かたいなか

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9/7/2023, 3:41:59 AM

「『時告げ鳥』はニワトリ、時じゃないが『春告魚』はメバルにニシン、『春告草』は梅の異名。
このアプリ入れて一番最初に題材にしたキクザキイチゲはアズマイチゲの仲間、春を告げる花だわな」
時を告げるって、学校のチャイムとか普通に腕時計とか、あと他に何があるだろな。某所在住物書きは某時告げる山羊の登場する映画を観ながら言った。
外では秋を告げる花、シュウメイギクがちらほら、花を開き始めている。

「時計っつったら、日時計と水時計と、砂時計と、振り子時計あたりは知ってたが、燃焼時計なんてのもあったわ。種類豊富よな」
風時計も調べたけど、よくよく考えたら風なんざ、いつ吹くか分からんから、そもそも難しかったわ。
物書きは当然の理由に至り、納得する。
「……で、書きやすい『時告げ』はどれだ?」

――――――

最近最近の都内某所、某アパートに、人間嫌いと寂しがり屋を併発した捻くれ者が住んでおり、名前を藤森といった。
雪国出身の藤森はある日、諸事情と諸々のトラブルで、己の親友宅に一時避難中。
重大といえば重大、深刻といえば深刻な問題を抱え、未解決のまま、1週間が過ぎた。

詳細は前回投稿分、あるいは過去作8月30日と31日付近参照ということで、割愛する。
要するに、ありふれた恋愛沙汰であり、どこにでもある失恋逃走譚である。
昔々縁切った筈の自解釈押し付け厨な恋人に、今更粘着され、職場に押し掛けられ、己の住まうアパートの特定も時間の問題であった。
以下は、そんな藤森の避難先でのとある一日。

「お前のとこの後輩、『藤森先輩のヘルシーランチが恋しい』とさ」
比較的閑静な住宅街。
小さな庭先にある縁側に腰を下ろし、在宅ワークとしてワイヤレスキーボードに指を滑らせる藤森。
「『お金出すからお弁当作ってほしい』と。相変わらず藤森食堂は人気だな。加元には大不評だったのに」
その藤森の隣に座り、淹れたてのアイスコーヒーを差し出す者がある。
避難場所を提供している家主、宇曽野である。
加元とは上記自解釈押し付け厨の名だ。

「私のところにも直接メッセージが来た」
カップを受け取る藤森の耳には、小さく、静かな、しかしハッキリとした雨音が届く。
9月である。不安定な天気と、わずか涼を含んでいるような、気のせいのような風が、台風を伴って時を、秋の接近を告げる。
「……あいつ私が居なくなったらどうなるのだろう」
藤森はポツリ疑問を呈し、コーヒーで喉を湿らせた。

「逃げることにしたのか。加元から」
「仮定の話だ。たとえば私が明日、突然ここから逃げ出して、仕事も放り出して、田舎に帰ったら」
「お前はそんなことしない」
「仮定の話だと言っただろう」
「しないものはしない。少なくとも退職届は出すから、その時点で確実に俺にバレる」

「あのな」
「で、逃げたいのか。粘着してくる、ストーカー数歩手前の加元から。お前に付きまとう過去から」
「……」

再度、コーヒーをひとくち。藤森は宇曽野の問いに答えない。
ただ、曇って星見えぬ空と、さらさら泣く雨を遠くに見つめて、ポツリ、ポツリ。
「秋だな。宇曽野」
時告げる台風、その影響下にあるだろう天気の崩れを、晩夏初秋と評した。

「……そうだ、あきだ。……秋だ宇曽野!」
「どうした」
「忘れたか、そろそろ実家がキノコだの晩夏の野菜だの送ってくる、大量に、私のアパートに!」
「あっ。

もう届いてる、とかは、ないよな」
「……手遅れかもしれないが、『今年の秋は要らない』と、メッセージを送っておく……」
「ここの住所宛てに、俺の家宛てにしろ。少なくとも嫁と娘は喜ぶ」

「「はぁ……」」

9/5/2023, 3:21:29 PM

「貝殻、シェルパウダー、シェルフレーク、シェルビーズ。ハンドメイド以外だと、クラムシェルなんて言葉もあるんだな」
わぁ。なかなかに手強いお題が来た。某所在住物書きは「貝殻」から連想し得る複数個を検索し、それらの物語を仮組みし、途中で「無理」と挫折を繰り返している。エモネタが不得意なのだ。
「貝殻そのものを使うって言ったら、耳に当てて『海の音』とか、法螺貝とか、あとは螺鈿細工?」
牡蠣の貝殻は肥料としても優秀らしいが、それで物語組めるかっつったら、俺の固い頭じゃねぇ。
物書きはため息を吐き、ネタ探しを続けた。

――――――

最近最近の都内某所、某一軒家。
夫婦1組に一人娘、3人構成の家庭に、諸事情で夫側の親友が避難してきている。
早い話が元恋人によるストーカー数歩手前。
被害者にして避難者の名前を藤森、その元恋人が加元、避難場所提供一家は宇曽野という。
加元と完全に縁切って、8年逃げ続けてきた藤森。
最近加元に職場がバレてしまい、現住所の特定も時間の問題であった。

加元はかつて、藤森をディスりにディスり、その心をズッタズタのボロッボロに壊した。
そのくせして、逃げた藤森を追うのである。
『加元には、二度と藤森の心を壊させやしない』
宇曽野は即日決心し、真の友情を誓い合う親友に隠れ家を提供した、のだが。

「ただいま」
避難場所提供の礼として、掃除洗濯、消耗品の補充、それから料理に至るまで、手伝える家事は率先して手伝う藤森。
今夜はシーフード、特に貝類という女性陣の要望に従い、貝殻付きのホタテとマグロの柵(さく)、それから卵といくつかの野菜を買ってきた。
賞味期限間近、タイムセール、店舗間の価格差。
目の付け所が家計の番人のそれであった。

「随分遅かったな?」
2時間で帰宅すると言っていた藤森が、時計を見れば遅れに遅れ、家を出てから4時間半後の帰宅。
「何かあったのか?」
藤森の心の優しさと、加元の執着の強さの双方を知る宇曽野は、気が気でないとまでは言わないが、それでも心配はしていた様子。
加元とはち合わせたか、それでとうとう藤森の心が折れたか、なんなら宇曽野に黙って遠くへ逃げたか。
様々想定した宇曽野に藤森が言った言葉が悪かった。

「例の私の後輩が、加元さんの無理矢理雇った探偵に尾行されていたから、事情を話して成功報酬の2倍で手を打ってもらってきた」
詳しくは前回投稿分参照である。

「かもとの、たんてい?」
「私の居場所を知っていると踏んで、行動調査の依頼を出したらしい。加元さんと私の関係と、経緯を簡単に話して、『ストーカー数歩手前だ』と」
「加元の目の前に、お前、出てったのか」
「加元さん本人ではない。それに、私のせいで、後輩がプライバシーの実害を被ったんだ。見過ごせない」

「でてった、のか」
「それより宇曽野、お前も一緒にメシ作らないか。マグロの漬けサラダと、ホタテの貝焼きの予定でな」
「ふじもり、」
「貝殻の上にホタテだの溶き卵だの、味噌だの入れて、その貝殻ごと焼くんだ。うまいぞ」

「おまえ!わざわざ自分を危険に晒しやがって!」
「は?!」

ポコロポコロポコロ。
突然勃発する親友同士の大喧嘩はほぼ月例イベント。
5月13日に6月23日、7月15日に8月17日、それから今日。既に見慣れた光景である。
宇曽野家の女性陣も我関せず。ただ藤森の購入してきた食材を、それの入ったエコバッグを、淡々粛々とキッチンに退避させている。
「母さん、また父さんと藤森さんプロレスしてる」
「放っときなさい。10分20分すれば勝手に電池切れるから」

ポカポカポカ、ドッタンバッタン。
ひとしきり暴れてスッキリして、ケロッと瞬時に仲直りの藤森と宇曽野。
その後「喧嘩する前にまずお互いの意見を聞きましょう」と、仁王立ちする宇曽野の嫁の前に、ふたりして正座してしょんぼり頭を下げていたか、否かは、
敢えて、ここでは明記しないものとする。

9/5/2023, 4:08:27 AM

「防衛省運用の、防衛通信衛星ひとつの愛称。某JRの特急列車。楽曲の名前。酒の名前にも複数。
前々回の『心の灯火』で紹介した『四つの署名』、
『自分の中に秘め持つ小さな不滅の火花
(little immortal spark concealed about him』
の『spark』も『きらめき』って一応訳せるわな」
他には「命のきらめき」とか?某所在住物書きはスマホに映る、輝きの赤い輪を見つめた。

「探せば結構、色々出てくると思うんよ。だって使い勝手良いもん。頭を柔らかくすりゃあ、多分列車でも衛星でも、文学でもねぇ所からネタ出せるぜ」
問題は俺自身の頭が加齢でこのざまってハナシ。物書きはため息を吐き、ネタ探しに戻る。

――――――

相変わらずの、暑い東京のお昼。諸事情で、いつも一緒の先輩が当分いないから、ランチは外食にした。

先輩がいない理由はクソだ。
先輩が名字変えてまで縁切った失恋相手が、今更超絶粘着してきて、そこから物理的に避難するためだ。
先輩は藤森、失恋相手は加元っていう。
加元さんは先に先輩に惚れておきながら、その先輩をバチクソにディスって、心をズッタズタに壊した。
先輩は8年逃げ続けたけど、最近、加元さんに職場とグルチャのアカウントがバレた。

その加元さん、私のことまでロックオンしたらしい。
用心しておけって、先輩に避難場所提供してる宇曽野主任、先輩の親友に昨日言われた。
何を用心すれば良いんだろう。
考えながら道を歩いてたら、すぐ、それが分かった。

「わっ!?」
もうちょっとで目当てのお店、ってところで、
私はいきなり、狭い狭い小道に引き込まれた。

「静かに。安心しろ、私だ」
腕を強く、でも優しく掴まれて、肩から引き寄せられて、頭が真っ白になったと思ったら、
「早速加元さんから嫌がらせを受けているようだな」
すぐ耳に入ってきたのが、現在宇曽野主任の一軒家に絶賛避難中な筈の先輩の声だった。

え?ナニゴト?
って思ってたら、
私が今まで歩いてた道を、1人2人、すごく慌てた様子で走って、行ったり来たりして、
「見失った?」とか、「お前そっち探せ」とか。
まるで、スパイ映画か刑事ドラマのワンシーンだ。

「探偵だ。お前の行動調査だよ」
先輩が小道の奥に奥にって私を促しながら言った。
「職場の後輩のお前が、私の居場所を知っていると踏んで、加元さんが依頼を出したんだろうさ」
多分お前が昨日食ったメシも、寄ったコンビニもバレてるよ。私のせいで。
先輩は自虐的で、すごく申し訳無さそうで、
私の腕を掴みっ放しの手なんか「加元さん恐怖症」で少し震えちゃってるけど、
反対側の手に、小さな小さなきらめきを、ひとつ、強く、しっかり握ってた。

小瓶だ。私が贈った香水だ。
8月31日、先輩の心が少しでも癒えればと思って渡した、先輩の故郷の木が香るガラスのお守りだ。

「なんで、」
「先々月、7月の18日だか20日だか付近、私とお前が一緒に居たのを加元さんが見ていたんだ」
「そうじゃなくて。加元さんの狙いは私じゃなく先輩でしょ?その先輩が探偵さんの近くまで出てきちゃってどうするの」
「勝算があるからに決まっているだろう?」

私の腕を離して、小さなお守りを握りしめて、先輩は私が来た方の道に、つまり探偵さんが私を探してるだろう真っ只中に、歩いてった。
「ダメだよ、先輩、行っちゃダメ」
追いかけようと思った私に、先輩はポケットからカードケースを、その中のプラチナ色のきらめきをピッと取り出して、ゆっくりプラプラ振ってみせた。
あっ(察し)
はい、把握です(もしかして:買収)

「場合によっては、警察にもお手伝い頂く」
先輩が言った。
「悪かったな。あの日私と一緒だったばっかりに」
それから探偵さんが私に付きまとうようなことは、パッタリ無くなった。

9/4/2023, 3:05:49 AM

「8月4日あたりのお題が少し似てた。『つまらないことでも』だったかな」
それこそ、区切り線『――――――』の上の300字程度で、せめて些細なことでも誰かに執筆の種を提供できたらとは思ってるわな。
某所在住物書きは過去作を辿り、呟いた。
「あのときは、『「つまらないこと」でも、その人にとっては大事なんです』みたいなのを書いたわ」

今回も、「些細なこと」「でも」だから、何かひっくり返す必要があるんだろうな。
物書きは首を傾け、悩む。
「些細な言葉に、些細な気遣い、些細なすれ違いに些細な味のバラつき、他には……?」

――――――

9月の第2週、最初の月曜日が始まった。
私の職場の先輩が、当分、約2週間程度、リモートワークで職場から離れることになった。
理由は、私と、先輩の親友である宇曽野主任以外、誰も知らない。というか誰も気にしてない。
残暑残る東京で、なおかつ、コロナの静かに忍び寄る東京だ。理由なんて、勝手に予想しようと思えばゴロゴロ出てくる。
些細な理由、大きな理由、何か壮大な裏が潜む理由。ありとあらゆる想像を、しようと思えば、できる。
でもきっと、全部不正解だ。

種明かしをすると、先輩は今、親友の宇曽野主任の一軒家に絶賛避難中。
先輩の前に、8年前の恋人さんが今更現れて、その恋人さんがなんと、ほぼストーカー数歩手前。
加元っていう人で、先週この職場に突然来た。
「この人に取り次いでください」って。

この加元さんから8年間、名字と職場と居住区を変えてまで、逃げ続けてきた先輩。
そんな先輩の、今の住所までバレないようにって、3人暮らしの宇曽野一家が避難場所を提供した。
それが先週。そして今週。

「嫁と娘には大好評だ。何せ、あいつの得意料理は低糖質低塩分の、ほぼダイエットメニューだからな」
先輩今頃どうしてますか。
隣部署勤務の宇曽野主任に近況聞いてみたら、なんか避難生活満喫してそうな回答が返ってきた。
「レトルト使った雑炊だの、サバ缶でトマトリゾットだの、あいつの故郷の冷やし麺だの。
加元からは『低糖質メシ作るとか解釈違い』と不評だったのが、今は『美味しい』、『面白い』だ」

遠くでは、それこそ今話題に出してる元恋人さん、加元さんが、先週に引き続き今日もご来店。
「この名前の人物がここに居るのは調べが付いてるんです」からの「お調べしましたけど居ません」で、受け付け担当さんの営業スマイルが引きつってる。
だって先輩改姓したから、加元さんの知ってる名字じゃないもん。残念でした。

「解釈違いなんなら、早く次の恋に行けば良いのに」
「どうせ次を食って、食って、何度か繰り返して、一番まともだったのが……、だったんだろう?」
「なら些細なことでいちいち『地雷』とか『解釈違い』とか言わなきゃ良かったのに」
「加元にそれができれば、あいつは今頃8年も逃げたりしちゃいないし、ここにも居ない」

「それ困る」
「ん?」
「ダイエットメニュー、私もお世話になってる。バチクソこまる」

結局、今日も収穫ナシでご退店の加元さん。スマホ取り出して、何かいじって、帰ってった。
「また来るかな」
「知らん。加元に聞け」
加元さんに対応してた受け付けさんは、相当疲れたらしくって、加元さんが見えなくなった途端大きなため息吐いて背伸びして。
丁度パッタリ、「さっきの人見てた?」ってカンジで私と目が合ったから、
私も、ねぎらいの心をこめて、「見てた。お疲れ様」ってカンジで、小さく頷いてみせた。

「そうそう。お前も用心しておけ」
「なんで私?」
「加元にお前の存在がバレてる。おととい『あの人誰』と、わざわざダイレクトメールを寄越してきた」

「まじ……?」

9/3/2023, 3:40:15 AM

「『四つの署名』に、たしか、『自分の中に秘め持つ小さな不滅の火花』みたいなセリフがあったわ」
多分「心」そのものに関してじゃねぇし、ぶっちゃけ「心の灯火」のお題にカスリもしてねぇけど。
某所在住物書きは自室の本棚を行ったり来たり。
なんとか今回配信分の題目を書き上げようと、ネタ収集に躍起になっている。
「『心の火が燃え上がる』とか『恋心の火が消える』とかは、多分表現としてメジャーだろうな。
……で、それをどう物語に落とし込むって?」
たとえば「自分の親友と後輩を守るため、ひねくれ者は住み慣れた東京を離れ、ひとり去る決断をしました」とか?「絶対、大切なひとに危害は加えさせないと、ひねくれ者の心の灯火は十数年ぶりに、ごうと燃え盛りました」とか?
物書きは物語を仮組みし、その書きづらさに敗北して、ため息をひとつ吐いた。

――――――

童話風の神秘7割増しなおはなしです。トンデモ設定てんこ盛りなおはなしです。
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が暮らしておりまして、
そのうち末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、稲荷神社のご利益豊かで不思議なお餅を作って売って、絶賛修行の真っ最中。
1週間に1〜2回の訪問販売。1個200円で高コスパ。ひとくち食べればストレスやら、疲れやらで溜まった汚毒にひっつき、落として、心の灯火の保守保全をしてくれます。
たったひとり、唯一の固定客、お得意様もできまして、3月3日のファーストコンタクトから早くも6ヶ月。長く長く、お付き合いが続いておりました。

「おとくいさん、心のおかげん、わるい」
「何故そう思う」
「キツネわかる。キツネ、うそつかない」
「だから、何故私の精神状態が悪いと思う」

さて。
今日もやって来ました。不思議なお餅の訪問販売。
しっかり人間の子供に化けて、葛のカゴと透かしホオズキの明かりを担ぎ、
アパートの一室から親友の一軒家に諸事情でお引っ越し避難中の、唯一のお得意様のところへ向かいます。
避難理由は割愛です。要するに先月28日投稿分あたりから、このお得意様は昔々の初恋相手に付きまとわれて、ちょっと騒動発生中なのです。

人界のあれやこれや、常識や仕組みなんかは、まだまだ勉強中のコンコン子狐。おヨメかおムコか知らないけど、お得意様は結婚して、「家庭に入る」をしたに違いないと、トンデモ解釈をしております。
ゆえに神前結婚式のパンフレットを見せては、お得意様をチガウ・ソウジャナイさせておったのでした。

「おとくいさん、前のアパートに居たときと、『家庭に入る』した後で、ニオイちがう」
「何度も言っているが、親友の家に一時的に身を寄せることを『家庭に入る』とは言わない」
「おとくいさん、疲れちゃったんだ。おとくいさん、イロイロあって、心にススとか汚れとか付いちゃって、灯火がちゃんと燃えてないんだ」
「『灯火』?」

「だからおとくいさん、おもち、どうぞ。
スス落とし、汚れ落とし。心の灯火のホシュホゼン。おもちどうぞ」
「あのな子狐?」

「心の灯火」のお題に従い、問答無用で不思議なお餅を食わせにかかる子狐と、
子狐によって、そこそこのデカさのお餅を1個、口の中に押し込められるお得意様。
噛んで飲み込もうにも口内にスペースが足らぬ。
お茶淹れて、唇に両手を重ねて当てて、モゴモゴ、もちゃもちゃ。
なんとかお得意様が不思議なお餅を食べ終わったのは、それから10分後のことでしたとさ。

心の灯火を癒やす子狐のお餅と、そのお餅に四苦八苦させられる人間のおはなしでした。
おしまい、おしまい。

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