あぁ、体調が悪いなぁ……。不健康だしね……。
頭はとても痛いし、胃も痛い。肌は荒れている。なんだか体も熱っぽい気がする。指先が痺れる感じもするし、もしかしたら大きな病気なのかもしれない。
駄目だ。きっと変な病気にかかってしまったんだ。この症状はどれだろう。もしかしたら流行病? いや、この難病か? それともこっち?
「不健康ですね」
やっぱりそうか。そうだよね。
何か大きい病気なんだろう? もう自分は長くないのかもしれない。
「まず心が不健康です。ちゃんと栄養を摂って、運動して、寝てください。体調不良は精神的なものから来ています」
こんなに体調が悪いのに、心だけなわけがない。藪医者か?
きっと自分はもうすぐ死ぬんだ。健康に生きたかったなぁ。
そう自分の体を思って嘆くのだった。
『心の健康』
君の奏でる音楽に惚れました。
力強く、そして優しく鳴るギターの調べ。その音楽に、君の美しい歌声も混じり合って、私はとても心地よく穏やかな気持ちになれました。
流れる旋律は川のように、低く高く響く音は飛び跳ねる魚のように。歌声は川を撫でるように吹く風となって駆け抜けていく。そんな情景が思い浮かんで、私はどこか別の地にいるような気分になります。
その時間はとても幸せで、そんな世界を見せてくれる君に、溢れんばかりの感謝を届けたい。この胸の奥に燻っている気持ちを伝えることはないけれど、ただ一言、ありがとうとだけ伝えたいです。
音楽を紡ぐ君へ
いつも素敵な時間をありがとう。
『君の奏でる音楽』
麦わら帽子に憧れた。
真夏に向日葵畑に立つ、白いワンピースを着た少女が被る、あの麦わら帽子――ではなく、海賊の頂点を目指す少年が被る、あの麦わら帽子に。
昔から、男に混じって外で遊ぶのが好きだった。女の格好よりも男の格好をしてる方が楽だった。
ある日、海賊ごっこをした。公園の遊具を船に見立て、通りがかった動物をワニやサメに見立て、その辺に落ちているゴミを宝に見立てた。
船長役の子は麦わら帽子を被っていた。彼は、困っている友達をほっとけない、正義感の強い子だった。
そこへ、いじめっ子のガキ大将が公園を占領しようとやって来た。
船長はガキ大将をこの海賊団の宿敵だと言い、ガキ大将の前に立ちはだかった。宿敵のガキ大将は笑いながら船長を殴る。体格差は歴然。どう見ても勝ち目はなかった。
それでも船長は負けなかった。宿敵を倒そうと、この海賊団を守ろうと、力いっぱい戦った。
そして、宿敵はとうとう根負けし、海(公園)の平和は守られた。
あの時の、麦わら帽子の下で輝く、彼の笑顔が忘れられなかった。
私も、彼のようになりたかった。
一生懸命で、何にも負けない、麦わら帽子の似合う彼に憧れた。
いつか私も誰かを守れるかな。
少年のような格好で、麦わら帽子を被り、外へと歩き出した。
『麦わら帽子』
『終点、終点です――』
眠りこけていた私の耳に、無機質に流れる電車のアナウンスが響いた。
飛び起きて顔を上げると、電車のドアがもう閉まりかけている。
急いで立ち上がり、慌ててドアの外へと書け出した。
危ない危ない。またやるところだった。ギリギリセーフ。
後ろで閉まるドアを振り返る。今回は無事に降りることができたと、ほっと胸を撫で下ろした。
前回は終点に気付かず寝過ごしてしまい、そのまま折り返してしまったんだ。そして、元の場所まで戻ってしまった。
それはもう最悪だった。
やっとお別れできると思ったのに戻ってしまった。
また地獄の日々が始まったうえに、後遺症は残るしで散々だった。
だから、もう失敗しないと、次は確実性があるものを選んだ。
そして、今度こそちゃんと終点で降りようと、再度電車に乗り込んだのだった。この黄泉へと向かう電車に。
電車を後にする。また前を向き、終点の先へと歩き出した。
ここから先は未知の世界。
終わりの世界が続いている。
*
さて。投稿を終えた私は、先ほどの出来事を思い出して、少し後悔していた。
お題に沿った文章を投稿するアプリをやっている。
それは、今日のお題をこなそうと、そのアプリを開いた時のこと。
今日の文章のお題は『終点』か……。
書く内容を考えながら、とりあえずみんなの投稿を見てみようと、アプリにある『みんなの投稿を読む』ボタンを押した。
いつもなら最新の投稿が一つ、文末に投稿者の名前が表示される画面になるのだが――、
おしまい
今回表示されたのは、画面のど真ん中に『おしまい』という文字だけ。
今回のお題が終点だからこれだけなのかな? それにしても、上下中央揃えの機能なんてないのに綺麗に真ん中に表示されてるな。名前も表示されてないし……。
違和感を覚えながら、次の投稿を読んでみようと『次の投稿』ボタンを押す。
おしまい
またしても『おしまい』が表示された。そしてまた次も。何度押しても『おしまい』『おしまい』『おしまい』……。
慌ててアプリを閉じた。そして再びアプリを起ち上げ、恐る恐るみんなの投稿を開いてみる。
すると、今度は普通の投稿が並んでいた。ほっと胸を撫で下ろす。
あれはなんだったのか。
もしかしたら、バグってアプリの終点に辿り着いたのだろうか。全ての投稿を読み終えると出る表示なのかもしれないな。冷静に考えて、そんなことを思った。
まだ少しドキドキしながら、今度こそ書く内容を考え始めた。
そして投稿が終わってから、あぁ、さっきあったこの出来事を書けば良かった。そっちの方が面白かったかもしれないと、少し後悔したのだ。
結局、その話は投稿したものへ追記することに決めた。
今度こそ、ここが、本日の投稿の終点です。おしまい。
『終点』
上手くいかなくたっていい。
君が、元気な君でいてくれるなら。
一生懸命、いろんなことに挑戦して、泣いて、笑って。失敗したり、成功したりして。
一緒に成長していこう。
――暮らす大人と子供のための情報誌『にわひよタウン』
「はい、カットー!」
CMの撮影が終わった。
スタッフが、赤ちゃんに頬をすり寄せるシーンが愛情たっぷりだった! だの、子供を優しい表情で抱き上げるシーンが感情こもってて良かった! だの褒めてくれる。
母の愛を感じた。だって。
こちとら独り身真っ最中なのにね!
人生上手くいかなくたっていい……独り身だって、私が元気な私であるなら……。
『上手くいかなくたっていい』