かたいなか

Open App

「防衛省運用の、防衛通信衛星ひとつの愛称。某JRの特急列車。楽曲の名前。酒の名前にも複数。
前々回の『心の灯火』で紹介した『四つの署名』、
『自分の中に秘め持つ小さな不滅の火花
(little immortal spark concealed about him』
の『spark』も『きらめき』って一応訳せるわな」
他には「命のきらめき」とか?某所在住物書きはスマホに映る、輝きの赤い輪を見つめた。

「探せば結構、色々出てくると思うんよ。だって使い勝手良いもん。頭を柔らかくすりゃあ、多分列車でも衛星でも、文学でもねぇ所からネタ出せるぜ」
問題は俺自身の頭が加齢でこのざまってハナシ。物書きはため息を吐き、ネタ探しに戻る。

――――――

相変わらずの、暑い東京のお昼。諸事情で、いつも一緒の先輩が当分いないから、ランチは外食にした。

先輩がいない理由はクソだ。
先輩が名字変えてまで縁切った失恋相手が、今更超絶粘着してきて、そこから物理的に避難するためだ。
先輩は藤森、失恋相手は加元っていう。
加元さんは先に先輩に惚れておきながら、その先輩をバチクソにディスって、心をズッタズタに壊した。
先輩は8年逃げ続けたけど、最近、加元さんに職場とグルチャのアカウントがバレた。

その加元さん、私のことまでロックオンしたらしい。
用心しておけって、先輩に避難場所提供してる宇曽野主任、先輩の親友に昨日言われた。
何を用心すれば良いんだろう。
考えながら道を歩いてたら、すぐ、それが分かった。

「わっ!?」
もうちょっとで目当てのお店、ってところで、
私はいきなり、狭い狭い小道に引き込まれた。

「静かに。安心しろ、私だ」
腕を強く、でも優しく掴まれて、肩から引き寄せられて、頭が真っ白になったと思ったら、
「早速加元さんから嫌がらせを受けているようだな」
すぐ耳に入ってきたのが、現在宇曽野主任の一軒家に絶賛避難中な筈の先輩の声だった。

え?ナニゴト?
って思ってたら、
私が今まで歩いてた道を、1人2人、すごく慌てた様子で走って、行ったり来たりして、
「見失った?」とか、「お前そっち探せ」とか。
まるで、スパイ映画か刑事ドラマのワンシーンだ。

「探偵だ。お前の行動調査だよ」
先輩が小道の奥に奥にって私を促しながら言った。
「職場の後輩のお前が、私の居場所を知っていると踏んで、加元さんが依頼を出したんだろうさ」
多分お前が昨日食ったメシも、寄ったコンビニもバレてるよ。私のせいで。
先輩は自虐的で、すごく申し訳無さそうで、
私の腕を掴みっ放しの手なんか「加元さん恐怖症」で少し震えちゃってるけど、
反対側の手に、小さな小さなきらめきを、ひとつ、強く、しっかり握ってた。

小瓶だ。私が贈った香水だ。
8月31日、先輩の心が少しでも癒えればと思って渡した、先輩の故郷の木が香るガラスのお守りだ。

「なんで、」
「先々月、7月の18日だか20日だか付近、私とお前が一緒に居たのを加元さんが見ていたんだ」
「そうじゃなくて。加元さんの狙いは私じゃなく先輩でしょ?その先輩が探偵さんの近くまで出てきちゃってどうするの」
「勝算があるからに決まっているだろう?」

私の腕を離して、小さなお守りを握りしめて、先輩は私が来た方の道に、つまり探偵さんが私を探してるだろう真っ只中に、歩いてった。
「ダメだよ、先輩、行っちゃダメ」
追いかけようと思った私に、先輩はポケットからカードケースを、その中のプラチナ色のきらめきをピッと取り出して、ゆっくりプラプラ振ってみせた。
あっ(察し)
はい、把握です(もしかして:買収)

「場合によっては、警察にもお手伝い頂く」
先輩が言った。
「悪かったな。あの日私と一緒だったばっかりに」
それから探偵さんが私に付きまとうようなことは、パッタリ無くなった。

9/5/2023, 4:08:27 AM