神様に恋をした。
初めて見た彼は、画面の向こうで一生懸命に歌って踊り、そして、弾けるような笑顔でこちらに向かって言った。「君に最高の笑顔をあげる!」
その瞬間、世界は光り輝き、私は恋に落ちたのだ。
本当に笑顔をくれた、あなたはまるで神様のよう――いや、紛う方なき神様だ。
友人達には、アイドルのリアコとかやめてよーなんて、笑いながら言われるけど。そして私も、そんなんじゃないよーって、同じように笑いながら返すけど。
彼は、私にとって、神様で、心から好きな大切な人なんだ。
初めて行ったライブハウス。ファンクラブの中でも抽選で当たった人だけで、いつものライブハウスよりも規模の小さなもの。
その分、とても近くて。画面越しだった神様が、こんなにも近くて――キラキラと眩しかった。
刹那、目が合う。彼は最高の笑顔を見せてくれた。
ライブ後の握手会、初めて触れた手。
震える声で「いつも応援しています」となんとか伝え、そっと手紙を差し出した。
「ありがとう!」彼はまた笑顔で受け取ってくれた。
初めて書いたラブレター。愛をたっぷり詰め込んだラブレター。
あなたは、どんな気持ちで読んでくれるかな?
【熱愛発覚! お泊まりデート】
彼の名前が日本中を駆け巡った。
お相手は有名女優。
彼が出したコメントは「真剣にお付き合いさせていただいております」――。
あんなに光り輝いていた世界が、今はもうこんなに暗い。
真っ暗な部屋に戻り、ベッドに突っ伏し、ぼろぼろと零れる涙は枕を濡らした。
私が今どれだけの気持ちを抱えているか、誰も知らない。この苦しさは、誰にもわからない。
初めての恋でした。
あなたを本当に愛しています。
笑顔をくれてありがとう。
あなたは私の神様です。
私のこの恋心は――
『神様だけが知っている』
いつもの道の脇にある小道の向こう。まだ一度も行ったことがなく、この道の先には何があるのだろうと想像をかき立てられる。
小道の先は小高くなって曲がっており、その向こうは見えない。
道の先には何があるのだろう。行ってみようか?
この町の裏側? はたまた全然知らない不思議な世界? いやいやそんなものが存在するはずはないけど、なら、もしかしたら隠れたお洒落なお店とか。猫の溜まり場もいいなぁ。
いざ、広がる景色を確かめに。想像にわくわくしながら。
――本当は知っていた。
こういうものは、想像で済ませておいた方がいいことを。現実なんて、そんなものだってことを。
目の前に広がるよく見知った通りを見て、溜め息を吐いた。
『この道の先に』
いつもより早く陽が昇るようになって、眩しい光が私を照らして、仕事や学校へ向かう人々が日傘を差す光景を見るのも珍しくなくなった。
照りつける日差しの下、歩いて。働いて。
日が長く、落ちるのもいつもより遅いから。今日も一日疲れたけれど、なんだかまだ帰るのが勿体なくなって、少しだけでも楽しいことを、と寄り道してみる。
太陽はまだこちらを見つめている。
そうして買ったアイスキャンディが、日が地平線の向こうへ沈んでいくように、溶けて地面へ零れ落ちる。
夏だなぁ……と呟いた。
『日差し』