かたいなか

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「『良いお年をお迎えくださいの挨拶は、12月中旬から大晦日の前まで』……?」
マジ?……え、まじ?妙なマイルール・マイマナー作家さんが勝手に言いました、とかじゃなくて?
某所在住物書きは「良いお年を」の、そもそもの意味をネットで検索していたところ、サジェストキーワードから衝撃的な記事に辿り着いた。
「良いお年を」を言うタイミングである。某ページによると、それは大晦日当日に言うべき挨拶ではないという。 事実かどうかは分からない。

「……大晦日当日の挨拶は?」
思い浮かばねぇから、結局「良いお年を」って言うだろうな、と物書き。
所詮その大晦日も残り数時間。日付が変われば「あけまして」である。

――――――

今年最後のおはなしは、フィクションファンタジーで年越しそばなおはなし。
「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」という、厨二ちっくな名前の団体組織があり、
勿論、「良いお年を」のお題なので、年末休みの最中ではあるのですが、
管理局の中には年中無休の部署がいくつか存在して、今回の舞台も、その中のひとつでありました。

別世界の設定なのに、随分都合が良いですね。
細かいことは気にしません。そういうものです。
ご都合主義もこういう物語では便利なものです。

さて。
大晦日の世界線管理局は、時間帯が夜ということもあり、とても静かです。
法務部執行課の某ブースは、カリカリ、紙を引っ掻く万年筆の音が小さく響いています。

「部長、」
その静かなブースに、ひとり、局員が外出から帰ってきまして、その手には大きめの丸いカップ麺。
そうです、例の「◯◯兵衛」です。
「『例の世界』で買ってきました。
夜食にひとつ、いかがですか」

「向こう」では、12月31日に、こういうものを食う習慣があるそうですよ。
帰ってきた局員は、「部長」と呼んだ相手の席に、
1個、天ぷら蕎麦の方を渡しました。

「『例の世界』?」
「年越しそば、というそうです」

「この時間に食うのか?冗談だろう?」
「あなたのタバコよりはマシですよ」
「こいつは医療棟が配合した認可済みのオーダーメイドブレンドだ。依存性も体への害も少ない」
「だから高いんでしょ」

バリッ、 ビリリ、 トポトポトポ。
静かな夜の室内を、背徳的な開封音と後戻り不可能なお湯の音が満たします。
「そろそろ、年が変わりますね」
カップ麺に、お湯を注いで、フタをとめてため息ひとつ。 外出から帰ってきた方が、コートを自分の椅子にかけて、呟きます。
「俺達に『年』など関係無いだろう」
「部長」の方は、思うところがあるらしく、
まだラップされたままのカップ麺を、手にとって、席をたち、ブースの外へ。

「どちらへ?」
「よそで食う」
「ですから、どちらへ」

部長は何も答えません。ヒントも出しません。
ただ一度だけ、相手が追いかけてくるかどうかだけ振り返って、確認して、
別に来そうになかったので、そのまま放ったらかして、遠ざかる、遠ざかる。そしてお題回収です。

「おい」
部長が最後に立ち止まって、言いました。
「多分使う時期は間違えているだろうが、せっかくだ。言っておく――『良いお年を』」
言われた方は、きょとんとして、
「あぁ、はい、良いお年を」
一応、言葉は返しましたが、
「それ……厳密な使用期限は昨日までですよ」
たしかに、「使う時期」は「間違えて」いますねと、片眉上げて小首を傾けて、
そして、カップ麺のタイマーを確認するのでした。

12/31/2024, 10:51:27 AM