ」
たしかに、「使う時期」は「間違えて」いますねと、片眉上げて小首を傾けて、
そして、カップ麺のタイマーを確認するのでした。

12/31/2024, 3:14:41 AM

「去年の3月にインストールして、
今年の2月で2023年のシーズン1が終わって、
3月から、2024年のシーズン2。
それもあと2ヶ月で終わるワケだ。早いわな」
振り返れば今年は終盤に、執筆環境が非常に大きく変わった年であった。
某所在住物書きはしみじみ、数ヶ月を振り返る。

ほぼほぼ現実風の日常ネタだけで組まれていた筈の1年目に対して、
2024年の終盤から増えてきたのは、「『ここ』ではないどこかの職場」、一次創作のフィクションファンタジーを舞台にした投稿。
1年の最初には、考えもしなかった展開である。

「来年ってどうなるんだろうな」
物書きは天井を見る。おそらく今考えている物語と、1年後に完成している物語は、まったくの別物となっているだろう。

――――――

大晦日の都内某所、某アパートの一室、夜。
部屋の主を藤森といい、今年最後の食事の用意として、キューブタイプの鶏塩鍋の素1個を落とした鍋に、少しだけ醤油とごま油を隠して、
ことこと、コトコト。割引カット野菜とB級品の鶏手羽元を煮込んでいる。

シメは先日スーパーで購入した、無塩蕎麦の予定。
あるいは、そうめんも良いかもしれない。
どちらにせよ、手羽元からしみ出した鶏のダシと、ごま油とが麺に絡んで、年越し麺はそこそこ食うに値する美味となるだろう。

スープを味見して、藤森は小さく頷いた。
これで良い。 スープの余剰を明日の朝食に残して、これで白米をおかゆ風にするのも良い。
体を温めるために、生姜を削ろう。
藤森は清潔な容器に、1杯、2杯、3杯。
レードルで玉油の美しい琥珀色を取り分けた。

ここからがお題回収。
藤森の部屋に客が来ており、その客が椅子付きコタツで、1年間を振り返っている。

客は名前を後輩、もとい高葉井といい、藤森とは生活費節約術として、シェアランチだのシェアディナーだのを共につっつく仲であった。
主に高葉井のソシャゲ課金費用捻出が理由である。

「できたぞ」
鍋と、味チェンジ用の薬味一式と、それからシメの乾麺とをトレーにのせて、高葉井の待つコタツへ。
「明日はこの、」
明日はこの鍋のスープを使って、おかゆを作る予定だが、相変わらず今年も食っていく予定なのか。
藤森が尋ねようとした言葉は途中で詰まったが、
理由は別に、キッチンに肝心の取り皿と取り箸、それからレードルを忘れたからではない。

「後輩、どうした、高葉井?」
椅子付きコタツで電卓を叩いていた高葉井の顔が、絶望的に良くない。完全に心の温度が冷えている。
「高葉井、高葉井。 高葉井 日向……ひなた?」
なんだ、どうした。何があった。
トレーを置き、高葉井の背後にまわると、
高葉井が計算していた高葉井自身の今年の課金額が、すなわち電卓の表示が、
最初の桁に、2を示していた。

「せんぱい」
ぽつり。高葉井が呟いた。
「ことしは、ほんとうに、おせわになりました」

「生活費節約のための、シェアランチのことか」
「1年間を振り返って、すごく、すごく、お世話になってたなって、すごく思って」
「だろうな。 今年はいくら使ったんだ」

「来年もどうぞ、よろしく支援のほど」
「20だったのか?」
「おねがい、もうしあげ、ます」
「どうだったんだ。25?
おい。何故電卓を隠す。どうした。おい……?」

そそくさと、藤森の客であるところの高葉井は、
電卓をコタツの毛布の下に隠し、スマホの課金額一覧を消して、鍋のフタを開けた。
「わぁ。おいしそう」
抑揚は完全に単調で、しかしわずかに、藤森への多大な感謝が滲んでいる。

「本当に、1年間、ありがとう」
再度、高葉井が呟いた。
「ところで取り皿と取り箸どこ?」
ここに至って藤森は、自分の忘れ物にようやく気付き、キッチンへ戻った。

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