誕生日は? 何型? 好きなミュージシャンは? 映画観る? 本読んでる? 休みの日は何してる?
なんて定形質問を投げかけるが、私とその子はいっこうに盛り上がらない。まあいいか、帰り道、たまたま同じ場所で雨宿りをしているだけだもの。同じ制服を着てるから話しかけただけ。
星座は?
なんだその究極のどうでもいい質問は。と自分でも呆れるくらいで、もう雨宿りをやめて帰ろうかなと考え中である。
乙女座。とその子は答え、いいなー、私は蟹座。乙女座いいよね、カニの中には乙女のかけらもないよ。などと私は投げやりなことを言っている。
乙女座なのに乙女っぽくないんだよね。とその子が言うので、蟹座だからカニっぽかったらやだな。と返す。
あー、そうか、双子じゃないないのに双子っぽいとかもいやだよね。そうそう、魚じゃないのに魚っぽいのもやだ。
やだやだ。やだやだ。
唯一、星座の話だけ盛り上がったところで雨がやんだ。
じゃあ。じゃあ。
その子は乙女っぽい笑顔を向けた。
カニっぽく横歩きで帰ろうとするのは、やめておいた。
窓の外の洗濯物が風に吹かれて揺れている。
隣同士の服が袖を取り合った。まるでダンスをしているようだ。靴下やタオルはバックダンサー。
踊りませんか?
と誘われる。
いいえ、わたしはここにいますので。
遠慮をしながら、心はすでに踊っている。
恋人との別れを引き摺っていたある日、道端で出会った猫に道を尋ねられた。
道なら猫のほうが詳しそうだけれど、散歩をしていたら迷ってしまったらしい。
ちょうどわたしが向かう方向と同じだったので、ついておいでと猫といっしょに歩き出した。
途中で猫は立ち止まった。
視線の先に別の猫がいる。
あの子に会いたかった、と猫は言った。
あの子に案内してもらいな。
猫はお辞儀をしてそちらへ向かった。
わたしはまたひとりで歩き出した。
母の命は持って一週間だと医者に告げられた。
母はそれをわかっているかのように、穏やかにベッドに横たわっている。
来年の桜を見ようよ。
とぼくは言うが、それは奇跡を願うようなものだという想いがめぐってくる。それでも母はいつもと変わらない笑顔になって、「おー、見よう、見よう」と答える。
ぼくは母に否定されたことがない。あったとしても、受け止めてくれてから、「お母さんはこう思う」と言ってくれた。
そんな日々の奇跡が何十年も続き、ぼくは生きてきたのだと思う。あと何を望めばいいのか。
日毎に細くなる母の手を握る。
桜、見たいねぇ。
今はまだ、奇跡の中にいる。
たそがれの空がグーを出している。
ぼくはパーを出そうと思ったが、勝った負けたって騒ぐのはなんか虚しいと思った。
すると空はチョキを出した。
ぼくも同じようにチョキを出す。
誰もが平和でありますようにと。