川柳えむ

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『終点、終点です――』

 眠りこけていた私の耳に、無機質に流れる電車のアナウンスが響いた。
 飛び起きて顔を上げると、電車のドアがもう閉まりかけている。
 急いで立ち上がり、慌ててドアの外へと書け出した。

 危ない危ない。またやるところだった。ギリギリセーフ。

 後ろで閉まるドアを振り返る。今回は無事に降りることができたと、ほっと胸を撫で下ろした。
 前回は終点に気付かず寝過ごしてしまい、そのまま折り返してしまったんだ。そして、元の場所まで戻ってしまった。

 それはもう最悪だった。
 やっとお別れできると思ったのに戻ってしまった。
 また地獄の日々が始まったうえに、後遺症は残るしで散々だった。
 だから、もう失敗しないと、次は確実性があるものを選んだ。
 そして、今度こそちゃんと終点で降りようと、再度電車に乗り込んだのだった。この黄泉へと向かう電車に。

 電車を後にする。また前を向き、終点の先へと歩き出した。
 ここから先は未知の世界。
 終わりの世界が続いている。

      *

 さて。投稿を終えた私は、先ほどの出来事を思い出して、少し後悔していた。

 お題に沿った文章を投稿するアプリをやっている。
 それは、今日のお題をこなそうと、そのアプリを開いた時のこと。

 今日の文章のお題は『終点』か……。

 書く内容を考えながら、とりあえずみんなの投稿を見てみようと、アプリにある『みんなの投稿を読む』ボタンを押した。
 いつもなら最新の投稿が一つ、文末に投稿者の名前が表示される画面になるのだが――、

 おしまい

 今回表示されたのは、画面のど真ん中に『おしまい』という文字だけ。
 今回のお題が終点だからこれだけなのかな? それにしても、上下中央揃えの機能なんてないのに綺麗に真ん中に表示されてるな。名前も表示されてないし……。
 違和感を覚えながら、次の投稿を読んでみようと『次の投稿』ボタンを押す。

 おしまい

 またしても『おしまい』が表示された。そしてまた次も。何度押しても『おしまい』『おしまい』『おしまい』……。

 慌ててアプリを閉じた。そして再びアプリを起ち上げ、恐る恐るみんなの投稿を開いてみる。
 すると、今度は普通の投稿が並んでいた。ほっと胸を撫で下ろす。
 あれはなんだったのか。
 もしかしたら、バグってアプリの終点に辿り着いたのだろうか。全ての投稿を読み終えると出る表示なのかもしれないな。冷静に考えて、そんなことを思った。
 まだ少しドキドキしながら、今度こそ書く内容を考え始めた。

 そして投稿が終わってから、あぁ、さっきあったこの出来事を書けば良かった。そっちの方が面白かったかもしれないと、少し後悔したのだ。
 結局、その話は投稿したものへ追記することに決めた。

 今度こそ、ここが、本日の投稿の終点です。おしまい。


『終点』

8/10/2023, 8:34:01 PM