かたいなか

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11/7/2024, 3:21:08 AM

「ああ、うん、降ってるらしいな。『柔らかい』どころか冷たい雪が。北国で」
なお、このアカウントで連載風の舞台にしている東京は「雨」の「あ」の字も無い晴天です。
某所在住物書きはアプリの通知画面を見ながら、今日も今日とて途方に暮れている。
まさしく、これである。リアルタイムネタ、現代時間軸の連載風、「最近のフェイクな東京」を描くにあたり、時に題目と「現在」がズレる場合がある。
たとえば「雨」のお題の日に東京は快晴、とか。

「まぁ、しゃーねぇわ。このアプリ、雨ネタと空ネタが結構エンカウント率高いから……」
だって「雨」の字が確実に入ってるってだけでも、3月から数えてこれで6回目の雨だぜ。物書きは小さく首を振り、観念したように物語を組む。

――――――

最近最近の都内某所、某アパートの一室、夜。
部屋の主を藤森といい、非常に神妙な顔つきで、
ガー、ぐぁー、コードレス掃除機をかけている。
部屋の隅には無惨な姿でゴミ収集袋に詰められた、クリームホワイトの綿とパールブルーの布。
すなわち低反発クッションの成れの果て。

ゴミ袋の隣では子狐がスケッチブックを首からさげて、マンチカン立ちで静止している。
スケッチブックには藤森による丁寧な楷書体。

『私は藤森の部屋に綿の雨を降らせました』

――さかのぼること、数十分前。
藤森は己の居城であるところのアパートで、翌日の仕事の準備をしていた。
部屋は防音防振の整った設計で、外の騒音は少ししか届かない。上階がピアノのシフトペダルをダンダン踏んでも、隣の育ち盛りが父親にプロレスを仕掛けても、それらは一切、藤森の耳に入らない。
藤森には静寂が必要であった。 それは藤森が、元々花咲き風吹く雪国の田舎の出身で、人工の騒音から離れた環境で幼少時代を過ごしたためであった。

その静かな室内を、どだだどだだ!ばびゅん!
駆け抜けて跳び上がって、めちゃくちゃに遊び回るモフモフが、冒頭の子狐である。
アパート近所の稲荷神社に住まう、稲荷の狐。
言葉を話し、術を心得ており、
稲荷のご利益ゆたかな子狐特製の餅を藤森がよく買ってくれるので、そこから藤森に懐いた。

近頃は諸事情で、訪問すれば必ずジャーキーを貰えたジャーキービュッフェ、もといどこか誰かの職場への出入りが制限されてしまい、少々不満。
持て余した食いしん坊と遊び足りなさが、そのまま優しい藤森に向いた。

仕方ないさと藤森。子供は得てして、そういうもの。今は静かな藤森も、◯◯年前はやんちゃして、森山同然の遊歩道を駆け回り、アケビを採って桜と遊び、遠くに佇むリスや狐を追いかけた。
「私の邪魔だけは、しないでくれよ」
藤森は稲荷の子狐の爆走を、それでも許した。
結果が冒頭であった。

たたんタタンたたんタタン、ぼふん!
静かな室内を駆け回り、駆け上がり、飛び跳ねる子狐は、お題回収役であるところの低反発クッションに衝突。その柔らかさと噛みやすさを知った。
「ぎゃっ!ぎゃぎゃっ!!」
持て余すやんちゃと体力に従い、子狐ぶんぶん、びたんびたん、比較的小さめのクッションに深く噛みついて、上下左右に振り回した。
「えい!!やあっ!!」

ぶんぶんぶん、びたんびたん。何やら騒がしい。
藤森は仕事の手を休めて、音のする方を見た。
そのときであった。まさしく、その直後であった。
びりっ、ビリ、 ぱん。
藤森の目の前で、パールブルーの柔らかい塊が一直線に空を飛び、中から綿の柔らかい雨が、ばらばら、ぱらぱら。ゆっくりと、床に散らばった。

開いた口が塞がらない藤森。
「仕事の邪魔」はするなと子狐に伝えていたものの、クッションを破壊するとは予想外。
「……こぎつね?」
子狐には散らばった低反発の綿すら遊び道具。
跳びついて、くわえて放り上げて、尻尾を業務用扇風機のごとく歓喜に振り回している。
「子狐」
藤森はゴミ袋を取ってきて、掃除を始めた。
「すまないが、それは、ちょっと私もお前を叱らなければならない、かもしれない」

――「たのしかった」
床に残った小さな綿と、綿埃と、それから子狐の夏毛の抜け残りとを、掃除機で吸っていた藤森。
子狐はマンチカン立ちに、己の罪状を首からさげたまま、謝罪ではなく感想を述べた。
「そうか」
深く、長いため息を吐いて、掃除機を戻す。
「……そうか」
そうだろうな。藤森は複雑な笑顔をして、スケッチブックを子狐から取り除いてやり、
わしゃわしゃと、頭を撫でてやった。

11/6/2024, 5:43:35 AM

「理想郷、永遠、鏡の中、哀愁。ここ1週間、ガチでエモい系のお題が渋滞だったわな」
光と言ったら、何故か某カードゲームの召喚方法の一種を思い出しちまうんだよな。
某所在住物書きは、いつもより少々遅れた投稿時刻を「仕方無い」としながら、ぽつり。
過去配信されたお題の履歴を確認している。

当分、少し難度の下がったお題が続く筈である――ただ■日後、ようやく差した低難度、一筋の光が、ドンと落とされる可能性もあるわけで。
「……厨二ちっくファンタジーの物語の何がラクチンって、トンデモ設定をねじ込んでも『だって厨二だもん』で済ませられることよな」
ひとつ、ため息。1年半程度物語の投稿を続けているが、相変わらずエモいお題が得意になれない。

――――――

10月30日から始まった一連の奇想天外物語も、ようやく一旦の解決。つまり前回投稿分からの続き物。
小綺麗な、白と薄い水色を基調とした応接室。
客側の席に、言葉を話す稲荷の雄狐がお座りしていて、その隣には、ペット用のキャリーケース。
中にはジャーキーをちゃむちゃむ食べる子狐。
彼等、特に雄狐の視線の先では、男女の2名がポコポコ、取っ組み合いの喧嘩をしている。

喧嘩の原因は、キャリーケースの中の子狐。食べ盛りの食いしん坊で、客側の席に座る雄狐の末っ子。
何度も何度も、なんども、「来るな」と言われているのに、子狐は職場に侵入してきた。
その子狐侵入の理由を喧嘩の片方が作っていた。

何度も何度も来てほしくない先方と、
何度も何度も行ってしまう子狐。
何故何度も行ってしまうかといえば、つまり職場の受付係が毎度毎度子狐にジャーキーを与え、モフモフわしゃわしゃ、構っていたから。
『子狐に餌付けをするから、そちらにお邪魔してしまうんです。餌付けを止めてみてください』。
雄狐は受付係による餌付けの事実を、「来るな派」の部署へリークしに来たのである。

受付係による部外者への完全内緒なジャーキーパーティーは、先方の規則に反する行為であった。

「あれほど餌付けするなと言っただろう!」
女に掴みかかる喫煙者は「ルリビタキ」と、
「餌付けではない、接待だ!我々受付が受付としての接待業務をして、何が悪い!」
男を問答無用で投げ飛ばす犬耳は「コリー」と。
それぞれ、雄狐に名乗った。

「言い訳するな駄犬、報告義務放棄と規則違反を適用して『72条9項特例』でしょっぴくぞ!」
「おーおー法務の鳥頭サマは規則規則!柔軟な対応をできないご様子、オイタワシイかぎりですな!」

ポコロポコロ、どたんばたん。男女平等、投げて飛ばされて、飛んだ勢いで云々、かんぬん。
目の前で喧嘩している「ルリビタキ」と「コリー」の互角な構図がシュールで秀逸。
彼等のドタバタに関して、男性がひとり、こちらに申し訳無さそうに頭を下げている。

「すいません。すぐ、やめさせますので」
苦労人と思しき仲裁役の男性は、「ツバメ」と名乗り、証拠として雄狐に名刺を手渡した。
ここの職場は、ビジネスネーム制を採用している。
「鳥類」ということは彼は法務部だ――つまり、「来るな派」。ルリビタキの部下かもしれない。

ツバメが己の腕からトパーズのミサンガを外し、喧嘩中の2名に向けて放ると、
ミサンガは一筋の光を放ち、たちまちその一筋で、両名をぐるぐる巻きに捕縛してしまった。
「世界線管理局収蔵、『はいはい黙れ黙れミサンガ:喧嘩両成敗のトパーズ』」
ツバメが言った。
「とある閉鎖した世界から収容されたアイテムです。便利ですよ。問答無用で縛れるので」
必要になったら、是非我々、世界線管理局の法務部管理課まで。貸与書類をご用意しますので。
ツバメは完全な業務用スマイルで穏やかに笑った。

ずるずるずる。
一筋の光でもって、ぐるぐる巻きにされたふたりは、しかしギャーギャーわんわん言い争いをし続けており、ツバメに引きずられて応接室から退場。
「とりあえず……」
雄狐と子狐で、喧嘩を見送る。
「これで餌付けが無くなって、末っ子の侵入癖解消に、一筋でも、光がさせば良いな」
雄狐は雄狐で、己の末っ子に関して、ようやく、肩の荷が下りたようであった。

11/5/2024, 3:35:20 AM

「去年は『誘う』じゃなく、『そそる』だった」
たしかエモエモ系の昔話をでっち上げて、その「エモ」を「哀愁」ということにした気がするわ。
某所在住物書きは、ぼっちで焼き鳥を1本、2本。
食いながら過去配信のお題記録帳を確認していた。「そそる」の3文字が、特に記憶に残っている。

「そそると、誘うの違い。悲と哀の違い。そこから何かネタが出てこないか、考えはしたんだわ」
物書きは言った。
「エモが不得意なせいでさっぱり浮かばねぇ……」
仕方無い。仕方無いさ。物書きは焼き鳥をかじる。

――――――

最近最近の都内某所、某稲荷神社と某アパートから比較的近い、暗い路地の深夜。
アパートの自宅へ帰ろうとしているお題回収役の雪国出身者は、名前を藤森といい、同じ職場に勤めている親友との交流を終えた直後。
なんでも親友側の部署で課長級が不穏な動きをしており、それは役職持ちの立場を利用した、藤森への嫌がらせの計画と未遂と、嫌味だという。

似たようなことが過去にもあった。
たとえばそれは総務課の、年下かつ役職未経験の従業員に対するイヤガラシで有名な、五夜十嵐。
メタフィクションな情報としては過去作9月23日と24日投稿分のあたり。
参照のスワイプが面倒なので気にしてはいけない。

要するに「どこの職場にも嫉妬と若手への加害趣味に狂う妙な理不尽は居る」というハナシ。
哀愁というより、あわれ、と言わざるを得ない。

「ん? あれは、」
ひとつ小さなため息を吐く藤森。
視線を上げると、いつか2週間ほど前に一度見た気がする手押し屋台が、暗がりの路地で、おでん屋の赤ちょうちんを灯している。
10月20日頃であっただろうか。
「たしか、大根が美味かった屋台だ」

以前は何を見間違えたか、屋台に狐が座っているように見えたが、よもや2回連続で同じ珍事件が発生することはないだろう。
「こんばんは」
のれんを割って、そのまま席につく。今回はテイクアウトではなく、ゆっくりこの場所で食べよう。
「大根と……」
大根と角こんを、ひとつ。
目の前の店主に伝え終える前に藤森の唇が止まったのは、大根の品切れを発見したためではない。

隣で猫背の雄狐がちびちび酒を飲んでいたのだ。
手酌で。器用に前あんよを使って。
「ああ、こんばんは」
狐が藤森に気付き、深々とぺこり、お辞儀をひとつ――随分弱々しい視線である。
「末っ子が、いつもお世話になっています」

すえっこ、とは……?

「角こんと、水を1杯」
酔っていない。私は、まだ酔っていない。
藤森は自分に言い聞かせて、店主から受け取ったコップ1杯の水を、一気に喉に流し入れた。
つめたい。 酔ってない。

「末っ子さんは、元気にしていますか」
狐におちょこを持たせ、酌をしてやる藤森。
雄狐が藤森に「誰」を見て、「何」の感謝を述べているのか、さっぱり分からないものの、
どうやら、心が相当に疲れているらしい。
雄狐も、 おそらく藤森自身も。

「元気過ぎて、困っておるのですよ」
藤森からの酌を、申し訳無さそうに、しかし嬉しそうに受けて、雄狐はぽつぽつ、こやこや。
猫背を更に猫背にして、話し始めた。
「ここ数日、やんちゃが過ぎて、行くなと言いつけている場所に何度も何度も、なんども……」
何度も、来て、行ってしまうのですよ。
くわぁー、くわぁーん。
モフモフ狐尻尾をしょんぼり垂らす雄狐は弱々しく鳴き、くいっと1杯。器用に酒を飲んだ。

藤森は雄狐の背中を見た。
おお、酒を飲まねばやってられぬホンドギツネよ。
育ち盛りの子供にバチクソ手を焼いていると思しき、ウルペスウルペス・ヤポニカよ。
お前のモフモフな冬毛の背中の、しかしながら、なんと哀愁を誘うことか。
疲れたのだろう。 色々、疲れたのだろう。

「末っ子さんが、言うことを聞いてくれないと」
「聞いてくれないのです。私達は、この世界に流れ着く『別の世界』からの漂着物を、『それを管理したり元の場所に戻したりする管理局』に引き渡す仕事を、第二の本職としてやっておるのですが」
「はぁ」
「その管理局の職員が、特に受付の職員と勘繰っているのですが、末っ子が遊びに行くたびクッキーやジャーキーをプレゼントしているようで」
「は……」
「しかし別の部署の方からは、『管理局はジャーキービュッフェではないので、子狐が何度も遊びに来ないよう、ちゃんと言い聞かせてほしい』と」

「向こうの受付の対応にも責任があるのでは?」
「そうですよね。そうですよね……」

ありがとう。ありがとう、その言葉をくださって。
コンコン雄狐は深々と何度も礼をして、己のおちょこを藤森に持たせ、とっくりを傾けようとする。
(言うことを聞かず、行ってはならない場所へ行き続ける末っ子の子狐か)
藤森は雄狐の、哀愁誘う背中を、あらためて見た。
モフモフの冬毛は、それでも心なしか色つやに疲労が見えて、なにより彼の心情の深層を、しょんぼり垂れる狐尻尾が如実に物語っていた。

11/4/2024, 4:34:10 AM

「8月に、『鏡』1文字のお題なら書いたわ」
当時はたしか「言葉は鏡」で書いたかな。
某所在住物書きは、ひとまず昔のお題の「何月だったか」だけを確認して、過去作の確認はやめた。
結局今日も今日だったのだ。
物語を仮組みして、納得いかず崩して組み直して、また崩して。今鏡を見れば、その中の物書きは、まぁ、まぁ。察するほかあるまい。

「かがみのなかのじぶんねぇ……」
過去のお題「安らかな瞳」で、その瞳どんな瞳だと、鏡を見たらその中に居たのがバチクソ妙ちくりんな顔の物書きだった事はある。

――――――

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
そのうち都内で漢方医をしている父狐の書斎には、
子狐禁制の、隠し部屋があるのでした。

『この隠し部屋に開いている、黒穴の中に落っこちると、世界線管理局の怖い怖いおじさんに捕まって二度と帰ってこられなくなるぞ』
という設定で、コンコン父狐、長いこと子狐の侵入を阻止しておったのですが、
数日前、具体的には過去作10月30日投稿分の頃、ひょんなことからコンコン子狐、父狐の脅しの一部の嘘に、ガッツリ、気付いてしまいまして。
ちょこちょこ、ちょこちょこ。
父狐の隠し部屋に、侵入しようと画策するように、なってしまったのでした。

「こわいこわいオジサンなんて、どこにも、いなかったやい!なんにも、こわくないやい!」

困ったのは父狐です。なんとかして、子狐を父狐の隠し部屋から、遠ざけなければなりません。
別に、隠し部屋に父狐の秘蔵のお酒やおつまみが隠されているワケではないけれど、
別に、隠し部屋に父狐のナケナシのへそくり封筒が隠されているワケでもないけれど、
別に、隠し部屋に、母狐に黙って買った、狐の妙薬調合器具セットがあるワケでも、ないけれど。
コンコン父狐、なんとかして、子狐を父狐の隠し部屋から、遠ざけなければならぬのです。

雲外鏡の鏡屋さんからは、その手の警備・防衛に使える隠し扉機能付きの魔法の鏡は、レンタル料が父狐のお小遣いの半年分だと言われました。

「はんとしは、ちょっと、考えてしまうなぁ」
コンコン父狐、別に安月給ではありませんが、母狐と数匹の子供たちをとても、とても愛しているので、お給料の通帳は、茶葉屋店主の母狐に丸投げ。
月◯万のお小遣い制を採用しておるのです。
「高いお金払って、鏡をレンタルして、それでもあの子が部屋に入ってきたら……」
たまったモンじゃない。
たまったモンじゃ、ないのです。

隠し部屋に繋がる仕掛け扉に、鏡のトラップを置いといて、子狐が隠し部屋に来ないように。
その作戦を、安く、やすく試す方法は無いものか。
コンコン父狐、自分の書斎の鏡の中の、鏡の書斎の自分と一緒に考えます。

「そうだ」
コンコン父狐、鏡の中の自分を見て、閃きました。
「化け狸の和菓子屋さんとこの、子狸くんに頼んでみよう。鏡に変身できた筈だ」
鏡そのもので子狐が怖がって、帰ってくれれば、それに越したことはないのです。
でも、そうそううまく、いくかしら……?

――「ということで、子狸くん」
ひとまずコンコン父狐、子狸のご両親から承諾を得て、子狐の友達の子狸を、鏡バイトにご招待。
「1日で、いいんだ。鏡に化けて、ウチの末っ子の通せんぼのバイト、してみないかい?」

「僕は、別に、かまわないけど……」
子狸としては、和菓子の修行の、丁度スランプ真っ最中。優しくも厳しい店長さんから、1日2日の気分転換を、勧められておりました。
別の仕事をやって、ちょっと和菓子から離れることで、何か見える物もあるかも。
ポンポコ子狸、考えたのでした。

が、子狐の親友であるところの子狸。
鏡程度であの子狐の、父狐の書斎の隠し部屋への、侵入を阻止できるとは、思えないのです。
そりゃあ、鏡を見てびっくりして、鏡の中の子狐自身に威嚇したり、体当たりしたりはするでしょうけれど、それだって、きっと最初だけなのです。
「だって稲荷の狐も化け狸も、賢いから……」

「そこを、なんとか!」
「別の方法を、考えた方が、僕は良いと思います」
「たのむよ、その『別の方法』を、閃くためでもあると思って、私の半年分を助けると思って!」
「はんとしぶん……?」

はんとしぶんって、なんだ。 ポンポコ子狸、雲外鏡の鏡屋さんの背景を知らないので、さっぱり。
仕方がないので父狐のために、隠し部屋に繋がる仕掛けの前で、鏡に化けて通せんぼ。
結果としては子狐、子狸を「子狸」と気付きまして、鏡に化けてる子狸と、化かし合い合戦を開始。
妨害計画は完全に失敗したものの、1日中、2匹して、隠し部屋の外で遊んでおったとさ。

11/3/2024, 3:53:25 AM

「やっと書きやすいお題が回ってきた」
眠りにつく前に着るのがパジャマ、眠りにつく前に食うのが夜食、眠りにつく前に飲むのが晩酌。
考え方次第でいくつかネタは考えられそうである。
某所在住物書きは毛布に包まれながら、スマホを見て、時折記憶が飛び、かっくり、こっくり。
ベッドの上で完全に昼寝の体勢をとっている。
せっかくの日曜である。昼寝も良かろう。

「眠りにつく前に、ソシャゲやると、高確率で寝落ちてスマホが顔に落っこちてくるよな」
今日は、そういうこと、無いようにしねぇと。
物書きは己の思考が眠気で千切れてバラバラになるのを感じながら、結果的にスマホを額に落とした。

――――――

最近最近の都内某所、某アパートの一室、夜。
部屋の主を藤森といい、花咲き風吹く雪国の出身。
某アタタカイウォームで揃えたベッドの中で、完全な眠りにつく前に生じる例の独特な浮遊感を、
こっくり、こっくり。心地よく受け入れている。
時刻は気が付けば23時。日付が変わる頃合い。
明日は休日である。明後日は仕事である。
その仕事用に準備すべき書類は?有っただろうか?

(だめだ。あたまが、まわらない)
夢に落ちる直前は、思考が千切れて散らかって、
最終的に意識はフワフワ。静かに霧散していく。

突然、藤森の腹の横に潜っていた熱源が動いた。
のぼってくる。毛布の中から、藤森の視線の前まで、もぞもぞも、もぞもぞ。移動してくる。
「おとくいさん。おといれ」
ここココンコンコン。藤森の鼻先を舐めるその熱源は、近所の稲荷神社の狐、化け狐の子供。
「おといれ、ついてきて」

「化け狐の子供」??

「ひとりで、……1匹で、行けないのか」
己の部屋に狐が居るのに、日本語を発しているのに、
藤森は一切驚かない。慣れてしまったのだ。
細かいことを気にしてはいけない。
「こわい。ついてきて」
段々覚醒してきた藤森に、子狐コンコン。
夜の手洗いへの同行を、健気に求めてきた。

ため息ひとつ吐いて、着る毛布のミドル丈を羽織り、子狐を抱いて要望通りのドアまで運んでいくと、
「……」
毛布の暖かさと柔らかさに負けたらしく、藤森の優しい腕の中で、コンコン子狐は夢の中。
「こぎつね?」
二度目のため息。藤森はトントン、ぽんぽん。
子狐の背中を叩いて起こした。

――そもそもどうしてこうなったのか。
藤森の部屋に、藤森の実家からキノコと野菜のどっさりが届いたことを、感知したのだ。
1人では食いきれないので、親友家族と後輩と友人と、それから日頃得意先として世話になっている茶葉屋の女店主、合計4名+αに、
おすそ分けしようとナイロン袋にそれぞれゴソゴソ、田舎から届いた秋冬を詰めていたところ、

『こんばんは!』
「茶葉屋の店主の子供」がやってきた。
『キノコ、やさい、たべる!』
子狐である。 食べ盛りの食いしん坊である。
電子ロックも鍵もセキュリティーも、監視カメラの警備だって、稲荷の狐には意味を為さぬ。
もぐもぐもぐ、ちゃむちゃむちゃむ。
コンコン子狐は藤森に、稲荷のご利益の対価を支払い、キノコ鍋とキノコの味噌汁とキノコの天ぷらと、申し訳程度の動物性タンパク質であるところのししゃもを、もちろん白米も、ぺろりと完食。
それがいけなかった。

『えほん、よんで、読んで』
眠りにつく前に、子狐は藤森に、持参したお気に入りの絵本の読み聞かせをせがんだ。
冒頭が少し怖いタイプの絵本である。子狐の住まう稲荷神社の由緒にして、子狐の祖父母が活躍する、怖いおばけを退治するタイプの絵本である。
詳細は過去作6月16日投稿分参照だが、スワイプが酷く面倒なので、気にしてはいけない。

『昔々、あるところにあった大きな花畑を、』
藤森は絵本を読んだ。ユリによく似た形の白い花が、見開きいっぱいに描かれた美しいページから、
ぱらり1枚、厚紙のページをめくる。
『人間が壊して慣らして道をひいて、家とお店を建てて、欲望渦巻く街に変えてしまいました』
おどろおどろしい絵が現れた。
それも、いけなかった。

眠りにつく前に大量に汁物を摂取して、怖い本を浴びれば、そりゃあ子供はこうなるのだ。

――「稲荷の狐でも、オバケは怖いのか」
用を済ませ、おててを洗い、スッキリして御狐ドリルなどする子狐を、藤森が優しくドアまで運ぶ。
「えほんよんで。ねむりに、つく前に」
こやん、こやん。子狐が鳴いた。
「こわくないえほん、読んで」
一応、夜のオバケの本は懲りたようではあった。

「子狐。私の部屋の本棚に、絵本は無い」
「よんで。よんで」
「読み聞かせのための本が無いんだ」
「ある!絵がなくて、文字ばっかりで、むずかしくて、聞いてるとすぐ、ねむくなるえほん」
「それは専門書だ……」

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