「お題の連想ゲームは、結構心がけてるわ」
人生ぶっちゃけ後悔の連続だと思うがどうだろう。某所在住物書きは去年の今頃購入した某グミ付属のソードピック数本を眺めて、呟いた。
金のピックは無かった。しかし青は残り1本でコンプリートだったのだ。
何故その残り1本を当時追わなかったのか。
「『後悔』、だろう。後悔『する』のか『しない』のか、そもそも『何に対する』後悔か。
『後悔』が花言葉の花は複数あるが、その中のカンパニュラ、後悔の他に『抱負』や『誠実』なんて花言葉もあるぞ?――って具合に」
買って後悔せよ。買わず後悔するより良い。
「……ガチャは得てして『後悔』多しよな」
結局コレなのだ。物書きは大きなため息を吐き、再度青いソードピックを眺める。
――――――
ガチャと人生と恋愛は、神引きと爆死と後悔の連続。のめり込み過ぎると痛い目を見る気がする物書きです。今回はこんなおはなしをご用意しました。
だいたい8〜9年前。まだ年号が平成だった頃。
都内某所で、とある雪国出身者が、初恋のひとの前から突然姿を消しました。
雪国出身者は名前を附子山といいました。
同じ職場で前日まで、普通に一緒に働いていたのに、まるでコインをひっくり返したように、あるいは長々書いていた文章を全選択して一括削除したように。
附子山は、電話番号もグループチャットのアカウントも、住み慣れたアパートの一室さえ、
すべて、ごっそり、さっぱり。消して絶って引き払ってしまっておりました。
これに一時パニクって、ガッツリ後悔しまくったのが「初恋」側。思い当たる節が多過ぎたのです。
失踪当日から1週間程度、急きょ有休を申請して、行方を探し続けました。
初恋側は名前を加元といいました。
(別垢で、愚痴ってたのがバレた?)
加元にとって附子山は人生二度目の恋人。顔に惚れ、性格に解釈違いを起こし、趣味が地雷でした。
(皆愚痴るでしょ?あれでも我慢した方だよ?)
「地雷」、「解釈不一致」、「話合わない」、「頭おかしい」、等々。
吐き出せる場所が呟きアプリの鍵無し別垢しか無くて、毒を数度、ポロリしました。
前の恋人と比較して愚痴って、それでも附子山を捨てられなかったのは、「恋」のステータスを手放したくなかったから。
恋に恋するタイプの加元にとって、恋人は己を飾るジュエリー、あるいは自分を映すミラーでした。
(まだ間に合う?まだ元に戻せる?)
ごめんなさい。言葉が人をこんなに傷つけることを、ちゃんと理解してなかっただけなの。
せめて目の前から消える前にこっちの言い分を聞いて、話をさせて。勝手に逃げて一人勝ちしないで。
弁明と抗議を伝えたくて、区内は勿論、近隣も日夜探し続けましたが、手がかりひとつ見つからず。
珍しい名字のひとだから簡単に足がつくだろうと、依頼料の金額に目をつぶって頼った探偵も、「都内にこの名字は居ませんね」と空振りでした。
そりゃそうです。
附子山、加元が自分を追ってくることを見越して、既に合法的に手を打っておったのです。
詳細は過去作5月4日&3日投稿分あたりで紹介してますが、スワイプがバチクソに面倒なので、気にしない、気にしない。
「会いたい」
それから何度か誰かと恋をして、誰かを振って誰かに振られて、また別の誰かと恋をして。
結局「あの二度目の恋人」が、トークも性格も解釈不一致で地雷だったけど、一番優しくて誠実なひとだったと、気付いて再度行方を追って。
「どこにいるの、附子山さん……」
ちなみに執着と所有欲の強い加元、今年になってようやく附子山の勤務先を突き止めまして、そこへの就職にも成功したのですが、
先月から始まった1ヶ月新人研修のせいで未だに本人と会えてないようで、
相変わらず、8〜9年前に附子山を「解釈違い」としてディスったことを、後悔し続けているとか、むしろ姿を隠し続ける附子山に毒を吐き続けているとか。
どっちでしょう。ほっときましょう。
「風に身を、『任せる』なら多分人間、『蒔かせる』なら植物の種子、『巻かせる』なら葉っぱか紙切れ、『撒かせる』なら水か……尾行を撒くとか?」
まぁ、漢字の変換先によっちゃ、色々書けそうではあるわな。某所在住物書きは外を見ながら呟く。
相変わらず書きやすいネタが思い浮かばないのだ。そろそろネタの新規開拓を兼ねて、何かどこか、フラリ外出も良いかもしれない――たとえば居酒屋とか。
「お題の前に名詞つけて、『イタリア風に身をまかせ』とか、『チョコ風に身をまかせ』とか、
……いや、書けねぇ。なんだチョコ風って」
駄目だ。本当に最近、加齢で頭が働かなくなった。
物書きはガリガリ頭をかく。
「無難に『任せる』で書くのがイチバンかなぁ」
――――――
昔々のおはなしです。まだ年号が平成だった頃、だいたい2010年頃のおはなしです。
真面目で優しい田舎者が、雪降る静かな故郷から、春風に身をまかせるような清純さで、ふわり、ふらり、東京にやって来ました。
今は諸事情あって、名前を藤森といいますが、当時は附子山といいました。
人間嫌いか厭世家の捻くれ者になりそうな名字ですが、気にしません、気にしません。
「すいません。ご丁寧に、道案内までして頂いて」
これからの住まいとなるアパートへの、行き方がサッパリ分からぬ附子山。
たまたま近くに居た都民に助けを求めたところ、「なんなら一緒に行ってやる」との返答。
後に、附子山の親友となるこの都民、宇曽野は、ウソつきそうな名字ですが、とても良心的な男でした。
「地下鉄の乗り方は」
興味半分、退屈しのぎ四半分に、親切残り四半分で、ナビを引き受けた宇曽野。
ふわり、ふらり、春風に身をまかれる花のようにアッチコッチ視線を向ける附子山に尋ねます。
「大丈夫か、それとも、説明した方が?」
宇曽野は婿入りの新婚さん。この日も愛する嫁のため、外回りの用事やら手続きやら、なんなら重い物の買い出しなど、しに行く最中でありました。
「ちかてつ……」
途端、附子山の表情が、不安なバンビに曇ります。
「地下鉄は、迷路だの、迷宮だのと聞きました。私でも、乗れるものでしょうか」
ぷるぷる。あわあわ。バンビな附子山がはぐれて、迷わぬよう、宇曽野が手を引き、地下鉄の駅へ。
初めて無記名電子マネーカードを購入し、初めてカードにチャージして、初めてキャッシュレスで改札を通る附子山は、宇曽野には完全に興味の対象で、なにより嫁への土産話のネタでした。
「これが、都会の改札か……!」
購入したばかりの無記名カードを掲げ、キラリ好奇の瞳で、それを見上げ眺める附子山。
「便利だなぁ。私の故郷の鉄道に導入されるのは、何年後だろう」
このまま放っておいては、附子山、フワフワ好奇の風にのって迷子になりかねませんので、
飛んでってしまわないように……もとい、正しい道を辿れるように、宇曽野はしっかり、目を離さず、時折声をかけてやったりしていたのですが、
「あの、あれは、何ですか?」
「ただの商業ビルだ」
「あれは?あれは、何をしているのですか?」
「慈善活動。炊き出しと募金だ」
「あのたくさんの露店は?」
「別に祭りでも何でもない」
「あのにぎわいで、まつりじゃない……?」
「おい。行くな。多分お前は迷子になる」
ふわり、ふらり。ふわり、ふらり。
地下鉄から地上に出た途端、やっぱり春風に身をまかせる花か若葉のように、キラリ澄んだ瞳の附子山、あれそれ、コレドレなのでした。
「茶香炉の良い香りがします。あそこの店だ」
「『チャコーロ』?」
「お茶の露店なんて、私の故郷では見たことがない。本店はどこだろう?どの産地と品種かな」
「こら待て。待……ステイ!」
ふわりふらりな附子山を、なんとか目的地まで連れていった宇曽野。
礼儀正しく深々と、丁寧にお礼のお辞儀をする附子山は、至極幸福そう。
宇曽野はほんの少し疲れ気味ながら、愛する嫁への土産話ができたので、悪い気はしてない様子。
今から約10年前の当時、附子山も宇曽野も双方、互いが互いに別の場所で再度巡り合い、親友の絆を結ぶことなど、知るよしも、なかったのでした。
春風に身をまかせる花の人と、花を導く保護者のおはなしでした。 おしまい、おしまい。
「失われた30年、失われた時を求めて、失われた……聖櫃は『時間』じゃねぇわな」
去年までの数年は、完全に感染症のせいで「失われた時間」だったか。某所在住物書きは「失われた」を検索語句に、ネタを求めてスマホをスワイプ。
たとえば「失われた○月○日」とすれば、少しはエモい物語が書けるだろう――執筆スキルが伴えば。
「失われたバレンタインとかは?」
ふと、物書きがひとつ閃いた。
「……ただのぼっちの俺だわ」
投稿には結びつかなかったらしい。
――――――
最近最近の都内某所、某アパートの一室、早朝。
部屋の主を藤森というが、その日は室内に藤森の友人も1名居て、クマのエプロンに三角巾など付けて生クリームをガシャガシャ!手動でホイッパー片手に全力で泡立てている。
パティシエモドキは名前を付烏月、ツウキという。
「ナンデ?!」
「『なんで』とは、付烏月さん?」
「だってお前、オーブンとかせっかく俺の部屋より良いの揃ってるのに、泡だて器もブレンダーもミキサーも、ことごとく手動じゃん!」
「手作業にすれば運動不足が少し解消できる」
「その手作業中に失われた時間と気力で、他の作業がいっぱいできるっつってんの!手伝って!」
諸事情により、3月から勤務している支店で小さな講義をすることになった付烏月。
議題は「脳の発達過程から見るお客様〜誰が怖そうで危なそうか少し予想をつけるハウトゥ〜」。
前日の朝、付烏月の支店に悪質でモラル無き客がやって来て、新卒者をいじめたのが発端。
付烏月お手製の絶品キューブケーキ4種類3個ずつ計12個を囲み、茶を飲みながら、
支店長の体験と経験と、いくつかの反論や追加情報も交えて、開催される運びとなった。
「丁度良いじゃないか、付烏月さん。脳科学はあなたの得意分野だし、『こういうカンジの人はこう』の目印があれば、その新卒も事前に身構えられる」
「そりゃそうだけど、そうだけどね?」
「何か問題が?」
「大アリだよ!かくかくシカジカ、四角いキューブケーキ!ルイボスティーと紅茶付き!」
「すまない。よく分からない」
付烏月の属する支店は、都内にありながら、1日に約10人も来れば「今日は忙しかったね」の判定となる静かな店。来客数が片手で足りることも多い。
今回のプチ講義は、そんな支店の状況ゆえに実現した新卒者へのメンタルケアと言えた。
講義発案者からキューブケーキの発注を受けた付烏月は、すぐさま藤森に連絡。
自分のアパートより高性能の調理器具が揃い、支店に相対的に少し近い藤森の部屋を緊急訪問。
『これで朝余裕をもって、良い機械と良い材料を使い、良い味のケーキを作ることができる』。
菓子作りを趣味とする付烏月は馴染みの果物屋等々で入念に材料を選び――そこまでは良かった。
「イチバン労力使うクリームの泡立てが手動とか!俺聞いてません!ホント手伝って附子山!」
「今は藤森だ。付烏月さん」
「つべこべ言わないで!一緒に泡立てて!俺と一緒に睡眠で失われた『余裕で間に合う筈だった時間』を取り戻して!ガチで間に合わないから!」
「宇曽野が『俺の嫁と娘にも1個ずつ寄越せ』の交換条件で、既にこの部屋に向かっている」
「あざぁす!!」
ガシャガシャガシャ、カチャカチャカチャ。
早朝の藤森の室内に、ボウルとホイッパー、金属と金属の接触音が断続的に、かつ怒涛の速度で響く。
「附子山、状況!」
「藤森だ。付烏月さん」
「じょーぅきょー!!」
「スポンジが良い具合に冷めた。ジャムは、私には煮詰まっているように見えるが、よく分からない」
「コンコンコンで切って味見して砂糖!」
「……ケーキスポンジを5cmの立方体で切ってジャム味見して私の甘さの感覚次第で砂糖追加了解」
あぁ、ああ、嗚呼。
ホイッパーもブレンダーも、ミキサーも手動だと知っていれば、自分の部屋から事前に持ってきたのに、あるいはもっと早めに起きていたのに。
己自身の睡眠によって失われた時間を悔やみながら、付烏月は渾身の残力で腕を動かす。
付烏月が受けたケーキの発注は、結果として出勤ギリギリの時間に完成し、文字通り「できたて」の状態で保冷バッグに入れられ支店で供された。
ケーキは好評。講演の第二弾も打診されたものの、
翌日、酷い筋肉痛でダウンだったとさ。
「子供のお題は、去年の10月と6月にも書いた」
某所在住物書きは呟き、頭を掻く。お題について考えたいのに頭が働かないのだ――寝不足のせいで。
「『子供のように』と『子供の頃は』だったな」
双方ネタが思い浮かばなくて、当時は大人がギャグマンガばりにポコポコ大喧嘩してるハナシであった。
ならば今年は?
「子供、こども……」
ふわあ、ふわわ。
物書きは何度もあくびで口を開き、息を吐く。
「子供のままで」。子供のまま「で良い」のか、子供のまま「ではいけない」のか。はたまた「自分は/彼は/彼女は」子供のまま「です」なのか。
考えれば色々、幅の広がりそうなお題だが……?
――――――
来客数が少なくて、客層もほとんど常連さんばっかりで、バチクソにチルい私の勤務先に、
バチクソ久しぶりにモンカスが現れて、
今週から正式にウチの支店の勤務になった新卒ちゃんが朝っぱらから標的にされて、
それを見た元モンカスの現モンカスホイホイな常連さん、ゲンさん(70代男性)が、
支店長と結託してものの10分でモンカスを撃退して警察に引き渡しちゃった。
『嬢ちゃん災難だったね』
頭が子供のままでっかくなっちゃったモンカスが、雨降りしきる中連行されてくのを見送って、
ゲンさんは新卒ちゃんにアメを3個、ポイポイ差し入れてくれた。
『気にしちゃいけないよ。2〜3突っ込んだ三連単を外したくらいに考えときゃ良いさ。今日は美味いモン食って美味い酒飲んで、すぐ忘れな』
難癖つけられて、暴言吐かれて、心ポッキリ折れかけてた新卒ちゃんは、
支店長が庇ってくれたおかげで暴力的被害は無く、
ゲンさんが割って入ってくれたおかげで既に精神的にも落ち着くことができてて、
なんなら、モンカスを制裁して自分を助けてくれた二人に、尊敬すら感じてるようだった。
まぁ分かる(自分の新人時代の本店)
わかる(先輩と隣部署の主任による連携プレー)
で、時は進んでお昼休憩。
「ああいう人って、頭の中どうなってんだろ」
付烏月さん、ツウキさんが作ってきてくれてた自家製ホイップマカロンを囲んで、私と新卒ちゃんと、それから付烏月さんとでお茶会。
「付烏月さん脳科学詳しいよね。何か知らない?」
「俺附子山だよ、後輩ちゃん」
ぽいぽいぽい。小さなマカロンを遠慮無く口に放り込んで、付烏月さんが言った。
「ああいうタイプのモンカスの頭の中〜?説明メンドいから、知らないことにしとくよん」
「つまり知ってるんだ。いろいろ子供のままでっかくなっちゃった大人の頭の中」
「『子供のまま』、こどものまま……うーん。やっぱり知らないことにしとくよん」
「3種類のキューブケーキ計6個とプラスアルファの大口発注いかがですか付烏月さん」
「ごめん俺パティシエじゃないよ後輩ちゃん。
でも食べたいならウケタマワるよ。期日と大きさと、味の希望と届け先、一応伺うよ」
「違う。そーじゃない」
モンカスさんの頭の中は、私も気になります。
ちょっと元気になってきた新卒ちゃん、勉強の気配にポケットからメモ帳とペンを取り出して、なんか真面目な視線でもって付烏月さんを見てる。
「で?」
私も付烏月さんに視線を投げたら、
「……参っちゃうなぁ」
説明する側としては相当面倒らしく、キュッと唇を結んで、付烏月さんが首筋をカリカリ掻いた。
「うーんとね。ああいうひとの頭は、子供のままっぽいけど子供のままではなくて、……んんー……。
うん、やっぱダメだ!知らないことにしとく!」
「大口発注の量少なかったの付烏月さん?」
「だから、俺パティシエじゃないって後輩ちゃん」
「ウラガネ?わいろ?」
「説明がバチクソ難しいしデリケートなんだって。そんなに知りたいなら、俺じゃなくて藤森に、教えるのが上手い後輩ちゃんの先輩に聞いてよ」
「アクセスキーかパスコード?合言葉?」
「だーかーらぁー……」
「このアプリ、恋ネタ愛ネタは比較的多いんだわ」
先々月の「愛と平和」、去年12月の「愛を注いで」に11月の愛情、それから10月の「愛言葉」。
これに類義語の「恋」も含めれば、直近でも、もう少し増えるだろう。
某所在住物書きは過去投稿したお題を辿りながら、大きなアクビをひとつ、ふたつ。
各地で観測されたオーロラが居住地でも見えやしないかと、妙な時間に散歩に出たのだ――40分歩いて早々に挫折したが。
「オーロラ見ながら愛を、『叫ぶ』のは……」
ちょっと違うかな。物書きは首を傾ける。
いけない。頭が働かない。 寝不足 猛暑 ネタ枯渇も 太陽フレアのせいだろう。
――――――
二次創作、クソデカボイスで推しカプ推しシチュへの愛を叫ぶと、同程度のクソデカボイスで解釈違いだの地雷だののアレルギー報告が返ってくる説。
それはその辺に置いといて、昔々のおはなしです。完全に非現実的なおはなしです。
◯◯年前の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、一家で仲良く暮らしておりまして、
そのうち末っ子の若狐が、前回投稿分に登場した子狐のお父さん。お嫁さんを探す時期になりました。
祭神のウカノミタマのオオカミ様が、「北に良き相手あり」とお告げをくださったので、
後のコンコン父狐、お告げに従い北上の旅です。
当時のコンコン若狐、お嫁さん探して北上の旅です。
「東京の狐のお嫁さん?私が?」
まずは近場を尋ねましょう。
緑茶の若芽がエメラルドに輝く埼玉県、狭山の静かな茶畑で、コンコン若狐、美しい瞳の狐に会いました。
このひとこそ、私のお嫁さんに違いない!若狐は力いっぱい大きな声で、愛を叫びました。
美しいあなた、私のお嫁さんになってください!
すると美しい瞳の狐、困った顔して言いました。
「私、優しい方より、広い茶畑を駆け回って悪いネズミを全部退治するような、持久力ある方が好きなの」
都内の病院で漢方内科の研修医をしている若狐、広い広い茶畑を見渡して、しょんぼり。
無理です。若狐、そこまで体力無いのです。
失意の中、コンコン若狐、また北上の旅なのです。
「私を、あなたの嫁にしたい?」
東京の真北といえばここでしょう。
風に稲穂そよぐ新潟県、庄内の一面金箔金糸な田んぼで、コンコン若狐、美しい声の狐に会いました。
このひとこそ、私のお嫁さんに違いない!若狐は頑張って綺麗そうな声で、愛を叫びました。
美しいあなた、私のお嫁さんになってください!
すると美しい声の狐、困った顔して言いました。
「私、静かな方より、ドッサリ積もる雪を軽々片付けられるような、寒さにも雪にも強い方が好きなの」
都内の神社、雪ほぼ積もらぬ地域に住む若狐、新潟の豪雪を思い浮かべて、しょんぼり。
無理です。若狐、それほど力持ちじゃありません。
意気消沈の中、コンコン若狐、更に北上の旅です。
山形のアメジストなブドウ畑を通り、秋田の真珠みたいな手延うどんを横目に白神山地に入り、サファイアの池で喉を潤して、とってって、とってって。
コンコン若狐、北上と失恋を重ねに重ねて、とうとう本州最北の県までやって来ました。
ここまで55連敗。そろそろ気持ちがキツいです。
「東京のあなたが、北国の私を、ですか」
雪降り積もる小さな霊場の山の中で、コンコン若狐、美しい毛並みの狐に会いました。
父親は、北海道と本州繋ぐトンネル伝って、長い旅してきた黒狐。母親は、小さな霊場を根城にする白狐。
親のどちらにも似てないけれど、その美しい毛並みは、雪氷まとってキラキラ光り輝いておりました。
このひとこそ、私のお嫁さんに違いない!若狐はこれを最後と、一生懸命愛を叫びました。
美しいあなた、私のお嫁さんになってください!
すると美しい毛並みの狐、困った顔せず言いました。
「東京からここまで来るあたり、随分辛抱強い方ですね。私は心の強さを好みます。 いいでしょう。あなたのお嫁さんになってあげましょう」
都内某所の稲荷神社在住な若狐、ここにきてようやくニッコリ。55連敗のその先で、ついに、美しいお嫁さんと巡り合ったのです!
幸福と感謝でビタンビタン。尻尾をバチクソ振って、若狐、お嫁さんと一緒に東京へ帰ってゆきました。
それから都内の若狐は某病院の漢方医として、北国の嫁狐は稲荷神社近くに茶葉屋を開いて、
酷い喧嘩も無く、双方浮気もせず、
いつまでも愛を叫んでささやき返して、穏やかに、幸せに、平和に暮らしましたとさ。