川柳えむ

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 君を支配する優越感――。
 貴方に支配される劣等感――。

「どうして何度言ってもわからないんだ!」
 声を荒らげ手を上げる。
 これは決して君が憎いからじゃない。「君を思ってやっているんだ」

「ごめんなさい」
 震える声でそう返す。
 全て私が悪い。わかってる。ちゃんと。「ごめんなさい」

 その日も、ただ、いつも通り「躾」をしていただけだった。なかなか君が理解しないから。
 それだけなのに、どうして、動かなくなった? 声をかけても何の反応もない。嘘だ、まさか。
 徐々に冷たくなっていく躯。
 反して、僕の呼吸は荒くなっていく。

 僕は君を大切にしていた筈なのに。
 君がおとなしく言うことを聞くから、いつしか優越感を感じるようになっていた。君を支配しているという優越感を。

 聞こえる声がだんだん遠くなる。どうしてこうなったの?
 最初はあんなに幸せだったのに。全てが嘘なら、良かったのに。

 貴方に愛されて私は本当に幸せだった。
 気付けばだんだんと苦しくなっていて、いつからか劣等感を感じるようになっていた。貴方に支配されているという劣等感を。

 優越感なんて間違っていた。
 劣等感なんて感じる必要はなかった。
 お互いを想い合えれば、それだけで良かった。
 こんな結末なら、何もいらなかった。

 立ち尽くす男と横たわる女の間には、もう何も感じるものなどなかった。


『優越感、劣等感』

7/13/2023, 12:43:31 PM