川柳えむ

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11/1/2023, 10:36:14 PM

 墓の前に少女が一人。墓の周りに何かの種を撒いていった。

 時は流れ、種は芽吹き、蕾を付け、花を開いた。
 花はお墓の周囲を埋め尽くし、まるで花の絨毯のようだった。

 更に時が流れた。
 墓に一人の女性が寄りかかるように亡くなっていた。
 花に囲まれ、嬉しそうに笑っていた。

 それからまた永い永い時が流れた。
 墓は朽ちたが、花は咲き乱れ、その中心に、まるで墓標のように、一際大きな二輪の花が寄り添っていた。


『永遠に』

11/1/2023, 1:38:06 AM

 みんなが笑っているような。
 みんなが悲しむことのない世界を。
 誰も傷付くことのない、命が失われることもない。
 雨ではなく飴が降ったり、きらきらした虹がかかったり、気持ちがさっぱり晴れるような空が見える。
 誰もが過ごしやすい気候で、いつもゆったり好きなことができる。
 綺麗なものだけ見ていられる。

 そんな世界に生きたかった。


『理想郷』

10/30/2023, 9:28:19 PM

 宝箱を漁れば出てくる。
 昔、親友とやっていた交換ノート。
 日々の出来事や、いろいろな空想の物語を描いていた。
 これが、今もこうして物語を書き続ける、私の原点。
 懐かしく感じる。あれから変わってしまったこともたくさんある。
 けれど、きっと芯は何も変わらない。
 今でも私は、あの頃描いた物語の世界を心の隅に置いて、夢を見る。


『懐かしく思うこと』

10/29/2023, 10:46:59 PM

 昔から人見知りだった。
 人と仲良くする方法がわからなくて、一人でいることが多かった。
 ようやく仲良くなれたと思った友達も、気付けば傍からいなくなっていた。

 そして――ここに来るまでたくさんのことがあった。
 思い出せるほとんどが苦しいことだ。
 あの後また出来た、心から大切に思っていた友達は、幻だった。この世に存在しない、空想上だけのものだったのだ。
 そう知った時は狂うかと思った。
 いえ、もう元から狂っていたのだろう。
 もしかしたら、周りに酷い目に遭わされた時よりも、それに復讐した時よりも、どれよりもあの時が一番苦しかったかもしれない。
 それまでも苦しいことしかなかった。
 それでも、あなたと出逢えたことだけでも幸せだと思っていたのに。
 それが、一瞬にして消えてしまった。本当に幻だった。

 そんな日々を乗り越えて、私は大人になった。自由を手に入れた。
 けれど、何も変わらない。
 私には大切なものはもうない。
 ただ、もう一度だけ、あなたに逢いたかった。
 涙が勝手に頬を伝っていく。
「――っ…………!」
 あなたの名前を呼んでみても、その声は空へと消えていった。


「……大丈夫?」
 優しく揺り起こされた。
 あぁ、そうだ……。
「とても恐ろしい夢を見ていたの」
 起き上がり、あなたの胸に頭を埋める。
 あれは夢。とても恐ろしい夢。
 あなたは確かにここに存在しているのだから。
「本当に怖かったみたいだね。大丈夫。ここにいるよ」
 大きな腕で優しく背中を包み込んでくれる。

 あなたと再会できなかったら起こり得たかもしれない世界。
 あれが、私の本当の物語ではなくて良かった。
 あなたの腕の中でただ幸せを噛み締める。


『もう一つの物語』

10/29/2023, 4:15:34 AM

 暗がりの中で、僕は泣き続けた。
 ずっと夜が明けない。いつまでも暗いまま。
 どうして、僕はこんな闇の中にいるの。
 目を開けても、前が見えない。
 怖い。

「もう! 何やってるの!」

 空から光と声が降ってきた。
 ダンボールの蓋が開けられた。

 そうだった。
 ママをびっくりさせようって、ダンボールの中に隠れたまま寝ちゃったんだ。

 僕は安心して笑った。


『暗がりの中で』

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