かたいなか

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8/2/2023, 1:12:03 PM

「多分病院ネタ書こうとしたら、実際に医療に携わってたり、入院・手術等々したことがあったりっつー『リアル』を知ってる人には、多分勝てねぇのよ」
『見てきたように嘘を書き』、が理想の俺だけど、どうしても実際に「それ」に触れた・「それ」を経験したことのあるメリットはバチクソにデカいわな。某所在住物書きは19時着の題目を見て、どうしたものかと天井を見上げた。
「病院じゃない場所に病室を持ってくれば、『これは医療ネタではありません』って逃げ道が確保できる気がするんよ。問題はどうやって病室を病院から引っ剥がすかよな……」
何故病院ネタを回避したいかって?そりゃ医療についての無知がバレるからよ。物書きは弁明し、どうにかこうにか物語を組んで……

――――――

最近睡眠不足っていう先輩が、通勤途中で倒れた。
熱失神。Ⅰ度の熱中症。
比較的軽度な部類であり、症状もだいぶ落ち着いているため、現在稲荷神社敷地内の一軒家の、エアコンがちゃんと効いてる部屋で、安静にしてる。
っていうカンジのメッセが、先輩のスマホから私のスマホに、「倒れたひとの発見者です」って前文と一緒に送られてきた。

軽度、失神が軽度?
軽度って頭痛とか喉乾いてくるとか、そういうことを言うんじゃないの?
失神と軽度の2単語が、私にはショック過ぎた。

居ても立ってもいられなくなった私は、メッセ読んですぐに時間休とって、その稲荷神社に駆け込んだ。
そこは思い出の神社だった。
6月28日に、7月9日。ホタル見に行ったり、不思議なおみくじ引きに行ったり、そこの飼い犬ならぬ飼い子狐に、先輩が顔面アタックされたり。
不思議な、とっても不思議な神社だった。

神職さんっぽい服の女のひとにスマホの画面見せて、事情話したら、「それを送ったのが私です」って。「毎度お世話になっています」って。
よくよく顔見たら、先輩が贔屓にしてるお茶っ葉屋さんの店主さんだった。ここが自宅なんだってさ。
「先輩、大丈夫?」
ザ・古民家な一軒家の廊下を案内されて進んでくと、奥の部屋のふすまに、白い画用紙がペッタリ貼られてて、そこには桔梗色のクレヨンで
『びょうしつ
ねっちゅうしょう てあてちゅう』
って、多分書きたかったんだろうな、と思われるサムシングが、ぐりぐりされてた。

「先輩……?」
ふすまを開けてすぐ見えたのは、フカフカしてそうな白い敷布団と、涼しい薄水色のタオルケット。
何かを一生懸命ペロペロ舐めてる子狐と、舐めてるあたりに丁度首振りで風のあたる扇風機。
それからようやく、その子狐が舐めてるのが、すぅすぅ静かに寝息をたてる先輩の首筋だって気付いた。

「睡眠不足が原因のひとつ、かもしれませんね」
ぎゃぎゃぎゃっ!ぎゃっぎゃっ!
イヤイヤの抗議みたいに鳴いて暴れる子狐を、両手で抱いて、先輩から引き剥がす神職さん兼店主さん。
「体調のバランスが崩れて、熱中症のリスクが上がる場合がある、そうですよ」

塩分補給の食べ物と、水分補給の飲み物ご用意しますから、ゆっくり召し上がっていってくださいね。
ジタジタバタバタの子狐と一緒に、私を案内してくれたそのひとは部屋から出てった。
私は、熱中症と体調不良のことをスマホで調べながら、久しぶりにちゃんと、しっかり眠れてるんだろう先輩が起きるのを、その部屋で待ってた。

8/1/2023, 2:52:35 PM

「『ところにより雨』、『いつまでも降り止まない、雨』、『梅雨』。雨系のお題が多い中で、『晴れ』のお題はなかなかに新鮮な気がするわ」
テレビでニュースで台風情報等々を確認しながら、スマホで明日の天気を確認する某所在住物書き。
予報では、明日は雨が降る確率の方が低く、「もし」も何も、どうやら晴れる予想のようであった。
「今日は東京近辺等々で酷い雷雨があったし、沖縄は台風で晴れどころのハナシじゃないし。双方停電被害とかあったんだっけ」
お題と全然関係無いけど、防災用の備えとか何とか、確認しとこうかなぁ。物書きは文章投稿そっちのけで、備蓄食の賞味期限チェックを初めてしまい……

――――――

今日の東京は、一部地域で酷いゲリラ雷雨だった。
職場のお昼の休憩室、誰が観てるか知らないけど、テレビモニターに映ってる情報番組は、
某お空ツリーからの映像ってことで、灰色だか白だかの雲と、同じく灰色だか白だかの雨を、ワイプのおっちゃんの「わぁ……」って顔込みで映してる。
ウチの職場の降雨状況?うん(お察し)

「これ、明日晴れたら、蒸し暑くなるやつ?」
ランチ中のおしゃべりも、まずはこの雷雨から。
「どうだろう?天気関係は、不勉強で難しい」
テーブルで向かい合って、食費節約のお弁当広げて、私は甘いカフェラテ、長い付き合いの先輩は昨日同様眠気バイバイ系ドリンク。
「けれど、お前が言う通り蒸し暑くなるとしたら、明日は35℃の猛暑日予報だから、地獄だろうな」
昨日から、先輩は睡眠不足で、ほんの少しだけ体調悪そうにしてる。夢見が悪いらしい。
仕方ないといえば、仕方ない。
だって8年逃げ続けてきた初恋相手、先輩の心をズッタズタに壊した「加元」っていう人と、先日バッタリ会っちゃったから。きっと、それが原因だ。

なお遠くでは、常時正論マシンガンをブッパしてる中途採用君と、今年の3月いっぱいでウチの部署から別部署に左遷になったオツボネ「元」係長が、
誰も観てないテレビを付けっ放しにするより、テレビ消してエアコンの設定下げた方が電気代の良い使い方じゃないんですか、
って言いながら勝手にテレビ消そうとしたり、
あなた、自分が全部正しいと思って全部思い通りに捻じ曲げてたら、そのうち誰も構わなくなるわよ、
なんて自分自身に特大ブーメラン投げてたり。
今日も私たちは平和です(なおブラックに限りなく近いグレー企業の模様)

「蒸し暑くなったら先輩溶けちゃう」
「溶けるだろうなぁ。寒さは得意だが、反対に暑さに私はめっぽう弱いから」
「どうするの?リモートワーク申請行く?」
「ひとまず明日出勤して、無理そうだったら金曜日まで一括で申請を出す。今週いっぱい35℃前後で推移して、来週は雨で少し気温が下がるようだから」

「大丈夫?」
「明日次第。まぁ、なるようになるさ」

そもそも私達、この雷雨帰宅までに止まなかったら、どうなるんだろうね。停電とかしたら困るね。
そんな話をして、たまに例の中途採用君とオツボネさんのマシンガン vs ブーメランを見たりしながら、
お弁当突っつくなり、コーヒー飲むなりして、昼休憩をいつも通り過ごした。
中途採用君とオツボネさんのトーキングデュエルは、最終的に「今日は台風とかゲリラ雷雨とかの情報欲しい人が居るかもしれないから」ってことで、中途採用君が降参したらしい。

7/31/2023, 2:17:06 PM

「だから、一人で『居たい』、『痛い』、『遺体』。まぁ普通に考えりゃ『居たい』だろうな」
ひらがな表記は「漢字変換」で色々アレンジできるから便利よな。某所在住物書きはスマホで「いたい」の変換候補を見ながら、「居たい」が良いか「痛い」が物語を組みやすいか、思考していた。
「一人で居たいのは、ぼっち万歳ストーリーよな。痛いハナシは痛覚的にタンスに指ぶつけたとか、痛車痛スマホとか?一人して痛い思い、痛いこと……」
一人して痛いことをしているハナシとか?物書きは言いかけ、身に覚えがあり、一人で勝手に悶絶する。
「昔、ガキの頃、どちゃくそにメアリー・スーな二次創作ばっか書いてた、な……」
よって、物書きは一人で、痛い古傷にうめいている。

――――――

職場の先輩が、ちょっと体調悪そうな顔で出勤して、いつもは飲まないのに、眠気解消系ドリンク1本デスクに置いて。それで仕事してた。
「最近、どうにも眠れなくてな」
先輩は言った。
「まったく困ったものだ。夜は無理矢理寝て時々目が覚めて、朝は無理矢理起きて睡眠時間が足りない」
大丈夫。捌くべき仕事はしっかり捌くさ。
あくびを噛み殺しながら言う先輩の目は、言われてみればなんとなく、うっすら、本当にうっすら、クマができてるように見えなくもなかった。

「時々起きるって、心配事か何か?」
「どうだろうな。心配事といえば、心配事か。それのせいで夢見が酷く悪い」
「いつ頃から?もしかして、先々週から?」
「さぁ?先々週といえば先々週かもしれないし、それより後といえば後かもしれない」

「例の初恋さん?」
「お前は気にしなくてもいい。私自身の問題だ」
「つらいの?夢に出てきて怖いの?」
「黙秘。本当に、気にするな」

パチパチパチ。眠気打破ドリンクに口をつけて、ノートのキーボードに指を滑らせる先輩を見て、私はなんとなく理由が分かった。
先々週、ちょっとメタいハナシをすると、18日か19日あたりのハナシだ。

先輩には、昔々先輩の心をズッタズタのボロッボロに壊した、初恋さん兼失恋さんがいて、先輩はそのひとから8年くらいずっと逃げ続けてて、
先々週、道でそのひととバッタリ会った。
私もそこに居たから分かる。先輩はすごく怯えてて、怖がってて、ともかくその場からすぐ離れようと、必死に走って逃げてた。加元さんとか言った筈だ。
私は直感で察した。そのひとだ。きっとそのひとが、先輩の夢に出てくるんだ。

「先輩、私、何かできることある?」
「気にするなと言っただろう。いちいち私のことなど気にかけていては、体がもたないぞ」

パチパチパチ、カタタタタ、パチパチパチ。
先輩は自称人間嫌いの捻くれ者だけど、ぶっちゃけ、根っこは誠実で優しくて、寂しがり屋で、人に頼るのがバチクソ不得意だ。
他人の困り事には何度も手を差し出すのに、そのくせ自分の困り事は自分の中にしまい込む。
先輩は、だから、一人でいたいのを耐えてる。一人ぼっちで痛いのに対処してる。

「……ケチ」
「なんだって?」
「なんでもないでーす」

長いこと一所に仕事してきたんだから、長いこと私の痛いのを助け続けてくれたんだから、
こういう時くらい、私にも、先輩の痛いところ触らせてくれたって良いじゃん。ケチ。
とゴネたところで、どうせ先輩はケチだ。
私はゴネるかわりに口を尖らせて、アゴを上げて、どちゃくそにスネてみせた。

7/30/2023, 1:41:51 PM

「3月14日付近に『安らかな瞳』があったわ」
当時も相当四苦八苦したわな。某所在住物書きは過去を思い出し、遠くを見た。
「あのときも、サッパリイメージ湧かなくてさ。そもそも『安らかな瞳』ってどんな瞳よって。鏡見てそれっぽい目しようとしたの。
バチクソなアホ面で無事轟沈したわな」
どうせ今回も爆笑して敗北して崩れるぜ。物書きはカードミラーを手繰り、『澄んだ瞳』を再現しようとして……

――――――

澄んだ瞳が虚ろに曇り、仲間の尽力で輝きを取り戻す。闇落ちからの光復帰がヘキな物書きが、ありふれた、こんなおはなしを閃いたようです。

年号がまだ、平成だった頃の都内某所。13年ほど前の春から始まるおはなしです。
このおはなしの主人公、宇曽野という名前ですが、某バスターミナルのあたりを散歩していたところ、高速バスから、自分より少し若いくらいの20代が降りてくるのを見かけました。
「来た、東京だ!暖かいなぁ!」
大きなキャリーケースと、小さな地図を片手に、少々残念な曇り空を見上げて、それはそれは澄んだ瞳を、綺麗な瞳を輝かせていました。

地方出身者だ。宇曽野はすぐ気が付きました。
「すいません!物を知らないので、聞くのですが、」
地図を見せて、宇曽野に道を聞く言い回しが、抑揚が、東京のそれと違ったからです。
「この地図の、ここに、行きたいんです。どこのどれに乗れば良いか、サッパリ分からなくて」
東京に出てきたばかりの、都会の人とシステムを知らぬ瞳のひとは、自分の新居たるアパートへの道が分からない様子。
宇曽野は興味半分親切四半分で、丁寧に案内してやりました。

数ヶ月後の晩夏、宇曽野は自分の職場の窓口で、再度その20代と出会いました。
「あなたは、あのときの」
20代は、ブシヤマ、「附子山」と名乗りました。
春にキラリ輝き澄んでいた瞳は、早速「東京」と「田舎」の違いに揉まれ、擦られ、疲れてしまったようで、ほんの少し、くすみ曇って見えました。
「ここに勤めてらしたんですね。あのときは、お世話になりました」
用事を済ませてすぐ帰ろうとする附子山に、宇曽野は「まぁ元気出せ」の意味で、ノベルティを2個ほどくれてやりました。

二度あることは三度ある、とはよく言ったもので、
数ヶ月後の冬の頃、宇曽野は自宅近くの喫茶店で附子山を見つけました。
「宇曽野さん……?」
テーブルの上には転職雑誌。附子山の瞳は最初に比べて、ずっと、ずっとくすんで曇ってしまって、光がわずかに残るばかり。
あぁ。「染まってきた」な。宇曽野は見頃過ぎた桜を眺める心地でした。
そして少し話を聞いてやり、ついでにほんのちょっとだけ、附子山を気にかけてやることにしました。
これが宇曽野と附子山の、友達としての最初の日となりました。

それから附子山は諸事情で「藤森」と名字を変え、なんやかんやで宇曽野の職場に転職し、
宇曽野はそんな「藤森」と、時に語り合い、時に笑い合い、時にたかが冷蔵庫のプリンひとつでポコポコ大喧嘩をしたりしました。
おかげで藤森、今では東京での生き方をよく覚え、曇った瞳が少しずつ、輝きを取り戻してきましたが、
要するに現在どんなことになっているかは、過去投稿分7月29日や同月15日、6日あたりを参照いただくということで、ひとつ。
おしまい、おしまい。

7/29/2023, 3:27:42 PM

「何の『嵐』かは、一切指定が無いんだよな」
前回も前回で今回も今回。難易度高めのお題が続くなと、某所在住物書きは天井を見上げた。
「リプの嵐、人混みの嵐、花吹雪の嵐に落ち葉の嵐。あと何あるだろな、アイドルグループ?」
少しでも変わり種を、絡め手の物語を組みたい物書き。そんなことをせず、素直に天候としての嵐をストレートに書けば良いものを、「嵐」に繋げられそうな別ルートを探して迷う迷う。
「磁気嵐は、……駄目だ。無理」
あれこれ考えて、云々して、最終的に疲れて妥協した物書きは、「デカい音の嵐」に活路を見出した。

――――――

最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人間に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が暮らしておりまして、
その内末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐になるべく、不思議なお餅を売りながら修行をしておったのですが、
今夜は19時頃から22時頃まで約3時間、最近東京に越してきた魔女のおばあさんの喫茶店に、緊急避難の最中。

花火大会です。子狐は、あの大きな音に慣れていないのです。
連続する火薬の破裂音は、子狐にとって音の嵐。
人間の何倍も耳のいいコンコン子狐。遮音と遮熱の魔法が効いた喫茶店で、花火が終わるのを待つのです。

「花火、はなび!」
おばあさんが焼いてくれたクッキーと、おばあさんお手製のアイスクリームを、同じ避難民の化け子猫化け子狸等々と、一緒に楽しむコンコン子狐。
「音が無けりゃ、こんなにキレイなのに」
スイーツと一緒に、大きな大きな遠見の水鏡で、花火の映像もシェアします。
ここに届くのは光だけ。どんな轟音爆音の嵐が来ようとも、花火に不慣れな彼等の耳に、それが届くことはありません。

「ウチのダディーね。『30年も生きていれば、花火の音なんてそのうち慣れる』って言うの」
スコティッシュフォールドと和猫のミックスな化け子猫が、「信じられる?」という顔をして、子狐に言いました。
「それ、僕の母さんも言う」
化け子狸が同意して、会話に食いつきます。
「老けて耳が遠くなってるんだ。きっとそうだよ」
避難民の中で一番年長っぽいカマイタチの子供も、おしゃべりに混ざりたくて輪の中に入ってきました。

遠くなるのかなぁ。
違うよ。きっと慣れるんだよ。
いや意外と、怖くなくなる秘密の魔法、とか。
子猫と子狸と子イタチと、子供ながらにやんややんや、いっちょまえのディベートタイム。
主張と反論と提案で、クッキーとアイスが進みます。

「おばちゃん、どう思う?」
ここはひとつ、大人の意見も聞いてみよう。
コンコン子狐、魔女のおばあさんに聞きました。
「それこそ、大人になってからのお楽しみ、じゃないかしら。ねぇ」
花火の炸裂音の嵐届かぬ室内で、魔女のおばあさんはにっこり穏やかに、子供たちの交流を見守っておりましたとさ。

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