※12月にロストした我が家のTRPG探索者の最期の心境。友人の探索者の名前をお借りしてます。
あんなにも悍ましいものを見て、一体誰が正気を保てるっていうんだろう。
······昔の俺なら。こういう“変なこと”に巻き込まれるようになった当時の頃の俺だったら、もしかしたら“アイツ”を見てもケロッとしていたのかもしれない。だけど、今の俺には無理だった。ずっと長いこと、“変なこと”に巻き込まれ続けてきた。その過程で、俺の精神は気が付かないうちに徐々にすり減っていて。大切な仲間を亡くした。自分一人の選択で、大量の人々の命を奪った。夢の中だったとはいえ、己の正義を守るために親友をこの手で殺した。······流石にそれだけのことが続けば、元気が取り柄だと自負している俺でも堪えないわけがなかった。
俺はずっと、誰もを救えるヒーローに憧れていて。誰かの命を救えるのなら、自分の命を投げ出したって何も惜しくはないと思っていたけど。でも、そんな俺の夢は呆気なく壊された。あの日、大量の人々が死んでしまうことを知っていながら、その中に自分の仲間も含まれていることさえも知っていながら、“正しい世界”を守るために俺一人の意見で決断を下したあの時に、俺はもう自分が理想に届かないことを悟った。だからせめて。せめて、俺のせいで死んでいった人々の思いを背負って。悲しみも、無念も、後悔も、何もかもをこの背中一つに全て乗っけて。何があろうと何が起きようと何としても俺は生き延びなければと、そう考えるようになった。それが俺に出来る罪滅ぼしだと、そう願って。
その気持ちは今この時においても変わってない。“アイツ”を見た瞬間に自分の中の色々なものが壊れていった音が聞こえた気がしたけど、それでもこの誓いだけは穢されることなく持ち続けることが出来た。しかしそれと同時に俺は、今まで生きてきた中で一度も感じたことなどなかったとてつもない破壊衝動を体験させられている。抗うことの出来ないこの衝動の中で、俺は見つけたんだ。こんな俺でも、まだヒーローになれるかもしれない道を。
その可能性に気が付いた時、真っ先に頭に浮かんだのはナナシの存在だった。あいつとは何か不思議な縁でもあるのかってぐらい、共に“変なこと”に巻き込まれることが多かった。暴言が多く、口が悪くて、他人と馴れ合うことなんてせず、むしろ喧嘩を売っていくような、そんなとんでもない俺よりも年下の神父。ナナシにどう思われていたかなんて知らないけど、俺はずっとナナシのことは友達だと思って接してきた。それは今も同じで、この気持ちは不変のものだと知る。とても大切な存在なのだと思い知る。
ナナシはとっても可哀想な奴なんだ。俺も相当の数、“変なこと”に巻き込まれてきた自覚はあるけど、ナナシに至っては恐らくそんな俺以上の数、きっと本人も数えることなんてとっくにやめてしまったであろうほど、“変なこと”に巻き込まれてきているのだと思う。そしてその数だけ、“アイツ”みたいな悍ましい奴らとも会ってきたんだ。そんな理不尽なことがあっていいのだろうか。いや、いいわけない。
俺は知っている。“アイツら”はいつも、俺たちが過ごす「日常」のすぐ近くに居て、あっさりと「日常」を「非日常」に変えてしまう。「現実」が「非現実」に侵されていく。それを止める術もなければ、“アイツら”を根絶やしにする術も残念なことに俺たちは持ち合わせていない。このままだと皆は、ナナシは、これからも何の前触れもなく理不尽な目に遭い、理不尽な人生を歩まざるをえなくなる。そんなのは、あんまりにも可哀想だ。
だから俺は、そんな人達を救ってやりたいと思った。俺のこの手で、その理不尽な人生を終わらせて楽にさせてやりたかった。“アイツら”なんかに大切な人達を殺されてたまるか。苦しめさせてなどやるものか。だったら俺がやる。その人の幸せを願って、俺が殺す。
本当はさ、真っ先に浮かんだナナシを。俺がこの世で一番可哀想な奴だと思ってるナナシを、殺してやりたかったんだ。今すぐ楽にさせてやりたかった。その意思だけを胸に、仲間に騙し討ちされ一人にされた俺は悠々と帰り道を辿ってたってのに······まさかこんな不意打ちを食らってここでジ・エンドなんて、考えてもみなかったな。おかしいな、俺の頭の中じゃこのまま無事に日本に帰って、ナナシの元に向かって、サクッと一瞬で楽にさせてやるつもりだったのに。あー、格好悪い。大切な人を救うことも、世界中の人々を救うことも出来ない。やっぱり俺は、どう足掻いてもヒーローなんかにはなれなかったんだ。
「あー······ごめんな、ナナシ」
最期に吐き出したこの気持ちが、この冷たすぎる風に乗ってナナシの元まで届いてくれることを願いながら、俺はゆっくりと瞳を閉じ、一足お先に人生という舞台の緞帳をスルスルと下ろした。
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身内卓は基本的にテキセでセッションが行われているのですが、最後の台詞は実際セッション時に打ち込んだ台詞です。
憧れのSAN値直葬の洗礼を受け、永遠の狂気・犯罪性精神異常を獲得してのロストとなりました。理想的な最期にしてあげられたので親としてはとても満足しています。
同卓者やKP達にこぞって「ラスボス」って言われてたの面白かったです。
2/13/2025, 2:11:33 PM