母の命は持って一週間だと医者に告げられた。
母はそれをわかっているかのように、穏やかにベッドに横たわっている。
来年の桜を見ようよ。
とぼくは言うが、それは奇跡を願うようなものだという想いがめぐってくる。それでも母はいつもと変わらない笑顔になって、「おー、見よう、見よう」と答える。
ぼくは母に否定されたことがない。あったとしても、受け止めてくれてから、「お母さんはこう思う」と言ってくれた。
そんな日々の奇跡が何十年も続き、ぼくは生きてきたのだと思う。あと何を望めばいいのか。
日毎に細くなる母の手を握る。
桜、見たいねぇ。
今はまだ、奇跡の中にいる。
10/2/2022, 10:30:42 PM