夜空を駆ける
小さい頃ずっと憧れていた、羨ましかった。
12月25日、ワクワクしながら、ドキドキしながら、
綺麗な瞳を輝かせ夜空を駆けるサンタクロースからのプレゼントを開ける、子供達が。
いや───
サンタクロースが居ることがと言った方がいいのだろう。
休み明け学校に行くと何を貰ったのかどこに行ったのか何を食べたのか何の番組を観たのか、そんな話で盛り上がっていた。
そしてそれを耳に入れる度に虚しくなった。
でも、それからはあいつが居た。あいつらが居た。
騒いで、ふざけて、笑って、バカやって。
もっとも、それも、もう出来なくなってしまったけれど。
そんな思い出を頭に浮かべる今日、12月25日。
窓の外ではイルミネーションが輝き、
恋人達が、幸せそうな家族達が手を繋ぎ楽しそうに笑いあっている。
それなのに僕ときたら───
暗くなった庁舎に輝くパソコンの前、
山積みになった書類の中、
缶コーヒーと仲良く手を繋ぎ仕事!
なんて侘しいことだろうと自分でも思う。
部下達や上司は彼女のひとつでも作ったらどうだとか、一緒に過ごせる友達でもとか言うが...
この仕事を、それに潜入捜査も続けるとなるとやはり危険な立場には立つことになるだろう。
一般の、民間人など最悪巻き込むことになってしまいかねない。
もうそんなことに耐えれる自信は無い。
そんな言い訳がましくもとれるようなことを考えながら画面に集中する。
"📱"
少し経ってから誰かから連絡が来た。こんな日の、こんな時間に連絡を送って来るような人物に心当たりは無い。
不思議に思いながらも私用の携帯の画面を見る。
───!
何を気軽に連絡してきているんだ、こいつは。
こんな日の、こんな時間に...って向こうでは違うんだったな。にしても恋人や、それこそ向こうでは家族と過ごすものだろうに...。
たったひとつの連絡で、たった一人からの言葉で、
こんなクリスマスも悪くないな、なんて思えてしまった。
ああもう、こんな仕事はやく片付けて有給取ってやる!
ひそかな想い
大切な想いの箱の中に新しい想いがひとつ増えた。
小さな、小さな、ひそかな想い。
でも少しづつ、少しづつ大きくなってきてしまう。
邪魔な想いだ、いらない想いだと隠そうとする。
それでも大きくなって、大きくなって、ついには箱の中に収まりきらないほどになってしまった。
これでは箱が想いに置き変わってしまう。
どうしようかと思案した末、少しづつ、少しづつでも小さくしていってしまうことにした。
それまでは何とか箱に包んで、隠して。
隠して、隠して、隠して。
そして、やっとの思いで幾分か小さくすることができた!
ここまで小さくできたのなら、このまま消してしまおう。そう、思った。
だから───
だからどうか、見つけようとしないでくれ。
そんなに必死に、大切な失くしものを探すかのように探さないで、見つけないで。
あぁ、駄目だ。
また、大きくなっていってしまう。
今度は少しづつなんかではいてくれない。
──────
ついに、収まらなくなった。
でも、もういいんだって。
箱、とびきり大きなのをやるからって。
ふふ...もう、中身はいっぱいで、ぎゅうぎゅうかもしれないけれどね。
あなたは誰だろう。
本名も顔も分からない。
でも不思議と話しやすい。
分からないから故なのだろうか?
そう思うと知ってしまうのが怖いと思うけれど、
もっと知りたいとも思ってしまう。
会ってみたいと言う気持ちと、会ってしまったらどうなるんだろうと言う不安な気持ちが入り交じっているが...
恐らくは前者の方が大きいのだろう...と思いたい。
でもまあ、きっと楽しいのだろう。
顔も名前も、互いを知ってみて話すのは...。
頭に浮かぶそんな考えで一喜一憂しながら、その時を待つ。
楽しみだ
あなたは誰だろうか。
なにこれ...?
手紙の行方
3ヶ月に一度
6年前まで定期的に開かなくてはならないなんて煩わしいものだとばかり思っていたこともあった、と古い記憶を思い出しながら、赤いフラッグの下がった青いポストを今にもスキップをしたい衝動に駆られる程胸を弾ませ開ける。
習慣として身についたこれは、今やカレンダーにつけられた不格好なスマイルマークを見なくても自然と行うようになった。
互いに多忙で...いやそれ以上に易々と行き来できる距離でも、立場でもないということで始まった文通。どれだけ忙しくても決まった日に向こうに届くようにしている。
一時はあまりに深い憎悪と殺意まで抱かれていたが、全てを打ち明け和解した後は似たところもあり年齢もそう遠くは無く聞き上手で多くの知識と教養もあるため話しやすい、と来ていたた彼と今では数年前とはまるっきり違う知己のような...そうだ、彼が言うには...竹馬の友?のように親しい友となった。
そしてまた3ヶ月たった今、ポストに手を伸ばそうとする。
その時、郵便屋の車がすぐ近くで止まり、車から降りた配達員と思しき男がこっちに走ってきて言った。
「配達物を間違えていたから取り替えさせて欲しい」と愛想良く。
帽子を目深に被っている、19くらいだろうか?
随分若く思える気ももっと上のような気もする
──得体の知れない、悟らせないようにしているような雰囲気さえ感じる。
だが───何故か自分は知っているような気がした。声に聞き覚えもない、というかよく居るような声だ。そんなはずは無いと思いながらも。
気を取り直しどうぞと応え、ポストに目を向ける。
その一瞬、ほんの一瞬だ。
・・・・・・・・
たった今そこにいたはずの男が、居なくなっていた
代わりにすぐ側に立っているのは──
色黒の肌
輝いてさえ見えるブロンドの髪
そして───
帽子の下からこちらを見つめる瞳は青!
あぁどうしようか!
手紙は向こうに出してしまった!
燦々と照りつける太陽の光を受けて
薫風に吹かれながら輝く蜜柑の木
ギラギラと輝く冒険の海
そして、燦然と黄金色に輝く百獣の王...もとい太陽の船首。
その上にあぐらをかき座っているのは───
我らが船長。
輝く麦わらの帽子と流れる髪の下で、
海を見つめる期待と興奮に満ち、はしゃぐ子供のような、しかし眼光炯炯とした瞳が一等輝いている。
あと一歩で死の間際まで追いやられていたかもしれない者、どうしようもできない強い呪縛で縛られていた者、度を超えた優しさで船を降りようとした者、
そして───目の前で二度死を望んだ者。
全ての者を、自分に大きな利があるでもないと言うのに強引に助け出していく。
輝く蜜柑の木より、輝く冒険の海より、百獣の王より、向日葵より、太陽より...一等輝きある存在。
我らが船長。