かたいなか

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7/23/2024, 3:57:53 AM

「1月22日は『タイムマシーン』だった」
個人的には、タイムマシーンがあったら、戻りたい過去と場所と、それによって解決したい問題は山ほどあるわな。某所在住物書きは大きなため息を吐き、首を振った――最近「問題」ばかりだ。

ところで去年のタイムマシンなお題では、本音として別の気持ちがあるのを隠した上で、登場人物に以下のようなセリフを吐かせた。
『そんなモンあったら博打で億当てて、クソな職場ともオサラバするわ』
なかば実体験。ほぼ本音である。今も変わらない。
「ってことは、俺、もしもタイムマシンがあったら、きっとカネが欲しいんだろうな」
やはり、要は金だ。物書きの欲はここに帰結した。

――――――

一般的な定義として、37℃、または37℃をちょっと超えてだいたい37.4℃あたりは、いわゆる「微熱」の体温だそうですね。
東京は最近この微熱な最高気温の予報が続いていますが、皆様、いかがお過ごしでしょうか。
今回はこんなおはなしをご用意しました。

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某職場の休憩室で、藤森という雪国出身者が、親友の宇曽野と一緒にアイスなど食しておりました。
スッキリ晴れた外を、お向かいさんのビルの窓の反射を映す休憩室の窓際は、空調をきかせてもジリジリ暑く、いや熱くて、誰もその席に座りたがりません。
藤森と宇曽野もそうでした。
とくに藤森が。だって、溶けてしまいます。

「タイムマシンがあったなら、涼しい時代に仕事を持ち込んで、仕事が終わったら現代に戻ってきて、提出して涼しい時代にまた戻るんだろうな」
知ってるか、今体温超えの東京も、昔はもっと涼しかったらしいぜ。
宇曽野が某ホワイトサワーなパピーコをちうちう。軽いトリビアを付け足して言いました。
「熱中症の警戒アラートが出たら避難、酷暑の予報が出たら避難、涼しくなったら戻る」
なんとかならんかな。ちうちうちう。宇曽野はぼんやり周囲を見て、窓際の席にひとり果敢に挑む従業員を観察し、最終的に別の席に移っていくのを見ました。
「……まぁ、そうなるよな」

「北東北や北海道に避暑用建てて、希望者はそこでワーケーションできるようにすれば良いだろう、」
ちうちうちう。パーピコの片割れを堪能する藤森、スマホで故郷の今の気温を確認しながら返します。
「と、言いたいところだが、今年はどこもかしこも、本州北端や北海道でさえ、一部除いて真夏日だ」
私の故郷も真夏日数歩手前だとさ。
小さくため息を吐く藤森のスマホに、行きつけの稲荷神社近くの茶葉屋さんから、メッセージが届きます。
どうやらこの酷い暑さに合わせて、氷出し緑茶と緑茶シャーベット飲料を始めたとのこと。
お得意様価格、2名様ご利用で2割引だそうです。

「『真夏日』だろう。こっちより何倍もマシだ。
で、藤森、おまえ今年の盆は帰省するのか」
「何故」
「夏休みで俺の嫁と娘が毎年恒例の旅に出る」
「そうだな」
「俺もお前にくっついていけば、夏休みの最後に家族で旅行発表会ができる。娘が閃いた」

「奥さんは何て」
「『日付決まったら、藤森さんのご実家から頂いたスイカとメロンのお礼を持たせたいから言って』と」
「はぁ」

「それこそ、もしもタイムマシンがあったなら、何度でもお前の故郷の夏に行って、何度でもあの青空と夕暮れと空の下の花を見て、クソ涼しい朝夕に温かい茶を飲んで。夜の静かな海を見るのにな」
ちうちう、ちう。パピコーがスッカラカンになった宇曽野。物足りなさに若干サイレント値下げを疑って、気のせいと感じて、ゴミ箱へ。
「何度も?私の故郷の夏に?」
あのな、お前の思い出の中の「静かな海」、実は海じゃなくて湖でだな。
訂正する藤森ですが、どうやら宇曽野には届いてない様子。向こうは全然気にしてません。

「……何度も何度も同じ時間に『お前』がタイムマシンで押し寄せたら、『お前』と『お前』でウチのスイカやメロンの争奪戦が起きないか?」
ぼんやり遠くを見て、藤森、ほわんほわん。脳内で過去1の宇曽野と過去2の宇曽野と未来の宇曽野と以下略のスイカ大乱闘メロンスマッシュを想像します。
「確実に、起きるよな?」
きっと何人か、宇曽野に紛れて食いしん坊の、あの長い付き合いな後輩も参戦するんだろうな。
4K8Kレベルの解像度で脳内を暴れまわる宇曽野と自分の後輩に軽くため息吐いて、
藤森は、まだ今の時代にタイムマシンが存在しないことを、ちょっとだけ感謝しましたとさ。

7/22/2024, 4:45:27 AM

「私が、今一番欲しい者は、あなたです。
あなたが、今一番欲しい物は、それです。
あなたではなく私が、誰よりコレを、今一番欲しいんだもの。 ……あとは何だろな」
物、者、藻の、Mono。今一番欲しいものって言われてもな。某所在住物書きは「もの」の予測変換を辿りながら、ぽつり呟いた。

ところでこのアプリに関してでも良いなら、有料で良いから広告削除プランか、もしくは文章に過去投稿分へのリンク埋め込む方法も欲しい。
1年以上前から、なんちゃっての続き物で書いてきてるため、伏線回収が面倒なのだ。過去作リンクができれば、もっと色々ギミックを仕込めるのだが。
「……無理かなぁ」
ぽつり、ぽつり。物書きはなおも呟く。
広告強制終了の方法を習得できたの「だけ」は、このアプリに感謝しても良いと思った。

――――――

今日も今日とて、手強いやら難しいやらなお題ですね。こんなおはなしはどうでしょう。
最近最近の都内某所、某アパートの一室に、雪国出身で藤森というのが住んでおり、
藤森の部屋には週1〜2回、不思議な子狐が不思議なお餅を売りに来るのでした。
現実感ガン無視とか、細かいことは気にしません。
大抵童話で狐は喋るし、なんなら「ごんぎつね」や「手袋を買いに」なんて前例もあるのです。
気にしない、気にしない。「そういうおはなし」だと諦めましょう。――さて。

「これが、狐の執着か……」
今日の藤森の部屋は、たいそう賑やかでした。
藤森は、ため息ついて突っ立って、首筋をカリリ。
視線の先では例の子狐が、狐の本能と食欲に従い、赤いかき氷をしゃくしゃく、もしゃもしゃ。
それはスイカアイスの素で作った氷を、しゃりしゃり、かき氷メーカーで削ったプチ贅沢。
先日、具体的には過去作7月18日投稿分あたりに、藤森が購入してきたプチプラでした。

その日もいつも通り氷を削って、ぼっちでしゃくしゃく、プチ贅沢を堪能しておった藤森。
『いいにおい、いいにおい!』
子狐コンコン、部屋に入るや否や、かき氷の香りを感知。発生源を正確に、瞬時に特定して、猛烈ダッシュからのかき氷をパクリ!
味を覚えた子狐は、これぞ自分が今一番欲しいものとばかりに、藤森の持つかき氷の器に顔からダイブ!
そのまましゃくしゃく、食べ始めてしまいました。

「おいしい。おいしい」
「子狐、あの、そのへんにしておけ」
「やだ。おいしい」
「そんなにがっつくと、頭が痛くなるぞ」
「だいじょーぶ!おいしい」

「ほら返しなさい。かわりに油揚げと稲荷寿司、」
「ダメ!さわらないで!ダメッ!」

ギャン!ギャン!
捻くれ者が近づくと、コンコン子狐、食べ物を取られまいと大声で威嚇して、噛みつこうとしてきます。
その全力の声量の、大きいこと、大きいこと。
防音の部屋で良かった。藤森は思いました。
かき氷の器を優しく取り上げようとすると子狐ギャンギャン、いっちょまえに吠え立てて、
かき氷の器から手を遠ざけると子狐しゃくしゃく、尻尾ぶんぶん。幸福そうに氷を食べます。
しまいにはペロペロ、溶けたスイカ氷のジュースも飲み干して、コンコン、こやこや。
おかわりが欲しくて、尻尾をバチクソ振り回し、おめめをキラキラ輝かせるのでした。

「子狐。おまえの今一番欲しいもの、本当にスイカのかき氷か。十分な量はもう食ったんじゃないか」
「キツネ、もっとたべたい。もっとちょうだい」
「腹が冷えてしまう。そろそろ温かいもの、欲しくなってこないか」
「だいじょーぶ!氷ちょうだい、ちょうだい」

「……メロン味も、あるぞ」
「メロンかき氷!たべる!!ちょうだい!!」

根負けしてしまった藤森、あんまり子狐の目が輝いて、あんまり子狐の尻尾がブンブンなので、
冷蔵庫の製氷室からメロンバーの素製の氷を取り出して、しゃりしゃり、しゃりしゃり。
黄緑色のかき氷を食いしん坊な子狐に、ひとつ、作ってやりました。

コンコン子狐は大喜び!これも今一番欲しいものだと、しゃくしゃく。顔からダイブして堪能します。
結果子狐、ぽんぽん冷やして痛くなってしまって、
数時間、藤森の居心地良いベッドでじっくり休憩してから、子狐のお家に帰りました。
その後数日、藤森は「うっかり」お弁当のお箸を忘れたり、「なぜか」麺つゆと冷やし中華の醤油ダレを間違えたりが「どうしてか」続きまして、
それから、その「うっかり」「なぜか」と同じくらい、ちょっと良いことが連続しましたとさ。
おしまい、おしまい。

7/21/2024, 5:34:39 AM

「『戸籍に読み仮名が登録されていなかった』。これを使ったトリックを去年投稿したわ」
俺自身は年が年だから、「優しい子になりますように」のレトロネームだが、毒母の影響で「優しさとか草ァ!」に育ったぜ。某所在住物書きは語る。
「読み方だけの変更よ。制度の穴を突いたやつ」
俺はこの抜け穴、残しといても良かったと思うけどな。物書きはぽつり、解説を始めた。

「例えば『夏美』と書いて『ねったいや』って読むとする。そこは『なつみ』だろって思うだろう。
可能だったのよ。少なくとも去年までは。『戸籍には読み仮名が登録されていないから』」
去年の時点で「2024年には法改正されるから、この変更は難しくなるかもしれない」と言われていたから、今はどうなってるか分かんねぇけどな。
物書きは当時の投稿を辿ろうとして、案の定スワイプが面倒になり、途中で諦めてため息を吐いた。

――――――

都内某所、某稲荷神社近くの茶葉屋、奥の個室。すなわち上客専用のカフェスペース。
『実は昔と今とで自分の姓名が違う』。
フィクションならではの衝撃事実を、1年前の今頃そのスペースの個室で白状した者と聞いた者がおり、
1周年ということで、白状者と傾聴者が待ち合わせ、同じ個室でランチを楽しんでいた。

「『附子山 礼(ぶしやま れい)。
私の旧姓旧名は、附子山礼だ』」
柚子とレモン香るかき氷を突っつきながら、傾聴者たる女性が1年前の白状者を真似した。
「……私もこーいう名乗り方してみたい」

いいな、い〜なぁ。 ツンツンさくさくさく。
スプーンで氷を崩しては、ひとさじすくって食べる。ちょっとカッコ良かったのが羨ましかったのだ。
白状者と傾聴者は、同じ職場で長い付き合いの先輩と後輩の関係。去年「私の名前」を白状した先輩は、旧姓を附子山、現在の姓を藤森といった。

「やりたいなら、やれば良いだろう」
私だって、私をディスった筈の加元さんに執着されて追いかけ回される、あの酷い恋愛トラブルさえ無ければ、今の名字に改姓などしなかったんだ。
白状する先輩は小さくため息を吐き、そうめんなどを柚子生姜の薬味と合わせてちゅるちゅる。
「改姓の申請方法と必要書類、教えてやろうか」
なお「酷い恋愛トラブル」については過去作、前回投稿分にチラリズムしており、より詳細なハナシは5月24・25日に遡るが、スワイプがただ面倒。
細かいことは気にしてはいけない。

「名字は変えたくないの。コレのせいでイジられたこともあるけど、自己紹介でバチクソ役立ってるし、ぶっちゃけ個人的に気に入ってるの」
さくさくさく、しゃくしゃく。
傾聴者であった後輩は、なおも氷を崩し続ける。
はた、と個室の出入り口を見た。
どうやら追加注文していた料理が届いたらしい。

「お前の鉄板だったな。ウチの職場に入ってきたときも、自分の名前をネタにした」
「『何年経ってもずーっと後輩。
私の名前は高葉井 日向、コウハイ ヒナタです!』
……だって覚えてもらいやすいもん。便利」

「なら『私の旧姓旧名は』の自己紹介は無理だな」
「『実は』の秘密がある名前ってエモ」
「お前だってギミックはあるだろう。『高葉井』と『後輩』のダブルミーニング」
「まぁ、それね。……それね」

で、「コウハイ」、お前さっきからかき氷ばかり食っているが、そうめんそろそろ本当に伸びるぞ。
先輩の藤森はそう言って、淡々と、猛暑払う美味を堪能してから冷茶で喉を潤す。
後輩であるところの高葉井はピタリ手を止めて、そうめんを箸でつまみ、ちゅるり。
「ところで附子山先輩、例の恋愛トラブル、解決してホントに良かったね」
ぽつり呟いて幸福にそうめんを食べる後輩の声に、
「えっ?」
先輩たる藤森は顔を上げ、数度まばたきして、
「あぁ……ありが、とう?」
後輩から珍しく、下手をすれば始めて「私の旧姓(なまえ)」で呼ばれたなと、
少しだけ、唇を穏やかに、幸福につり上げた。

7/20/2024, 3:27:52 AM

「ハナシ書くとき、カメラワークは気にしてる、気では、一応いるわな。一人称の語り手の視線が、どこに向いてるかとか、どう移動するかとか」
三人称書く際も、視線の先が飛び過ぎないように、ある程度上から下とか、左から右とかな。
某所在住物書きは過去投稿分を辿り、7月3日のお題を見た。当時は「この道の『先』」であった。

「あと視線っつったら、読んでて視線が滑らないように、句読点と改行はそれぞれ利用してるわな」
まぁ、意図したとおりに役立ってるかは別だが。
物書きはふと振り返り、視線の先には、まさしく面白みに欠けた本棚が複数冊鎮座している。

――――――

去年の今頃のハナシ。今はもう解決済みの騒動話。
「諸事情」で改姓改名して、以前の名前をずっと秘密にしてた先輩は、仕事上長い長い付き合い。
去年の今頃、私は先輩から「諸事情」を聞いた。
恋愛トラブルだ。酷い粘着質の理想押しつけ厨な初恋さんによる、追っかけ被害だった。

今私は支店勤務だけど、当時は私も先輩も本店の、同じ部署で働いてた。
リモートワークの気分転換。美味しいランチでも食べに行こうって、職場の先輩誘って外に出て十数分。
人の往来激しい道のド真ん中で、突然先輩が立ち止まって、恐怖か何かで短く、鋭く息吸って、
すごく小さな、震える声で呟いた。
「カモトさん……」

「『カモトさん』?」
先輩の、視線の先にはたくさん人が居たけど、べつに仲悪い誰かが歩いてたワケじゃない。
いつも通り。何も変わらない。普通の日常だ。
「加元さん」。
当時の私は、そのひとを知らなかった。

「先輩、どしたの、」
私が「カモトさん」を探そうとあちこち見る前に、
先輩は私の手を引いて、暑い中歩いて来た道を、全力で走って引き返した。
「ねぇ、先輩、先輩ったら、」
こんな、余裕の全然無い先輩は初めてだった。
いつも真面目で誠実で、実はちょっと寂しがり屋で、猛暑日酷暑日は大抵デロンデロンに溶けてるけど、
それでも、取り乱す先輩は一度も見たことなかった。

今考えれば「そりゃそうなるよな」と思う。
というのもこの「加元さん」、所有欲強火な理想押しつけ厨で、裏表持ち。とんでもないひとだった。
約10年前に先輩と付き合って、先輩に「あなたの◯◯が好き」「あなたの△△がすごい」って面と向かって言っておきながら、
SNSの鍵無し公開垢で、「こいつの◯◯がおかしい」「こいつの△△が地雷だし解釈違い」って真逆をポスって数ヶ月ディスり続け、
結果として、たまたまその公開垢を見つけてしまった先輩の心をズッタズタに壊した。

だから先輩は加元さんから逃げた。
粘着質を知ってたから、連絡方法全部絶って。
自分の名前が珍しいから合法的に改姓までして。
その改姓前がブシヤマ。「附子山」だった。
所有欲強火な加元さんは、勝手に消えた「所有物」を数年間、ずっとずっと探し続けてたワケだ。

「ブシヤマさん!ブシヤマさんでしょ?!」
後ろから聞こえてきたのは、低い女声なのか、高い男声なのかすごく分かりづらい、中性的な大声。
その声が、加元さんだった。
「待って、話を聞いてブシヤマさん!レイさん!」
ブシヤマさんって、誰?先輩は藤森でしょ?
「藤森 礼(ふじもり あき)」。後ろのひとが叫んでるのは「ブシヤマ レイ」。別人だ。
当時の私はここのカラクリが分からなくて、ずっと混乱しっぱなしだった。
「レイさん!!」
通行人の、好奇の視線とスマホのカメラは、例の大声出してるひとに向いてる。その隙に、先輩はするり小さな路地を抜けて、私の手を引いて走った。

「待って、待ってって先輩」
時折後ろを振り返って、「カモトさん」が追ってきてないか確認する先輩は、すごく怯えてる。
「人違いだよ、先輩ブシヤマじゃないもん、大丈夫だよ。ホントにどうしたの」
落ち着いてほしくて言った言葉も、多分全然届いてない。ただ小道に入って、曲がって、走って。
「先輩、ねぇ先輩っ!」
やっと立ち止まった頃には、私の息はメッチャ上がってて、汗もヤバいことになってた。

「……ブシヤマ、だったんだ」
私と同じくらい疲れちゃって、肩で息してる先輩が、蒼白な顔で言った。
「あのひとは、以前話していた、私の初恋のひと。私を地雷だ解釈不一致だと、嫌って呟きアプリで愚痴っていた筈のひと。私は……」
私は。 その先を言おうと口を開いて、閉じて、目を閉じてうつむく先輩は、苦しそうで、痛々しい。
どこか落ち着いて話ができる場所を、探して周囲を見渡して、少し遠くに目を向けたら、
視線の先には、先輩行きつけの茶葉屋さんがあった。

これが去年の今頃のハナシ。去年の大騒動。
なお最終的に先輩は去年11月ちゃんと加元さんをフり直して、それでも加元さんは粘着してきて、
今年5月25日、先輩の友人さんが加元にデカいトドメを刺して、このトラブルは完全に解決した。

7/19/2024, 4:23:41 AM

「1年半このアプリで投稿し続けてさ、ガチでいっぺん呟きのアンケートみたいに、皆どんなネタを好んで求めてるか聞いてみてぇとは思ったりしてるわ」
俺だけ、なのか、俺だけじゃない、なのかは、それこそ集計取れねぇから分からんけど。
某所在住物書きはカキリ小首を鳴らし、呟く。
なんとなく、ニーズを知りたいのだ。

「あとアレよ。『完全に書けねぇお題が来たとき、お題ガン無視でハナシ書いちまっても良いかな』とか。絶対俺だけじゃないよな。……だよな?」
ところで俺はエモ系ネタ不得意だけど、他の皆様は、どういうお題が苦手なんだろ。物書きはふと疑問に思ったが、知る方法も無く、結局深追いをやめた。

――――――

猛暑と熱帯夜ばかり続く都内某所の某支店、客がほぼ常連ばかりの過疎店であるところのそこ、昼。
菓子作りが趣味の付烏月、ツウキという男が、給湯室で休憩用のスイーツを準備している。
支店の従業員と支店長と、それから上客なマダム1名分。アイスクリームとソルベである。

ティーカップのソーサーを器代わりに、低糖質バニラアイスをひと盛り、ふた盛り。上にルビーレッドのクリアなシロップをかけ、ミントをひとつ。
アイスの周囲を一回転、エメラルドグリーンのシロップで色付け。口直しとしてバニラの隣にはレモンソルベが小さく添えられた。

ルビーとエメラルドは付烏月の友人からの提供物。
某マゼンタ色に白いロゴ文字のプチプライスショップで見つけたスイカアイスの素とメロンアイスの素を、それぞれ軽く煮詰めた。
店員の口車に乗せられて双方3本ずつ購入してしまったものの、使い道が思い浮かばず、菓子作りを趣味とする付烏月に1缶ずつ提供した次第。
詳しくは前回投稿分参照だが気にしてはいけない。

「お待たせしました。マダム」
アイスをトレーにのせ、給湯室を出た付烏月。
まず常連の女性が座るテーブルへ。
スマホのスピーカーからは、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第14番、第1楽章が穏やかに。
「スイカを主題にしたバニラアイスと、口直しのレモンソルベです」

「頂くわ」
はやる気持ちを澄ました視線と声で隠す上客。
この状況の言い出しっぺである。
『せっかくアイス頂くなら、私、ちょっと体験してみたいアクティビティがあるんだけれど』
そのアクティビティとはつまり、いわゆる執事カフェであった。それっぽい雰囲気をやってみてほしいと。
仲の悪い彼女の友人が、先日彼女だけをこっそり除いて、その手のカフェの数軒に行ってきて、長々堂々、強火マウントよろしく自慢されたそうなのだ。
『私だけ放ったらかされたの』
その日この店で20万の契約を結ぶ予定のマダムは、口をとがらせ、軽くスネて見せた。

付烏月は「え?」であったが、
彼の3月からの同僚と今年度からの新卒者の目が、
それはそれは、もう、それは。
金剛石のように、キラリ、輝いたのであった。
『やってみてよ付烏月さん。減るもんじゃなし』

「お茶を用意してちょうだい。冷たいものを」
「大麦のアイスティーと、冷水で抽出したゆず入りのグリーンがございます。マダム」
「グリーンが良いわ。出してちょうだい」
「はいマダム。ただいま」

大麦のアイスティーって。大麦ティーって。
それただの麦茶だよ付烏月さん。
遠くからエモめの光景をパシャパシャ撮影している例の同僚は爆笑をこらえて吹き出し寸前。
良さげに綺麗に撮ってほしいと頼まれたのだ。
絵面が良いのだ。なによりマダムが美しく付烏月がそこそこサマになっているのだ。
弦楽器のクラシックが流れ、老淑女と若執事が語らう尊き構図で、つまり、付烏月は「麦茶ありますよ」と言ったのだ――それが同僚にツボったのである。
だが良い。すべてエモい。すべて尊い。
なお絵面と構図だけ。会話内容がギャグ。

「バニラが美味しいわ。どこのものかしら」
「コンビニエンスのブルーから取り寄せました」
「この懐かしい味のシロップは」
「マゼンタのプティ・プリィ・マガザンから」
「レモンソルベは何を使ったの?」
「はい、マダム。ポッカーを少々」

「トレビァンよ。下がってよろしい。ありがとう」
「光栄です。マダム」

ごめんなさいね、ごっこ遊びに付き合わせて。
至極幸福そうな老淑女は、最終的ににっこり笑って、少し詫びて一瞬目をつぶる。
マダムの次は支店側の従業員と支店長への給仕。
付烏月が振り返れば例の同僚が、「青いコンビニ」と「マゼンタのプチ・プライス・ショップ」と「レモン果汁少々」の言い方に敗北している。
抱えた腹は相当に痛そうに見えた。

最終的に気を良くした上客は、当初20万の予定であった契約を30万に増額してサインし、
付烏月は付烏月で、自分だけ、ピンポイントに自分の分だけ、昼休憩用のアイスを作り忘れましたとさ。

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