アシロ

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2/13/2025, 2:11:33 PM

※12月にロストした我が家のTRPG探索者の最期の心境。友人の探索者の名前をお借りしてます。



 あんなにも悍ましいものを見て、一体誰が正気を保てるっていうんだろう。
 ······昔の俺なら。こういう“変なこと”に巻き込まれるようになった当時の頃の俺だったら、もしかしたら“アイツ”を見てもケロッとしていたのかもしれない。だけど、今の俺には無理だった。ずっと長いこと、“変なこと”に巻き込まれ続けてきた。その過程で、俺の精神は気が付かないうちに徐々にすり減っていて。大切な仲間を亡くした。自分一人の選択で、大量の人々の命を奪った。夢の中だったとはいえ、己の正義を守るために親友をこの手で殺した。······流石にそれだけのことが続けば、元気が取り柄だと自負している俺でも堪えないわけがなかった。
 俺はずっと、誰もを救えるヒーローに憧れていて。誰かの命を救えるのなら、自分の命を投げ出したって何も惜しくはないと思っていたけど。でも、そんな俺の夢は呆気なく壊された。あの日、大量の人々が死んでしまうことを知っていながら、その中に自分の仲間も含まれていることさえも知っていながら、“正しい世界”を守るために俺一人の意見で決断を下したあの時に、俺はもう自分が理想に届かないことを悟った。だからせめて。せめて、俺のせいで死んでいった人々の思いを背負って。悲しみも、無念も、後悔も、何もかもをこの背中一つに全て乗っけて。何があろうと何が起きようと何としても俺は生き延びなければと、そう考えるようになった。それが俺に出来る罪滅ぼしだと、そう願って。
 その気持ちは今この時においても変わってない。“アイツ”を見た瞬間に自分の中の色々なものが壊れていった音が聞こえた気がしたけど、それでもこの誓いだけは穢されることなく持ち続けることが出来た。しかしそれと同時に俺は、今まで生きてきた中で一度も感じたことなどなかったとてつもない破壊衝動を体験させられている。抗うことの出来ないこの衝動の中で、俺は見つけたんだ。こんな俺でも、まだヒーローになれるかもしれない道を。
 その可能性に気が付いた時、真っ先に頭に浮かんだのはナナシの存在だった。あいつとは何か不思議な縁でもあるのかってぐらい、共に“変なこと”に巻き込まれることが多かった。暴言が多く、口が悪くて、他人と馴れ合うことなんてせず、むしろ喧嘩を売っていくような、そんなとんでもない俺よりも年下の神父。ナナシにどう思われていたかなんて知らないけど、俺はずっとナナシのことは友達だと思って接してきた。それは今も同じで、この気持ちは不変のものだと知る。とても大切な存在なのだと思い知る。
 ナナシはとっても可哀想な奴なんだ。俺も相当の数、“変なこと”に巻き込まれてきた自覚はあるけど、ナナシに至っては恐らくそんな俺以上の数、きっと本人も数えることなんてとっくにやめてしまったであろうほど、“変なこと”に巻き込まれてきているのだと思う。そしてその数だけ、“アイツ”みたいな悍ましい奴らとも会ってきたんだ。そんな理不尽なことがあっていいのだろうか。いや、いいわけない。
 俺は知っている。“アイツら”はいつも、俺たちが過ごす「日常」のすぐ近くに居て、あっさりと「日常」を「非日常」に変えてしまう。「現実」が「非現実」に侵されていく。それを止める術もなければ、“アイツら”を根絶やしにする術も残念なことに俺たちは持ち合わせていない。このままだと皆は、ナナシは、これからも何の前触れもなく理不尽な目に遭い、理不尽な人生を歩まざるをえなくなる。そんなのは、あんまりにも可哀想だ。
 だから俺は、そんな人達を救ってやりたいと思った。俺のこの手で、その理不尽な人生を終わらせて楽にさせてやりたかった。“アイツら”なんかに大切な人達を殺されてたまるか。苦しめさせてなどやるものか。だったら俺がやる。その人の幸せを願って、俺が殺す。
 本当はさ、真っ先に浮かんだナナシを。俺がこの世で一番可哀想な奴だと思ってるナナシを、殺してやりたかったんだ。今すぐ楽にさせてやりたかった。その意思だけを胸に、仲間に騙し討ちされ一人にされた俺は悠々と帰り道を辿ってたってのに······まさかこんな不意打ちを食らってここでジ・エンドなんて、考えてもみなかったな。おかしいな、俺の頭の中じゃこのまま無事に日本に帰って、ナナシの元に向かって、サクッと一瞬で楽にさせてやるつもりだったのに。あー、格好悪い。大切な人を救うことも、世界中の人々を救うことも出来ない。やっぱり俺は、どう足掻いてもヒーローなんかにはなれなかったんだ。
「あー······ごめんな、ナナシ」
 最期に吐き出したこの気持ちが、この冷たすぎる風に乗ってナナシの元まで届いてくれることを願いながら、俺はゆっくりと瞳を閉じ、一足お先に人生という舞台の緞帳をスルスルと下ろした。



◇◇◇◇◇◇
身内卓は基本的にテキセでセッションが行われているのですが、最後の台詞は実際セッション時に打ち込んだ台詞です。
憧れのSAN値直葬の洗礼を受け、永遠の狂気・犯罪性精神異常を獲得してのロストとなりました。理想的な最期にしてあげられたので親としてはとても満足しています。
同卓者やKP達にこぞって「ラスボス」って言われてたの面白かったです。

2/12/2025, 4:45:57 PM

※美柑(みかん)と杏朱(あんず)の話。百合。



 その日、朝教室に入り声を掛けた瞬間から杏朱の様子は明らかにおかしかった。物凄くそわそわしているというか落ち着きがないというか、それなのに時々上の空になったりだとか、全身でもって「何かありました」と全力で表現してるようにしか見えない有り様。勿論、そんな杏朱を見逃すつもりなどない私は嬉々として理由を尋ねまくった。何があったの~、絶対何かあったでしょ~、ほらほら早くこの美柑様に全てを打ち明けてみな~、などなど。最初こそムキになって否定していた杏朱だったが、私のあまりのしつこさに白旗を掲げ、「······後で話す、から」とだけ告げ、予鈴と共に自分の席へと足早に去って行った。
 さて、と私も自分の席へ着席し、思考を巡らせる。確かに私は玩具を見つけたチンパンジーの赤ちゃんの如くキャッキャキャッキャウッキャッキャと杏朱を揶揄っていた身ではあるものの、実は一つ、切実に当たってほしくない仮説が脳内の隅の方にこびりつき離れてくれない状況に置かれていた。それはズバリ、もしかしたら杏朱は誰かから告白でもされたのではないか? という、最悪すぎる懸念だ。え、どうしよう。「私、その人とお付き合いしようと思うの」なんて言われたら。え? その場で窓から身を乗り出して飛び降りますけど?
 あの杏朱の雰囲気から察するに、どうでもいいことの範疇に収まるような内容だとはとても思えない。流石の私でもそこまで楽観視は出来ないってもんだ。一体どのタイミングで、どんな話を切り出されるのか······あまりにも気が気じゃなくて、いつも以上に授業に集中とか出来るわけがなかった。悶々としたものを抱え続けたまま時間は経過していき、遂に昼休みを迎えた。

 いつも通り前後の机を向かい合わせにくっつけて座り、杏朱と二人でお弁当を食べる。私達の間にはよくわからない居心地の悪い空気が纏わりついていた。いつもだったら私が何やかんやと話題を振ったり、おちゃらけた言動をしたりして、杏朱がそれにツッコミを入れたり笑ってくれたりする幸せなひと時が存在していると言うのに······私は朝の件に関しては杏朱の方から切り出されない限りもう催促はしないと決めていたし、そもそも例の仮説のせいで体中を不安の渦が台風の如く縦断をし続けているため、とてもじゃないがテンション高めに話しかけるなんてことが出来るような精神状態じゃなかった。何なら今胃に収めたばかりのお弁当がリバースしそうだ。杏朱と仲良くなってからこんな空気になるのは初めてのことで、その事実にすら吐きそうになる。どうしてこんなことに······うん、私が調子に乗って揶揄いすぎたからだよね、うん。知ってる、うん。
 杏朱はいつもよりも大分スローペース気味に、まるで作業のようにお弁当を口に運び続けていたが······口に入っていたものを咀嚼し飲み込むと、まだ中身が残っているお弁当箱の上にコトリと静かに箸を置いた。
「あ、あの······ね? ······笑わないで、聞いてくれる······?」
 内容による、といつもの私だったら即答していただろう。でも、杏朱に縋るように見つめられて、何だか頼って貰えてるような気分になっちゃって、たったそれだけのことで私の中から“茶化す”という選択肢は消えた。
「笑わないから、言ってみ?」
「······嘘。絶対笑うもん。私の知ってる美柑はそういう奴だもん」
「へぇ?」
 確かに、“杏朱の知ってる美柑”は、そういう奴だろうね。だって、そういう奴であることを自分で選んだんだから。でもさ、杏朱。私は杏朱が思ってる以上に隠し事がたくさんあるってこと、やっぱりわかってないね?
「絶対笑わないよ。もし笑ったら、絶交してくれてもいい」
「······ッぜ、絶交とか······!! 小学生じゃあるまいし······質悪いからそういう冗談やめて」
「ん、ごめん。でも、それぐらい私は本気だよってこと、伝えたかったから」
「······」
「だから、絶対笑わない。信じてよ」
 自分なりに、真摯に対応したつもりだ。今までの私が全て紛い物だとは言わないけど、そうではない私も居るんだってことを、杏朱には知ってもらいたかった。だから勇気を出して、ほんのちょっとだけ隠していたものをチラ見せした。私がここまでしたんだよ? だからお願い。信じてよ、杏朱。
「··················夢を、見たの」
 数十秒ぐらいだろうか。やや間を置いてから、杏朱は視線を下に向けて話し始めた。
「もう少し大人になった私が居た。髪型が変わってたり、メイクしたりだとかしてたけど、それが間違いなく自分だってわかったし、これが本当に謎なんだけど······それが未来の私だって、夢の中の私は確信してたの」
「未来の杏朱かぁ······どんなふうになってるか純粋に気になるなぁ」
「んー、そんな大幅にイメチェンとかはしてなかったかな? ······それでね? そんな私の横に、もう一人誰か居るの。未来の私はその人と楽しそうに喋ってて、すっごく幸せそうで······でも、その相手の人はよく見えなくて、喋ってる内容は聞こえてくるんだけど声を聞いても男の人か女の人かわからなくって······」
 一瞬、心臓がドクンと跳ねた。別に自分のことを話されているわけじゃないのに。夢の中の未来の杏朱と喋ってるのが私だなんて一言も言われてないのに。まるで自分のことを言われているような気持ちになったのはきっと、私が杏朱に内緒にしている隠し事のせいだ。絶対言わないと決めているのに、隠していることに疚しさを覚え、勝手に罪悪感を抱く、私のエゴが起こす矛盾のせいだ。
「誰なんだろう、誰なんだろう、って気になって······私、必死にその人のこと見ようとしたの。どうしても、気になっちゃって。そうしたらさ、ぼんやーりとしか見えてなかった相手の人がだんだんハッキリ見えるようになってきたんだけど······えと······その······あ~······」
 夢の内容を思い出しながらたどたどしく言葉を発していた杏朱だったが、ここに来て明らかに歯切れの悪い物言いへと変化する。話している最中に徐々に首を擡げて今ではきちんと真っ直ぐ姿勢を正しているのに、その視線だけがやけに落ち着きなく右へ左へ活発に移動を繰り返していた。
「············どうしても続き、言わなきゃダメ?」
「ここまで話したんだし、最後まで言っちゃえば? そしたら楽になるんじゃない?」
「······ん」
 杏朱はコクリと小さく頷いて、胸に片手を当てて深呼吸をし、意を決したような面持ちで私を見る。その決意が込められた眼差しに、射貫かれる。
「······未来で、私と一緒に居た人。私を幸せにしてくれてた人は、ね? ······美柑だった」
 今度は心臓が口から飛び出るかと思った。私の心臓、躍動感ありすぎだろ。いや、でも、だって。夢の中とはいえ、未来の杏朱と一緒に居るのが、私。未来の杏朱を幸せにしているのが、私。······そんなこと聞かされて、嬉しくならないわけないじゃんか。
 歓喜と感動と非現実感の狭間を行ったり来たりしていて言葉を発することが出来ない私を見て何を思ったのか、杏朱は捲し立てるように喋り始める。
「あ、あっははは! 何かこんなことで一人で恥ずかしがって馬鹿みたいだよね! ただの夢なのにさ! いっつも美柑と一緒に居るから多分ひょっこり出てきちゃったんだろうね! 私美柑のこと好きすぎかぁ~?」
「杏朱」
「もし気分悪くさせちゃったらごめんね! 私もこんな夢見てどうしたらいいかわかんなくってさぁ、美柑にもすごく申し訳ない気持ちになったし······でもまぁ、夢だから! 大人になっても美柑が私と仲良くしてくれてるなら嬉しいなぁ~とは思うけどね!」
「ねぇ」
「私もあんまり気にしないようにするし、何なら忘れるように頑張るし、美柑も気にしないでくれると」
「杏朱」
 私は、やけに饒舌にペラペラと話し続ける杏朱の言葉を途中で遮った。何一人で勝手にこっちの気持ち決めつけてんだよ。話聞いてやったんだからこっちの感想も聞きやがれ、バカ杏朱。
「めっちゃ嬉しい」
「······は?」
「杏朱の夢に出れたことも嬉しいし、未来でも杏朱と一緒に居れるのも嬉しいし、私が杏朱を幸せに出来てるなんてマジ最高~~~~~~~~~に、嬉しい」
「は? え? 美柑?」
「だから、絶対今の話、私忘れないから。わかってると思うけど、気分悪くなんて全くなってないし。てことで、杏朱も別に無理して忘れる必要無し」
「いや······え?」
 私の言動でひたすら困惑し狼狽える杏朱の方へ、机に上半身を乗せてグっと身を寄せた。
「未来の杏朱は幸せで、今の私も幸せ。んー、これでおあいこってやつ?」
「~~~······ッ!?」
 杏朱は遂に言葉を失ってしまい、口をパクパク金魚のように開閉するだけとなってしまった。その顔面は、熟れた杏なんて比較にならないぐらい真っ赤で食べ頃そうな色味だった。
 ねぇ、杏朱。こんなこと言われちゃったらさ、私、期待しちゃうよ? 杏朱の未来を貰えるのは私なんだって、馬鹿みたいに自惚れちゃうよ?
 あぁ、でも、そうだよね、神様。“本当の私”を知っても尚、杏朱が私の傍に居続けてくれる確証なんてないんだよね。
 だとしても。それでも。私は誰でもない杏朱に、受け入れてほしい。ありのままの私を。私という存在が抱えている全てのことを。今までずっと言えずにひた隠してきた汚い部分も、全部、全部。
 その全てを、もしも杏朱が受け入れて認めてくれるというのなら······杏朱が話してくれた夢の内容は、きっと現実になる。絶対に私が杏朱のことを幸せにする。絶対にその手を離さないし、隣という定位置からも離れない。······って、思ってるのに。誓えるのに。
 それなのにこの期に及んでまだ胸の内に現れる葛藤に嫌気が差す。この意気地なしめ。
「ねぇ、今の杏朱を幸せにするにはどうしたらいーい?」
「······もう幸せだから、いい」
 意気地なしのクセにこういうことは何の躊躇いもなく言っちゃう、そんな自分は得な性格をしているのだろう。でも私は、こんな自分が大嫌いだ。心の奥底に押し込まれた真面目で大事な話だけ出来ない臆病な自分が、大大大嫌いだ。

2/11/2025, 1:54:12 PM

コアの中心部、機械のワタシのカラダに宿る
コレの正体がずっとワカラなくて、フシギだった。
ロコモコを初めて食べた時、コアが大きく飛び跳ねた気がして、それを伝えたらアナタは嬉しそうに微笑んで、今度はギュッと掴まれたような感覚を覚えたコレのことを、ワタシは未だに理解出来ずにいる。

2/10/2025, 3:57:18 PM

※天体観測部の二人。見る人によってはBLかもしれないのでご注意。



 ただの興味本位で、流れ星マニアの先輩に聞いてみた。
「望先輩って、流れ星に何か願い事とかしたことあるんすか?」
 もはや恒例となりつつある、俺が部活後に部誌を書く様を真正面に陣取りニコニコと眺める先輩。丁度ペットボトルのジュースを飲んでいた先輩のその片手から徐にキャップが落下し、軽い音を立て机の上に着地したそれは、衝撃で一度飛び跳ねた後、やがて静止する。しかし、俺からしてみれば軽いと感じたそれは先輩からしたらどうやら地球に隕石が衝突するのと同程度ぐらいには重々しく破壊力に特化したものだったようで、何も言葉を返してこない先輩を不審に思い部誌から顔を上げた俺は、世界の終わりにでも直面したかのような有り様でペットボトル片手に口を戦慄かせる先輩の顔とご対面することとなる。
「······ゆーやくんって、もしかして······大怪我してる人に対して平気で拷問とか出来ちゃうタイプ······?」
「どうしてそうなった?」
 もう一度言わせて頂く。どうしてそうなった?
「俺にわけわからん属性勝手に追加するのやめてもらっていいっすか?」
 これでもかという呆れ顔を作りながら片肘を机に乗せ頬杖をつきながら先輩を睨めば、「だって!」と先輩はペットボトルを机の上にダンッ! と勢いよく置き、負けじとこちらを見つめ返してくる。せめてキャップを閉めてからにしろ、中身ちょっと机の上に飛んだだろ今。
「落ちていく星の欠片に人間の欲望とかいう汚くて馬鹿デカい荷物背負わせるなんて! そんなの出来るわけないでしょ! そんなのは鬼畜の所業だよ!! 星の欠片が可哀相じゃん!!」
「だからって健全な男子高校生に向かって“平気で拷問出来そう”とかいうクソみたいなレッテル貼るのやめてください」
 いつもヘラヘラしている先輩にしては珍しく、口をヘの字にしてムスーッとした顔をしているが、それだというのに尚も醸し出されるこのフニャフニャ感は多分もう魂レベルで刻み込まれてどうにもならないのだろう。「ゆーやくんってほんとデリカシーないよね!」とか言いながらぷんすこしているが、その台詞そっくりそのままブーメランだろうが。
「じゃあこれは仮に、仮にの話ですよ? 流れ星とか全く関係ない仮にの話で、ただ純粋に、何か願い事するなら先輩はどんなことお願いするんです?」
「えーー? そうだなぁ~······星の欠片にお願い事する人間全員滅びますように!」
「物騒」
 流れ星マニア······否、流れ星過激派はやはり言うことが違う。過激派って怖いな。今後一切この人に流れ星の話題振るのやめようかな。
「ちょっと~~! 真に受けないでよ~~! 半分しか本気じゃないしぃ~~!!」
「半分本気な時点でヤバいってことに気付いてくれませんかね」
 二人の間の見えない心の距離がじわりじわりと広がっていっていることに気付かれたのか、先輩はそんな本気か冗談かわからないフォローを入れてくるが、一つわかったことはこの人はガチでヤバい人間だということだけだ。フォローがフォローになっていない。むしろ墓穴掘ってるよこの人。自分で勝手に自爆してるよ。
「じゃあこっちも聞かせてもらうけどさぁ~! ゆーやくんのお願い事は~??」
「えぇ······」
「もーー! そんなあからさまにダルそうな顔しなくたっていいじゃぁ~ん!!」
「だって、んな急に言われましても······」
「俺だって急に話振られたんだけどぉ~~!?」
 理不尽だー! 先輩虐めるのがそんなに楽しいのー! とか何とか喚いてる先輩はとりあえず放っておいて、自分のお願い事について考えてみる。······考えてみた、のだが。
「いやぁ······ないっすね」
「え~? うっそだぁ~! またそうやって、俺のこと言いくるめようとしてるでしょ~~!」
「いや、ガチで何も思いつかなくて。マジのマジで」
「······マジのマジで?」
「マジのマジで。だから······」
 顔面にデカデカと「疑ってます!」と書いてあるような先輩の様子を見ていたら、急にここまでの遣り取りのくだらなさに笑いが込み上げてきて、俺は伏し目がちに小さく口の端を持ち上げる。
「望先輩の所にたくさん流れ星が来ますように」
「へ?」
「俺自身のお願い事は特にないんで、これで一旦ファイナルアンサーです」
「······」
「そうすれば、汚くて馬鹿デカい荷物背負わなきゃいけなくなる奴も少なくなるでしょ?」
 ね? と首を傾げて問い掛ければ、ぽかんと口を開けていた望先輩の口角も徐々に上がっていって。
「······あはっ。何それ、俺目掛けて星の欠片達が集中砲火? ······最高じゃん」
 その光景を思い描いて興奮しているのか、先輩の瞳孔は開き気味で、フニャフニャ感も今は鳴りを潜めている。やっぱ流れ星過激派ってこえーな、なんて感想を改めて抱きつつ。
「ま、いつかそうなるために流れ星に好かれるよう、今度見つけた時にはお願いしとけばいいんじゃないですか?」
「やっぱりゆーやくんて前世で処刑人か何かだった?」
 お前達のことをこんなにも愛してくれてる人のこと、ちゃんとお前らも愛してやれよな。
 そう、今は見えない星々に願いを飛ばした。

2/9/2025, 4:32:54 PM

黄色い温かな日差しの中
見上げた空は快晴で
喉に詰まって出てこないこの気持ちを吐き出してみたくなって
精一杯の深呼吸をしてみたけれど、こんなことすら
何だかとっても難しくて、息が詰まって苦しくて
かなり遠くに離れてしまった君の背に、未練がましく腕を伸ばすことしか出来なかった

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