墓の前に少女が一人。墓の周りに何かの種を撒いていった。
時は流れ、種は芽吹き、蕾を付け、花を開いた。
花はお墓の周囲を埋め尽くし、まるで花の絨毯のようだった。
更に時が流れた。
墓に一人の女性が寄りかかるように亡くなっていた。
花に囲まれ、嬉しそうに笑っていた。
それからまた永い永い時が流れた。
墓は朽ちたが、花は咲き乱れ、その中心に、まるで墓標のように、一際大きな二輪の花が寄り添っていた。
『永遠に』
みんなが笑っているような。
みんなが悲しむことのない世界を。
誰も傷付くことのない、命が失われることもない。
雨ではなく飴が降ったり、きらきらした虹がかかったり、気持ちがさっぱり晴れるような空が見える。
誰もが過ごしやすい気候で、いつもゆったり好きなことができる。
綺麗なものだけ見ていられる。
そんな世界に生きたかった。
『理想郷』
宝箱を漁れば出てくる。
昔、親友とやっていた交換ノート。
日々の出来事や、いろいろな空想の物語を描いていた。
これが、今もこうして物語を書き続ける、私の原点。
懐かしく感じる。あれから変わってしまったこともたくさんある。
けれど、きっと芯は何も変わらない。
今でも私は、あの頃描いた物語の世界を心の隅に置いて、夢を見る。
『懐かしく思うこと』
昔から人見知りだった。
人と仲良くする方法がわからなくて、一人でいることが多かった。
ようやく仲良くなれたと思った友達も、気付けば傍からいなくなっていた。
そして――ここに来るまでたくさんのことがあった。
思い出せるほとんどが苦しいことだ。
あの後また出来た、心から大切に思っていた友達は、幻だった。この世に存在しない、空想上だけのものだったのだ。
そう知った時は狂うかと思った。
いえ、もう元から狂っていたのだろう。
もしかしたら、周りに酷い目に遭わされた時よりも、それに復讐した時よりも、どれよりもあの時が一番苦しかったかもしれない。
それまでも苦しいことしかなかった。
それでも、あなたと出逢えたことだけでも幸せだと思っていたのに。
それが、一瞬にして消えてしまった。本当に幻だった。
そんな日々を乗り越えて、私は大人になった。自由を手に入れた。
けれど、何も変わらない。
私には大切なものはもうない。
ただ、もう一度だけ、あなたに逢いたかった。
涙が勝手に頬を伝っていく。
「――っ…………!」
あなたの名前を呼んでみても、その声は空へと消えていった。
「……大丈夫?」
優しく揺り起こされた。
あぁ、そうだ……。
「とても恐ろしい夢を見ていたの」
起き上がり、あなたの胸に頭を埋める。
あれは夢。とても恐ろしい夢。
あなたは確かにここに存在しているのだから。
「本当に怖かったみたいだね。大丈夫。ここにいるよ」
大きな腕で優しく背中を包み込んでくれる。
あなたと再会できなかったら起こり得たかもしれない世界。
あれが、私の本当の物語ではなくて良かった。
あなたの腕の中でただ幸せを噛み締める。
『もう一つの物語』
暗がりの中で、僕は泣き続けた。
ずっと夜が明けない。いつまでも暗いまま。
どうして、僕はこんな闇の中にいるの。
目を開けても、前が見えない。
怖い。
「もう! 何やってるの!」
空から光と声が降ってきた。
ダンボールの蓋が開けられた。
そうだった。
ママをびっくりさせようって、ダンボールの中に隠れたまま寝ちゃったんだ。
僕は安心して笑った。
『暗がりの中で』