「今年の抱負を、ひらめくのか、早々に挫折するのか、書き初めとして残すのか。
まぁまぁ、ネタとしては抱負、もとい豊富よな」
個人的には、「『解釈』と『書きたい』は別」の言葉を、ぜひ実践していきたい。
某所在住物書きは去年とったスクリーンショットを見ながら、ぽつり、ぽつり。
解釈と書きたいが逆方向を向くことは、ある。
書きたいをぜひ、推進していきたい。
「あとは、アレよな。今このアプリで投稿してる連載風、2024年度のシーズン2を、2025年2月末で、ちゃんと閉じたい」
今年の3月で、このアカウントも3年目。
シーズン3の開始まであと2ヶ月である。
――――――
「今年の抱負」と題しまして、今回はこんなおはなしをご用意しました。
すなわち、都内某所の某稲荷神社と、「ここ」ではないどこかの世界の「厨二ちっく団体組織」と、
それから、都内某所に活動拠点を構える「厨二ちっく団体組織の敵陣営」のおはなしです。
――まずは稲荷神社のおはなし。
都内某所、某本物の御狐様が居る稲荷神社は、書き初めイベントの真っ最中。
紅白のしめ縄をちょうちょ結びに、首輪のように飾った子狐が、大きな半紙の前でおすわり。
「さぁ、行っておいで」
狐耳と狐尻尾を付けた神主さんが子狐に、とっても軽い大筆を背負わせました。
見物人が、それぞれ、カメラを子狐に向けます。
子狐が描いた軌跡で今年を占うと同時に、
その切れ端を貰って今年の抱負を念じて、それをお焚き上げに投じれば、念じたことをやり遂げるチカラを、御狐様が授けてくれるそうなのです。
きゃきゃっ。くわぅぅ。
稲荷寿司とお揚げさんで接待された子狐は、いよいよ上機嫌になりまして、筆も墨汁も関係無しに、大きな半紙の上を全力疾走。
無事、尻尾もお手々も真っ黒くろすけになって遊び倒して、観客をほっこりさせたとさ。
――次は「ここ」ではないどこかの世界。
世界線管理局とかいう厨二ファンタジーな組織の、法務部執行課、実働班の中にあるひとつの部門。
「書き初め」なる概念を発掘してきた局員が、別部署から書道セットを借りてきまして、
ものは試しと、昼休憩中に、筆をとったのでした。
「何してる」
「『書き初め』というそうです。今年の抱負を、こうしてアナログで、書いておくのだそうで」
「はぁ」
「やってみます?」
「俺が?」
お先に、どうぞ。
書道セットを借りてきた方が、自分に話しかけてきた方のデスクに、半紙とスズリをセッティング。
「む……」
ここまでお膳立てされては、断るのも困難。
仕方が無いので、筆を渡された方は、「今年の抱負」を半紙の前で考えますが、
筆の持ち方、それ、完全に万年筆ですね。
「おい。書きづらいぞ」
「そりゃそうですよ」
「書きづらいのを克服して、抱負に向き合うというコンセプトなのか、これは。
……おい。何を笑ってる。どうなんだ」
「いいえ。あなたがそう思うなら、もう、それで」
――最後は上記、世界線管理局の敵対組織。
都内某所に「領事館」という活動拠点を構えており、名前を世界多様性機構といいました。
相手組織が厨二ファンタジーなら、敵対組織も厨二ファンタジー。どっちもどっちですね。
で、その領事館で、長めの半紙に向かい合い、
正座して、ちゃんとした筆の持ち方でもって、ズァッと墨汁を走らせたのが、領事館の館長さん。
半紙には、こんなことが書かれていました。
『今年こそは領事館からスギ花粉を撲滅する』
何を隠そう館長さん、重度のスギ花粉症なのです。
東京に来てから1〜2年程度で、一気に発症。
だって 館長さんの 故郷の世界に 花粉症など ちっとも無かったのですから!
「おのれ……にっくきスギ花粉め!」
「無理だと、思いますけどね」
2人居る館長の部下さんのうち、花粉症を知らぬひとりがポツリ、言いました。
「無理でしょうねぇ……」
2人居る館長の部下さんのうち、食べ物アレルギーをも知らぬひとりがポツリ、続きました。
「よしっ!!」
そんな部下さんの会話も知らず、館長さんはその年も、打倒スギ花粉を掲げるのでした。
稲荷神社と、厨二組織2団体の、
それぞれの「今年の抱負」に関するおはなしでした。おしまい、おしまい。
「『新年おめでとう』と『明けましておめでとう』は良いけど、『新年明けましておめでとう』が、実は厳密にはちょっとおかしい、
ってデマだか何だかは聞いたことがある」
実際はどうだったかな。知らんけど。某所在住物書きはテレビで新春番組を流しっ放しにしつつ、スマホ画面を見ながら外付けキーボードをパチパチ。
結局、新年だろうと旧年だろうと、1日に違いは無いのだ。ただ番組が違うだけ。空気が違うだけ。
ところで「変わらぬ1日」の筈が、ここ24時間+αで随分体重が、いや気のせいか、云々。
「……うん」
変わらぬ。気のせいである。物書きは思う。
新年早々ダイエットの計画など立てたくない。
――――――
去年の新年は散々だった物書きです。
というのも一昨年の暮れに腰の肉離れだか筋を痛めただかをして、どこにも行けなかったのです。
「寝正月」とは、文字通りこのこと。
酷い目に遭ったものだ……というのは置いといて。
当アカウントでは「新年」最初となるおはなしの、はじまり、はじまり。
元旦終わって、1月2日に日付が変わったばかりの都内某所。某稲荷神社の近くです。
大きな大きな神代の古い蛇が、神様の術で全長6メートルくらいに小ちゃくなって、
ゴロゴロガラリ、ゴロゴロガラリ。
おでん屋台を尻尾で引いて、ゆっくり、まったり、いつもの場所へ向かっておりました。
若い頃にやんちゃして、別の神様にやっつけられたのが【ごにょごにょ】年前。
それでもお酒がやめられなくて、「どうか酒を飲ませてくれ」と頼み込んだところ、
今後人間たちに悪さをしないことを条件に、一度だけ、偉い神様からお許しを頂きました。
清酒、どぶろく、にごり酒に甘酒、大吟醸等々、
ありとあらゆる日本のお酒を、がぶがぶ、ざぶざぶ、浴びるだけ幸福に飲み歩きまして、
ある時代のある巳年、ある冬の夜、
「おでん屋台」なる酒天国と出会いまして。
店主が亡くなるまで、ずっと通い続けました。
店主が亡くなったら、勝手に屋台の台車と道具を貰っていって、店主の後を継ぎました。
お酒が大好き過ぎる大蛇神は、最高のお酒を仕入れるおでん屋台の店主となって、
夜な夜な、飯テロならぬ酒テロなおでんを、極上のお酒と一緒に、振る舞うようになりました。
で、そんな大蛇神様の、【もにょもにょ】回目の巳年の正月最初のお客様は、稲荷神社在住の化け狐。
「大変だったんですよ。末っ子を起こさないように、起きてここまで来るのは」
カウンターではさっそく、真面目で漢方医勤務な父狐が、人間に化けて椅子に座って、コップ2杯でドゥルンドゥルンに酔っ払っています。
「あの子は、食いしん坊だから、ここに連れてくると、ここのおでんを全部食べてしまう……」
へぇ。そりゃあ、大変だね。
にっこり笑う人間形態の店主の足元には、こっそり、隠れたお客様。 そうです。父狐の末っ子です。
「おいしい。おいしい」
ちゃむちゃむ、ちゃむちゃむ。末っ子の子狐は店主からどっさり、ウィンナーだの牛すじだの、申し訳程度の煮込み野菜なんかも貰ってご機嫌。
「おじちゃん、がんも、ちょーだい」
コンコン子狐の大宴会は、すべて父狐のお会計に、
ちゃっかり、含まれてゆくのでした。
はてさて、父狐、お金の手持ちは大丈夫かしら。
このまま高価なお酒を頼み続けますと、必要なお札が、樋口さん&津田さんから諭吉さん&柴三郎さんにランクアップしてしまいます。
店主としては構わぬのです。新しいお酒を仕入れる軍資金が増えるから。 あー。まいど。毎度。
「おや」
ところで大蛇神の店主さん、屋台から離れた建物と建物の影で、子狐くらいの小ちゃな視線が1匹、
子狐のことを心配そうに、うらやましそうに、
凝視しているのを、発見したのでした。
子狐の親友の、子狸です。子狸は大人から、「おでん屋台の店主の正体」を、聞いておったのです。
だから、子狸は店主が怖くて、でも絶品おでんを食べてみたくて、
ただただ、大蛇神のおでん屋台を、じっと、遠くから眺めておったのです。
「持ってっておやり」
古い蛇神のおでん屋店主さん、足元で大根を賞味中の子狐に、少し大きなお皿を渡して言いました。
お皿には子狸が好きそうな、サツマイモの似たやつに味しみニンジン、鶏手羽元なんかが盛り沢山。
「友達と一緒に、食べておいで」
店主の足元のコンコン子狐、最初は何のことかと、小首傾けてキョトン。
それから遠くに親友の子狸を見つけまして、
渡されたお皿を引っ張って、子狸のところへ持ってって、2匹して仲良くおでんパーティー。
新年最初の思い出となりました。
新年最初の大蛇神のおでん屋さん、その日の最初のお会計は、諭吉さん1枚の大繁盛だったとさ。
おしまい、おしまい。
「『良いお年をお迎えくださいの挨拶は、12月中旬から大晦日の前まで』……?」
マジ?……え、まじ?妙なマイルール・マイマナー作家さんが勝手に言いました、とかじゃなくて?
某所在住物書きは「良いお年を」の、そもそもの意味をネットで検索していたところ、サジェストキーワードから衝撃的な記事に辿り着いた。
「良いお年を」を言うタイミングである。某ページによると、それは大晦日当日に言うべき挨拶ではないという。 事実かどうかは分からない。
「……大晦日当日の挨拶は?」
思い浮かばねぇから、結局「良いお年を」って言うだろうな、と物書き。
所詮その大晦日も残り数時間。日付が変われば「あけまして」である。
――――――
今年最後のおはなしは、フィクションファンタジーで年越しそばなおはなし。
「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」という、厨二ちっくな名前の団体組織があり、
勿論、「良いお年を」のお題なので、年末休みの最中ではあるのですが、
管理局の中には年中無休の部署がいくつか存在して、今回の舞台も、その中のひとつでありました。
別世界の設定なのに、随分都合が良いですね。
細かいことは気にしません。そういうものです。
ご都合主義もこういう物語では便利なものです。
さて。
大晦日の世界線管理局は、時間帯が夜ということもあり、とても静かです。
法務部執行課の某ブースは、カリカリ、紙を引っ掻く万年筆の音が小さく響いています。
「部長、」
その静かなブースに、ひとり、局員が外出から帰ってきまして、その手には大きめの丸いカップ麺。
そうです、例の「◯◯兵衛」です。
「『例の世界』で買ってきました。
夜食にひとつ、いかがですか」
「向こう」では、12月31日に、こういうものを食う習慣があるそうですよ。
帰ってきた局員は、「部長」と呼んだ相手の席に、
1個、天ぷら蕎麦の方を渡しました。
「『例の世界』?」
「年越しそば、というそうです」
「この時間に食うのか?冗談だろう?」
「あなたのタバコよりはマシですよ」
「こいつは医療棟が配合した認可済みのオーダーメイドブレンドだ。依存性も体への害も少ない」
「だから高いんでしょ」
バリッ、 ビリリ、 トポトポトポ。
静かな夜の室内を、背徳的な開封音と後戻り不可能なお湯の音が満たします。
「そろそろ、年が変わりますね」
カップ麺に、お湯を注いで、フタをとめてため息ひとつ。 外出から帰ってきた方が、コートを自分の椅子にかけて、呟きます。
「俺達に『年』など関係無いだろう」
「部長」の方は、思うところがあるらしく、
まだラップされたままのカップ麺を、手にとって、席をたち、ブースの外へ。
「どちらへ?」
「よそで食う」
「ですから、どちらへ」
部長は何も答えません。ヒントも出しません。
ただ一度だけ、相手が追いかけてくるかどうかだけ振り返って、確認して、
別に来そうになかったので、そのまま放ったらかして、遠ざかる、遠ざかる。そしてお題回収です。
「おい」
部長が最後に立ち止まって、言いました。
「多分使う時期は間違えているだろうが、せっかくだ。言っておく――『良いお年を』」
言われた方は、きょとんとして、
「あぁ、はい、良いお年を」
一応、言葉は返しましたが、
「それ……厳密な使用期限は昨日までですよ」
たしかに、「使う時期」は「間違えて」いますねと、片眉上げて小首を傾けて、
そして、カップ麺のタイマーを確認するのでした。
「去年の3月にインストールして、
今年の2月で2023年のシーズン1が終わって、
3月から、2024年のシーズン2。
それもあと2ヶ月で終わるワケだ。早いわな」
振り返れば今年は終盤に、執筆環境が非常に大きく変わった年であった。
某所在住物書きはしみじみ、数ヶ月を振り返る。
ほぼほぼ現実風の日常ネタだけで組まれていた筈の1年目に対して、
2024年の終盤から増えてきたのは、「『ここ』ではないどこかの職場」、一次創作のフィクションファンタジーを舞台にした投稿。
1年の最初には、考えもしなかった展開である。
「来年ってどうなるんだろうな」
物書きは天井を見る。おそらく今考えている物語と、1年後に完成している物語は、まったくの別物となっているだろう。
――――――
大晦日の都内某所、某アパートの一室、夜。
部屋の主を藤森といい、今年最後の食事の用意として、キューブタイプの鶏塩鍋の素1個を落とした鍋に、少しだけ醤油とごま油を隠して、
ことこと、コトコト。割引カット野菜とB級品の鶏手羽元を煮込んでいる。
シメは先日スーパーで購入した、無塩蕎麦の予定。
あるいは、そうめんも良いかもしれない。
どちらにせよ、手羽元からしみ出した鶏のダシと、ごま油とが麺に絡んで、年越し麺はそこそこ食うに値する美味となるだろう。
スープを味見して、藤森は小さく頷いた。
これで良い。 スープの余剰を明日の朝食に残して、これで白米をおかゆ風にするのも良い。
体を温めるために、生姜を削ろう。
藤森は清潔な容器に、1杯、2杯、3杯。
レードルで玉油の美しい琥珀色を取り分けた。
ここからがお題回収。
藤森の部屋に客が来ており、その客が椅子付きコタツで、1年間を振り返っている。
客は名前を後輩、もとい高葉井といい、藤森とは生活費節約術として、シェアランチだのシェアディナーだのを共につっつく仲であった。
主に高葉井のソシャゲ課金費用捻出が理由である。
「できたぞ」
鍋と、味チェンジ用の薬味一式と、それからシメの乾麺とをトレーにのせて、高葉井の待つコタツへ。
「明日はこの、」
明日はこの鍋のスープを使って、おかゆを作る予定だが、相変わらず今年も食っていく予定なのか。
藤森が尋ねようとした言葉は途中で詰まったが、
理由は別に、キッチンに肝心の取り皿と取り箸、それからレードルを忘れたからではない。
「後輩、どうした、高葉井?」
椅子付きコタツで電卓を叩いていた高葉井の顔が、絶望的に良くない。完全に心の温度が冷えている。
「高葉井、高葉井。 高葉井 日向……ひなた?」
なんだ、どうした。何があった。
トレーを置き、高葉井の背後にまわると、
高葉井が計算していた高葉井自身の今年の課金額が、すなわち電卓の表示が、
最初の桁に、2を示していた。
「せんぱい」
ぽつり。高葉井が呟いた。
「ことしは、ほんとうに、おせわになりました」
「生活費節約のための、シェアランチのことか」
「1年間を振り返って、すごく、すごく、お世話になってたなって、すごく思って」
「だろうな。 今年はいくら使ったんだ」
「来年もどうぞ、よろしく支援のほど」
「20だったのか?」
「おねがい、もうしあげ、ます」
「どうだったんだ。25?
おい。何故電卓を隠す。どうした。おい……?」
そそくさと、藤森の客であるところの高葉井は、
電卓をコタツの毛布の下に隠し、スマホの課金額一覧を消して、鍋のフタを開けた。
「わぁ。おいしそう」
抑揚は完全に単調で、しかしわずかに、藤森への多大な感謝が滲んでいる。
「本当に、1年間、ありがとう」
再度、高葉井が呟いた。
「ところで取り皿と取り箸どこ?」
ここに至って藤森は、自分の忘れ物にようやく気付き、キッチンへ戻った。
「みかんといえば、『陳皮(ちんぴ)』とかいうミカンの皮を乾かした生薬と、『オレンジフラワー』だの『オレンジピール』だののハーブティーか?」
昔スーパーで試食配ってたねーちゃんが、カマンベールにオレンジマーマレードのせて渡してくれて、それは美味かったわ。
某所在住物書きは賞味期限間近なマーマレードの瓶を眺めながら、これをどう処理すべきか思考していた。
「『ミカン科』のグループで言えば、レモンもミカンで山椒もミカン。カレーリーフもミカン科だとさ」
意外と仲間は多いようだが、で、その「みかん」で何書けっていうんだろう。物書きは相変わらず途方に暮れて、ため息を吐く。
「『マーマレード 活用法』で調べたら、照り焼きとかマーマレード焼きとか出てきたわ。……パンだのチーズだのに使うだけじゃねぇのな」
――――――
「みかん」のお題を「蜜柑」と「未完」で回収したい物書きが、こんなおはなしをご用意しました。
前回からの続き物。
「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」なるフィクションファンタジーな職場がありまして、現在、年末休みの真っ最中。
ただ、「我が部署に年末休みはありません」なブースが、管理局にはありまして、
そのひとつは、すなわち、「法務部執行課 実働班特殊即応部門」といいました。
ところでその法務部執行課に、とても温かそうなコタツがドンと鎮座しておって、
若い女性のコタツムリさんが、小さな折りたたみ式の1人用コタツをガチャガチャいじっている様子。
コタツムリさんは、ビジネスネームをスフィンクスと言いました。
そしてスフィンクスがいじっているのは、ボタンを押せばミカンが出てくる不思議なコタツ、「Ko-Ta2」のコンパクト持ち運びタイプ。
未完の「Ko-Ta4」。試作機だったのでした。
コタツムリのスフィンクス、Ko-Ta4試作機の調整が一段落したので、ひとまず試運転。
「ミカンの材料」をぐいぐい押し込みます。
「この前は、このKo-Ta4、ミカンじゃなくてレモンが生成されて出てきたんだよな」
ある程度材料をコタツに押し込み、ポチッ。
スフィンクスがKo-Ta4試作機のボタンを押すと、ウィンウィン、ウィンウィン。
ミカンの材料は静かなモーター音とともに、コタツの中に引き込まれていきました。
それを、マグカップに入れた赤味噌の味噌汁など飲みながら見ていたのが、特殊即応部門の部長さん。
ビジネスネームをルリビタキといいます。
「毎回思うんだが、」
マグカップにお湯を少し足して、ルリビタキ部長、スフィンクスに聞きました。
「その、コタツのボタンを押せばミカンが出てくる仕組み、どうなってるんだ」
フィクションファンタジーな不思議物語で、その「不思議」の仕組みを聞くなんて、
ルリビタキ部長もなかなか無粋なことをしますね。
まぁまぁ。細かいことは気にしない。
「アンタもミカンにしてやろうか、鳥頭?」
ウィンウィン、ウィンウィン。
Ko-Ta4試作機のミカン生成シーケンスを、じーっと観察しながら、スフィンクスが言います。
「そうすれば、どうやって俺様のコタツがミカンを生成してるか、身をもって学べるぜぇ」
どうやら材料の取り込みまでは、順調な様子。
Ko-Ta4試作機のモーターの音が、止まりました。
「ミカンの材料」の取り込みからミカン変換までの工程の、ほぼ半分が完了したのです。
「よしっ!ミカン化スイッチ、オン!」
スフィンクスは満を持して、コタツのスイッチを押しました! すると、
ウィンウィン、 ガガガ、 ガガガガッ。
ミカンの材料からミカンを生成してくれるコタツ、持ち運び可能タイプのKo-Ta4試作機が、
不穏な、不安な音を出し始めたのです。
「んん〜?」
「なんだ。どうした鬼畜猫」
「いやー、俺様の傑作Ko-Ta4がな、アンタを是非賞味したいって駄々こねちまって」
「それがジョークで、実際のところは?」
「なんかミカン生成の一番最後の段階が妙な回路と繋がっちまったっぽい」
緊急停止を押そうか、そのまま放っておこうか。
スフィンクスがアレコレ考えていると、
スポン! ここでお題回収。
スイッチひとつでミカンが出てくる、不思議な不思議なコタツ、「Ko-Ta4」から、
みかんのみかん、「未完の蜜柑」が堂々爆誕。
丁度左半分しか果肉が入っていなくて、かつ皮が未熟に黄緑色したみかんが、排出されたのでした。
「あるぇ?」
この手の不具合は、俺様、見たことねぇぞ。
コタツムリのスフィンクス、首を大きく傾けまして、出てきた未完のミカンを見たり、コタツに組み込んだ回路を見たり。
バラして組み直して、また首をカックリ傾けます。
「……あるぇ?」
不具合が直ったのは、数時間後だったとさ。
「未完の蜜柑」がコタツから出てくるおはなしでした。おしまい、おしまい。