川柳えむ

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7/14/2023, 4:53:54 PM

「結婚してください」

 膝をついて小さな箱を開く。その箱の中には綺麗な指輪がはまっている。
「喜んで」と泣き笑いで彼の手を取る。

 手を取り合って、未来を向く。いつまでもお互いを支えようと誓う。
 こうして、私達の新しい人生が始まった。

 それから随分時間が経った。
 それでも私達は、どんな時も手を取り合って歩んでいく。
 何があっても、これからもずっと。

 手を取り合って、二人で一緒に地面を蹴飛ばし空へと飛んだ。


『手を取り合って』

7/13/2023, 12:43:31 PM

 君を支配する優越感――。
 貴方に支配される劣等感――。

「どうして何度言ってもわからないんだ!」
 声を荒らげ手を上げる。
 これは決して君が憎いからじゃない。「君を思ってやっているんだ」

「ごめんなさい」
 震える声でそう返す。
 全て私が悪い。わかってる。ちゃんと。「ごめんなさい」

 その日も、ただ、いつも通り「躾」をしていただけだった。なかなか君が理解しないから。
 それだけなのに、どうして、動かなくなった? 声をかけても何の反応もない。嘘だ、まさか。
 徐々に冷たくなっていく躯。
 反して、僕の呼吸は荒くなっていく。

 僕は君を大切にしていた筈なのに。
 君がおとなしく言うことを聞くから、いつしか優越感を感じるようになっていた。君を支配しているという優越感を。

 聞こえる声がだんだん遠くなる。どうしてこうなったの?
 最初はあんなに幸せだったのに。全てが嘘なら、良かったのに。

 貴方に愛されて私は本当に幸せだった。
 気付けばだんだんと苦しくなっていて、いつからか劣等感を感じるようになっていた。貴方に支配されているという劣等感を。

 優越感なんて間違っていた。
 劣等感なんて感じる必要はなかった。
 お互いを想い合えれば、それだけで良かった。
 こんな結末なら、何もいらなかった。

 立ち尽くす男と横たわる女の間には、もう何も感じるものなどなかった。


『優越感、劣等感』

7/12/2023, 10:44:21 AM

 これまでずっと、与えられたそれが使命だと思って、それだけの為に生きてきた。来る日も来る日も、それを果たす為に努力してきた。
 そしてとうとう、その使命を果たすことができた。
 その使命を果たして、僕は――僕はこれから、どうしたらいいんだろう。
 これまでずっと、それだけの為に生きてきた。それがなくなってしまったら、もうどうしたらいいのかわからない。
 これから、何を目指して生きていけばいいんだろう。これからずっと、僕はどうしたらいいんだろう。


『これまでずっと』

7/11/2023, 11:41:56 AM

 突然知らない人から1件のLINEが届いた。
 誰だ。どこかの業者か? そう思いながら、とりあえずメッセージを開いてみる。いざとなったら通報すればいいし。
 開いたそのメッセージに、思わず顔をしかめた。

『突然このようなメッセージを送ることをお許しください。
 今から世界が大変なことになります。
 それを防ぐ為には次のことを行わなければなりません。
 まず、塩水で体を清めてください。
 次に東京タワーの麓へ行ってください。
 その場所で神聖な言葉を唱えてください。
 危険が迫っています。日付が変わるまでに必ず行ってください。
 あなたの身に幸運が訪れますように。』

 ――なんだこれは。
 宗教? いや、単なるいたずらか。とりあえず、怪しいものには違いない。
 アホらしいと思いながら通報を押し、Twitterを覗く。
 なにやらタイムラインが騒がしい。トレンドを見ると「LINE」や「東京タワー」、「世界滅亡」などの言葉が入っている。
 もしや、さっきのメッセージか?
 どうやら自分だけじゃなく、多くの人に届いているようだ。

『俺のとこにも来た。みんなに届いてるのか』
『世界オワタ』
『塩水塩分濃度何%で作ればいい?』
『みんなで東京タワー行こうぜ!』
『神聖な言葉って何』

 お祭りのように盛り上がっている。一斉に届いたらそりゃ話題にもなるし、ちょっとワクワクもする。
 しかし、一体送ったやつは何を考えているんだ? こんなに大勢に届いてるってことは、組織なのか? やっぱり何かの宗教絡み?
 まぁ本気にするだけ無駄だろうけど。
 みんなも当然ネタとして楽しんでいるだけ。明日には「何だったんだろうね」で終わるし、一週間もすれば忘れられるような出来事だ。
 しばらくタイムラインを眺めていたが、何かしら進展があるわけでもなく、いつしか飽きて寝てしまった。

 そして、二度と目覚めることはなかった。


『1件のLINE』

7/10/2023, 10:09:45 AM

 あのこがいなくなって一週間。あれから初めて夢を見た。
 それは、あのこが帰ってくる夢。いつものようにソファでくつろいでいた。
 あぁ、帰ってきたんだ。元気なんだ。良かった……。
 心からほっとした。
 でも気付いてしまった。これは夢だって。
 だって、たしかに見たから。あのこが灰になるのを。煙が天へ昇っていくのを。
 ソファでくつろぐそのこを優しく撫でた。気持ち良さそうに目を細める。相変わらず柔らかい毛並みをしていた。

 朝、目が覚めると、泣いていた。
 あのこは優しかったから。
 きっと、私がいつまでも悲しんでいるから、励ましに来てくれたんだろう。

 いつまでも大好きなあなたのこと、忘れないよ。

 ちなみに、またその次の日も夢に出てきた。そして「お供え物をもっと美味しいご飯に変えてくれ」って訴えてきた。
 なんともあのこらしい……。
 ちょっと元気が出て、ふふっと声が漏れる。
 次、目が覚めたら、今よりもきっと笑えるはずだ。


『目が覚めると』

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