川柳えむ

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10/17/2023, 8:22:20 PM

 気付けば二人分の食事を作っている。
 食器や歯ブラシ、様々な物がそのまま置き去りになっている。
 歩く時、同じように歩幅を合わせようと、少しゆっくりになる。
 好きだったテレビ番組を、ソファ一人分空けて見ている。
 今日の出来事を、思わず語りかけるように話してしまいそうになる。
 夜、ないはずの温もりを、隣に探している。


『忘れたくても忘れられない』

10/16/2023, 8:34:02 PM

 カーテンの隙間から射し込む、朝のやわらかな光で目が覚めた。
 ぼんやりした頭で横を向くと、肩に君の頭がもたれかかっていた。
 あぁ、そうか。
 昨夜は君と二人で飲んで、ソファに座ったまま気付かぬうちに寝てしまったのか。

 週末の仕事帰り。「明日休みだし、今からうちで飲もーよ!」と、こちらのことをなんとも思ってないからこそ、気軽に誘ってくる君。
 おいおい、一応俺だって男なんだ。襲われたって文句は言えないぞ。とは思うものの、君のことを大切に想っているから、絶対にそんなことはしないのだが。そして君も、そんなことはしないって俺を信頼してくれているからこそ、こうして誘ってくれているのだろうが。
 それが、嬉しくて、でも、少し寂しい。
 そうして結局二人で君の家で飲んで、こうして何事もなく平和に朝を迎えたのだ。

 君はまだ眠っている。幸せそうな顔をして、一体どんな夢を見ているのだろう。
 この射し込んでくるやわらかな光のような、明るく、そして優しく俺を照らす君の存在。
 もたれかかる右側の温もりが心地良くて、まだしばらくこのままの関係でいいかと、俺もまた幸せな気持ちで再び目を閉じた。


『やわらかな光』

10/15/2023, 6:03:04 PM

 真っ直ぐ見つめてくるその刺すような鋭い眼差しが、私の心ごと射止めてきて、とても苦しい。
 それでもこっちを見てほしい。その危険な香りとどこか悲しさを纏った瞳で、私のことを見ていてほしい。
 近付いてはいけないのはわかっていた。
 あなたのその瞳が怯えたようにこちらを見ていた。ずっと見ていたくて近付き過ぎた。そして私は殺された。
 あの一瞬、安心した表情を浮かべた。それがもしあなたの本心だったのなら、それでもいい。私がいない世界でなら笑うことができるなら、その世界で幸せになってほしい。
 死んでも忘れない。
 研ぎ澄まされた細い刃のような、とても痛々しい、全てを貫こうと見つめてきた。私の心を捉えて離さないあの眼差し。


『鋭い眼差し』

10/15/2023, 8:07:45 AM

 高く高く、上を目指して登り続けた。
 気付けば、誰も手が届かないような場所にいた。
 誰も自分には敵わない。ここにいるのは自分だけ。
 下は見えない。もう誰も見えない。
 横を見ても誰の顔も合わせられない。気軽に声をかけてくれる人も。誰もいなくて。
 たった一人。ここは、寂しい。
 頂点へ辿り着いた代わりに、仲間を見失った。


『高く高く』

10/13/2023, 8:14:53 PM

 どうして、いつからか、上手くできなくなってしまうんだろう。
 素直に楽しんだり、喜んだり、怒ったり、悲しんだりすることが。
 空気を読んで、社会を円滑に回す為に、仮面を被って生きている。
 本当は、子供のように、誰かに甘えてみたい。わがままを言って、困らせたりしてみたい。
 全力で好きなことを楽しんで笑いたい。
 理不尽には怒って、嬉しいことがあれば純粋に喜びたい。
 大声を上げて、人目を気にせずに泣き出したい。
 いつしかできなくなってしまったこと。また、子供のように、してみたい。ただの夢でしかないけれど。


『子供のように』

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